あんたのせい

たいせー

第1話

私は幼い頃から性への関心が人一倍高かった。

それと比例してかどうかは知らないが、初潮も周りの子より早かった。

そして、大人への憧れも人一倍あった。

『早く大人の女性になりたい、女性の魅力を身につけたい』

そう思って育ってきた。

その願望からか、周りの同い年からは「澪奈姉」と呼ばれていた。

もちろん、服にも人一倍こだわっていた。

大人っぽい服装を好んでいた。

しかし、馬鹿みたいにブランド物で着飾るのは下品だと思っていた。

だから、安物でも配色と着こなし方にはきをつかっていた。

そうして何よりも・・・男との経験を積むことにこだわった。

男の経験数は女の質を上げると思い込んでいた。

そうしてある日、一人の男と付き合うことになる。

彼の名は翔馬。

学校屈指の色男だった。

そんな彼こそ、私の女としての質を上げてくれると思い、私は彼と積極的にデートをし、中学一年生では、初めてのセックスもした。

最初は痛すぎて死んでしまうかと思っていたが、回数を重ねるうちに慣れてきて、半年ほどで快感を覚えるようになった。


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ある日、私は彼との行為に今までにない快感を覚えた。

それは、自分でも自分では無くなる感覚がして、恐ろしくなるほどの、トラウマになりかねない程の快楽。

彼のペニスが初めて、私のポルチオを刺激した時だ。

そうして、その刺激を何度か経験する度、私はとある衝動に駆られた


ーこの邪魔なゴムが無くなればいいのにー


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それは単に新しい快感を知りたいだけだった。

まだやった事がない事をしたいだけだった。

それだけだったのだ。

・・・その日は安全日だった・・・だから・・・だから。

誘いに乗ってしまった。

「・・・生でシたいんだけど」

「今日は大丈夫だから・・・いいよ。」

その背徳感は、行為をいつにも増して気持ちよく感じさせた。

私達は初めて、彼と私が一緒になった気がした。


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その月、私に生理が来なくなった。

だが、1ヶ月くらいなら生理不順になったこともあったから・・・

そうやって自分を騙してきた。

友達にもそうやって諭されてた。

・・・でも。

2ヶ月が経ち、3ヶ月が経っても、生理が来なかった。

不安になった私は、ドラッグストアに行って検査薬を買った。

その結果ーー


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もう暗くなった街並み

私達をピンポイントに当てる街頭

まるで夜が私達を面白半分でスポットライトを当てているようだった。

肌寒い夜風が私を煽る


「・・・ねぇ?」

「何?」

「私・・・ここ数ヶ月ずっと生理来てなくて・・・」

「・・・それで?」

「検査薬を使ったら・・・・・・してた、妊娠。」

「・・・・・・ほんと?」

「どうしよう・・・・・・私・・・っ・・・私」

「俺・・・ごめん・・・無理だ」

「ねぇ!!!どうして!!!翔馬が生でシよって言ったんでしょ!!!」

「・・・でも、澪奈だって今日は安全日だって言ってたじゃないか!!!」

「精子が体の中に残るなんて知らなかったのよ!」

「うるさいなぁ!!!!事前に調べておけば良かった話だろ!!!」

「うるさいって何よ!!!『あんたのせいよ』っ!!!!」

もう責任転嫁するしかない状況まで追い込まれていた。

本当は知っていた。

自分のせいだって。

でも、信じたくなかった。

受け入れたくなかった。


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苦肉の策だ。

私は勇気を振り絞って、親に相談した。


「私・・・妊娠しちゃった。」

父も母も激怒した。

「まだ、お前は高校生だぞ!」

「なんでそんなことをしたの!」

そんなことを聞かれたって、起こってしまったのだから仕方がないじゃないか。

そう思った。

だが、言えなかった。

言えるはずがなかった。

無意味な正論を並べられ、どうしようもなくなった私は・・・家を飛び出した。


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私は友人の家を転々としながら、安いモデルの仕事をこなし、なんとか貯金を増やし、この子を産めるくらいの貯えを持つことができるようになった。

そうして、生まれてきた子は・・・・・・・・・


とても醜く見えた。


どうして〝こんな子〟の為に、私は働き、腹を痛めたのか・・・分からなくなってきた。


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夜泣きがうるさい。

糞と小便の始末は面倒。

飯を作るのも面倒。

そうして・・・頼れる人が誰もいない。

全て自分一人。

なんだか悲しくなってきた。

なんだか苦しくなってきた。

なんだか阿呆らしくなってきた。

そうだ・・・よく考えれば・・・

この子さえ居なければ、彼と別れなかった。

この子さえ居なければ、親と喧嘩にならなかった。

この子さえ居なければ、あんな安い仕事なんかやらなくても済んだ。

この子さえ居なければ、あんな痛い思いをすることも無かった。

・・・・・・『あんたのせいよ』


私は夜泣きしている赤ん坊の首を絞めた。

その時の、私を見る淀みのない瞳を私は忘れることが出来ない。

この子には私がどう見えているのだろう。

もしくは・・・見る価値もないのかもしれない。


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私は直後、包丁で自分の手首に深く傷をつけ、風呂場に向かい、熱湯のシャワーを自らの手首に当てた。

遠のく意識の中、鏡に映る私がこう言っているように聞こえた。


『あんたのせいよ』


私は何も言い返すことができなかった。

否、もう出来なくなっていた。

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