第2話メタボ
そいつのスピードを1とするならば、楓先輩と僕のスピードは10。逃走劇はあっという間に肩が付くはずだった。
丁度昼時のオフィス街に現れた窃盗犯を追い詰めていた。オフィス街には似ても似つかないTシャツ姿に、ジーパンから豚の様に伸びる太い足。
楓先輩と別の事件を追って、昼食を摂るために入ったラーメン屋から出た後のことだ。小さく「キャ!」という女性の悲鳴がした。
男がドタドタと地面を揺らせる様に遅速で走る。すぐに追いついた我々だったが、体型で僕達を勝る男は、楓先輩のパンツが見えるぐらいの足を挙げたキックにも太い腕で交し、楓先輩を地面へと叩きつけた。
僕は楓先輩が心配でその場で助けようとしたが、楓先輩は、僕に「何をやっている。お前が追え!」と痛みを堪えて腕を振るう。
僕は、すでに遠ざかる太っちょ窃盗犯を追い駆け出した。
ものの数秒で追いついたが、僕には喧嘩拳法みたいな楓先輩の様な手法はない。
だから僕は、男の大きな背中に飛びかかる。そして首を後ろから持つ様におんぶ状態になった。その時、右から肘打ち、左から肘打ちと僕の体に打ち込まれる男の肘。それをまともに食らう僕は……。
声を張り上げて歓びそうになった。繰り出される肘打ちは、僕にとっては快感への極み。必死に首元を掴んで離さないでいる僕の後ろから楓先輩の掛け声が挙がった。
「そのまま堪えてろ」
その次の瞬間、僕の背中にヒールの衝撃が走った。その衝撃と共に、僕は「ああああ!」と、歓喜の声をあげる。
太っちょの窃盗犯は前のめりに崩れ去り、地面に叩きつけられた。僕の腕先の男の首元から『ゴキッ!』と異様な音が鳴った。
窃盗男の首は無残にも横によじれ、気絶をしていた。
「良くやった多田野」
倒れた後、見上げると窃盗にあった会社員の女性と楓先輩が僕を見て声をかける。
「大丈夫ですか? ありがとうございます!」
「良くやった多田野」
そう楓先輩が声を挙げた時、楓先輩のヒールが僕の太ももを踏んづけていた。
「ああああ!」
声を出した時には、楓先輩は目を輝かせて笑っていた。パトカーのサイレンが鳴り響くまで踏んづけ続けていた。窃盗犯はとうに失神しているのにも関わらずにだ……。
「ほおーれー……。グリグリッ!」
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