SとM【Servant & Me】刑事(デカ)

北条むつき

シーズン1:使用人と僕

第1話SM刑事(Servant & Me:使用人と僕)

「テメー何やってんだあ。今回の山舐めてんのか?」

「はっはい! すっすみません……」

「すみませんじゃねえ! そもそもなあ……」


 この荒っぽい怒り方は楓文香かえでふみか先輩。目元がクリっとした整形でもないに、整った顔立ち。

 タワワに実ったお胸に、括れたウエストから伸びるスラリとした長い足。

 スタイルが良くて、白のブラウスにスーツがよく似合う。男勝りのこの態度。

 でも一番はその黒いヒールをツカツカとさせて歩く姿が堪らなく良い。ってか踏まれたい……。

 否、もとい。我、警官であることを忘れそうになるぐらいに、今怒られているこの瞬間が……。


 快感なのでーす!


「何、ニヤついてんだ! 犯人らしき輩を見つけたら、職質の前に一報入れるのがオメーの仕事だろうが」

「うっすぅ!えへへ……」

「だから何ニヤニヤしてんだってつうの! 話をちゃんと聞いてんのかい!?」

「ハッ、ハイッ!」


 そう、その怒ったキリッとした眼差し。眉を挙げて、怒り任せに指差し棒で指すその仕草。ずっと続かないかなぁ?


「何ボーッとしてんだい、ほらっ行くよ!」

「ハッハイ!」


 思わず見とれてしまったが、バディを組んでいる楓先輩とは、この窃盗事件を担当して三日。

 犯人らしき人物に辿り付けたものの、職質した男に逃げられるという失態をしてしまった僕に対し、楓先輩は先ほどから指差し棒を手にして怒鳴りつけたばかりだった。


 しかしその怒り方が堪らないのだ。僕が職質をした男は、持っていたバッグで僕を殴り逃走。叩かれたバッグの痣が顔に出来たのかと思うぐらいの衝撃だった。でもバッグビンタという行動は、Mの僕には堪らなかった。


 頬を両手で塞ぎ、逃げる男に、「もっとぉ!」と叫んだぐらいだ。その男は異様な顔つきになり逃走した。僕にとっては素晴らしいことなのに……。


 楓先輩と車に乗り込む。

 車を運転していると助手席の楓先輩がタバコを吹かす。その態度が嬢王様のような足の組み方で色っぽい。


 ああ、このままそのタバコを、ぼっ僕のこめかみに……。まあ、それは冗談だけど。その時、無線から一報が入った。


 グレーのジャンパーに黒のマンハッタンメッセンジャーバッグを持った、冬でもないのにニット帽の男が、今、河原町のネットカフェから出てきたとの通報が入った。我々の車は河原町の路地裏に進入してパーキングに停めた。


 目撃情報があった高島屋の路地裏から日本家屋が見える寺町通りへと突き抜ける。我々は男がゆっくりと寺町通りを三条方面へとゆっくりと歩く男の姿を確認した。楓先輩が一言僕に告げた。


「お前は、ゆっくりと後をつけろ、私が先回りして挟み撃ちにする」


 僕は男の後をゆっくりとつける。

 そして楓先輩が男の前方からゆっくりと近づき、男に声をかけようとした瞬間、男はその態度に違和感を感じ、後ろを振り向き、僕の方向へと向かって来る。


「多田野、そっち行ったぞ。立ちはだかれ!」


 楓先輩の声に、僕は、男の前に手を広げ、立ち止まる様に声を張り上げた。


「止まりなさい。さもないとひどい目に合います」


 丁寧な口調で僕は促した。いや、元々Mな僕にはこれが限界だった。

 すると男は、昨日と同じく僕をわかった上でか、メッセンジャーバッグを両手に持ち、僕の顔面めがけて振りかぶった。


 ガツンとした重く鈍い音がしたと共に、殴られたという欲求が爆発した。

 同時に楓先輩の「多田野、大丈夫か」という声が一瞬響いた感覚。僕は膝から、男の股間目掛けて顔面から崩れ落ちた。


 体が痺れたような快感を味わう様に気を失った。


 気がつくと楓先輩が僕の頬を叩いていた。何度も何度も。そしてそれが心地よくて、おもわず笑った。すると楓先輩が「怖えーよ馬鹿」とまた怒鳴った。


 横を向くと先ほどのメッセンジャーバッグを持ったニット帽の男が制服警官に手錠をかけられてパトカーに乗せられようとしていた。


「お手柄だぞ多田野。お前の股間アタックがなければ捕まえられてないからな!」


 楓先輩は僕を褒めながら、顔を引っ叩いた。


「ああああ!」


 そう思わず出た叫びに、楓先輩は訪ねてきた。


「怖えーよ! お前、Mか!?」


 ニッコリ笑い、頷いた僕に先輩は無言になり、黒いヒールで僕の足を踏んでいた。


 かっ、快感……。

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