第21話【LOVERSONLY番外編Ⅼ】


スペイン絵画紀行 最終話(前編)




泣いてる女の夢を見た 


土や泥を投げつけられて 

大勢の靴に踏みつけられ

切り裂かれて燃やされる


描かれた時は女神だった

これから誰かに描かれる


人々に称えられて然るべき女神 

一糸纏ぬその姿


それは人世ならざる者の証


それは俺の絵なのだろうか?

それとも俺が汚して踏みつけた?  


俺はその夢をみて

俺らしくないけど

柄にもなく


夢の中で泣いたんだ



そこは暗闇の洞窟。

そのトンネルを抜けて。

裳裾の如き僅かな光り。

雫の音。


人の声がする方へ。

姦しい音のする巷へ。

導かれて。


辿り着いたのは象牙の塔。 

学生たちで賑わう場所。

いつもの見慣れた景色。 


皆が奇妙な風体をして行き交う。

いつものキャンパスだった。 

気がつけばそこに居た。 


ここは快楽の園に似ているな。


来る度いつもそう思っていた。





優等生やヒロインが通う高校。

ヤンキーみたいな不良もいる。

偏差値とか一体どうなってんだ。


漫画の中ではよくあること。


「なんか矛盾してる」


そう昔からよく言われる。 


なんならこいつら全員バカなのかと。

そんな疑問もわいて来る。


しかし、実技優先、実力至上主義の美大において、それは矛盾していない。 


現にこうして榎本薫は実在する。


「俺は拳で語る男だべ!」


 こう見えて美大生。


「ひいっ!?」


「イー!?」


「お・お俺たち・・べべべ別に厚木のことなんてバカにしてないぜ!」


なんかこいつらも芝居がかって来た。

美大というのは概ねそういう所だ。


「こっちも!ほんの挨拶がわり!小粋な厚木ストのジョークだべ!」


「ははは・・厚着ストって!なんか、あったかそうでイイよね!」


「だベ?」


榎本はにっこりと微笑んだ。


「じゃあ・・僕たちはこれで!」


「それはそれ!これはこれだべ!」 


人殺しのような眼が睨む。  

こいつ絶対誰か殺してる。 

一人ぐらい殺って埋めてる。


「田崎は俺のダチだべ!ダチの悪口を聞いては看過できねえべ!それは名折れだべ?いやさ、そこに直れだべ〜!」


こいつ・・歌舞伎役者の勧進帳か!

めんどくせえのに絡まれた。


榎本以外の学生たちは顔を見合わせた。はは・・なんて顔してんだ?俺たち。いや正気じゃないのはこの男だ。


なにしろこの「えと君は・・確か西洋絵画学科だったっけ?」 

榎本薫ってやつ。


田崎彗と同じく、個性さん万歳大集合の美大の中でも、超のつく有名人だ。


もっとも才能馳せることで知られる、あの田崎彗とは別の意味での悪人。


元暴走ヤンキーの悪名走る。

悪目立ちの男なのだ。


一人でも悪党なのである。


なんとかこのアホを回避せねば。 

飲み込むつばの音が聞こえそうだ。


「親友と書いてマブダチ!この俺の、ダチをカマ呼ばわりするってことは!俺の愛車のケツにもカマほる行為だべ!違うか?あ?」


「あ・・いやその理屈はちょっと、わけわかんないかも・・あははは・・」


「あ?え?お?ん?こら?ぼっきぼきぼきぼき!」


指を鳴らしたいけど鳴らない。

ボイパでぼきぼき言ってる。


こいつ・・やべえやつだ!


1年生の時、最初の中期試験。

大事な大学の課題提出期間。


中古GTRのヤン車をカンバスに見立て、

描いた絵画を提出しようとした。


「屋内提出!出来ないなら不可だ!」


教授に言われた。大学構内に、集合管マフラーを竹槍みたいに立てた車で突入した男。本当ならクビだよ!クビ!


確か助手席には田崎のやつもいた。

族旗を振り回してハコ乗りしてた。


あのフラッグのデザイン・・あれは田崎が描いたものか。やたらスタイリッシュで、かっこよく見えたものだ。 

まるで海賊の旗みたいに見えた。


「ローリング走法だべ!」


ヤンキーホーンの音色が鳴り響く。

今も頭から離れないんだ!くそ! 


ガッデム!ヤンキー!ゴーホーム! 


心の中で舌打ちした。


こいつら美大を何だと思ってやがる!

ここは神聖な芸術の学び舎だぞ!  それも名門中の名門だ! 

なんでまだ在席してる? 

誰か教えてくれ!?  


「大変長らくお待たせしたべ!」 


「別に待ってな・・なに!?」


背中からすらりと得物を抜いた。 

禍々しく見える木製のバットだ。


「そ、それは!」


これでもかと有刺鉄線が巻かれた。

金釘が大量に打ち付けられた。 

すごく危険そうなバット。

殴られたらすごく痛そう。


ヤンキー漫画でしか見たことがない。


「それで俺たちを殴るつもりかよ!?」


榎本は静かに首を振った。


「地元厚木で、神奈川連合との抗争に明け暮れていた血塗れの日々・・こいつを、俺の頭に振りかざして来たやつから、奪ったものだべ!今では、俺の部屋を飾るオブジェ!青春のモニュメントだ!ああ懐かしいなあ!」


榎本はバットを翳して見せた。   


「こんなもんで人を殴ったら・・顔に一生消えねえ傷が残っちまうべさ!」


バットを目の前の一人に放り投げた。


「見よ!伝説のカイザーナックル!」


お手製トートバックから取り出した。メリケンサックが目の前でぎらりと鈍く光った。何でも出て来るバックだ。 


一昔前ならキャンパスそこかしこで、キャリングカートに画材を載せて歩く音が響いたものだ。通称がらがら。


それが本校の主流だった。今は、何でもすっぽり収まる、便利なトートバックが主流となっている。生地から選んで自ら仕上げたお手製ならなおよい。


「これも!喧嘩に明け暮れた血戦の日々の戦利品と・・今ではナイスなペン立てだべ!こんなもん指に嵌めて、思いっきり顔なんて殴った日には、歯の五本六本は持っていかれるべ!」


また放り投げられた学生たち。

そんな物を人に使う度胸などない。 

思わず怖じけて顔を見合わせる。


「ま、それが人として普通だべな!」  


榎本は彼らに微笑んで見せた。  

威嚇や圧をかけるためではない。 


「これがBOCH職専カッター・・これは今も必需品だべ!その先端は30度!よーく切れすぎるんで、気をつけねえと、骨までいっちまうべさ!」


キチキチと刃を出して見せた。


デッサンの鉛筆は自分でナイフで削る。デッサン用の鉛筆は特に削り方が特殊だからだ。皆ナイフの使い手だ。


「ハサミある?」

「ナイフならあるけと」


美大ではよく聞く会話だ。


最近では削鉛器というデッサン専用、便利な鉛筆削りも販売されている。


今までになかったデスケルはデッサンの精度を計る画期的な道具だ。


榎本が美大受験した時、入試学試験で、このデスケルを使っている受験生は、なぜか周囲から軽蔑された。


「ふ・・落ちたな」


なぜか安心したりする。


ツナギで受験する者率多し。


熟練の強者ぶりをアピールするため、絵の具でわざとベタベタに汚す。

バーナーで焼いてダメージをつける。

もう何処かのヤンキーと変わらない。


このように、謎のスパナ等の工具類、鋭利な刃物やペン、ルチャリブレの仮面等・・美大生のバッグには即武器に使えそうな危険物が結構入っている。


「俺はNT・・」

「僕はOLFA・・」


カッターの刃先を見つめて。

それぞれが思った。

すぐに我に帰る。


「何が言いたい!?」   


「こんな、えげつねえ物、アーティストは人に向けたりしねえ!俺もだべ!」


かつては町の暴れ者の不良だった。

高校の先生の車に酷い落書きもした。


榎本に落書きされた美術の先生だけ、榎本の絵の才能を褒めてくれた。


熱心に美術部に入ることを勧め「お前、将来は美大を目指してはどうかな?」そう言ってくれた。


元々は絵を描くのが好きな。

心根の優しい男だった。 

家庭の事情が複雑で。

少しの間ぐれただけ。


暴れて喧嘩に明け暮れ。

倒した相手の顔や体に即噴射。

スプレーで残した数々の痕跡。 

厚木の恐怖!路上のアーティスト!


そう呼ばれていた。


「しかし、こんな得物使って人を脅す輩より、許せねえことがある!さっきも言ったが、もっともっと卑劣で、暴力だべ!そういうやつを見ると・・この身の血が滾るのを抑えられねえ!俺の拳が・・ものを言わせろと言ってるべ!お前らにそいつを渡した以上・・もはや立派な正当防衛!だべ?」


「つっ・・汚えぞ!」


「黙るべし!俺はこの拳で!君たちに愛の鉄券制裁をば!これは愛だ!愛があれば人を殴れる!俺ではなく、お前たちを愛が殴るからだ!さあ受け止めよ・・歯を食いしばるれべ!」


「おいおい・・それは違うぞこら!」


一見ホスト風の若い男が肩を叩いた。


「それじゃあ世界は変えられないぜ」


象牙の塔には不似合いな。 

夜会服のホストはそう言った。


「お前もアーティストなら・・指を痛めるような、そんなバカな真似だけは・・やめとけよ!」


「あんまり飲みすぎるなよ」


そう女性客を甘く嗜めるように。 

彼はそっと耳元で囁いた。 


夜の街から来た黒服の男。

悪者に絡まれた弱者を救う。

正義の味方にはとても思えない。


もっとも、ヤンキーに詰められている奴等からして、異形の怪物コスなのだ。 

手には榎本に渡された得物。 

完全に敵キャラの仕上がり。  


勿論、仁王立ちする榎本も悪人面だ。

誰もいい人に見える人はいなかった。


「田崎彗」


誰かがフルネームで彗の名を呼んだ。


「アフター帰りだ」


田崎彗は悪びれずそう言った。 


なんか知らんが。かっこいい! 

名前の通り彗星の如く現れた!

救ってくれそうな気配。


学生たちの心に希望の火が灯る。


「君たちは君たちでしょうがないな」 


 田崎彗は深いため息をついた。 


「俺のこと、そんなに気になるかな?・・残念だけど俺には選べないから、今ここでいっそ皆で殴り合って、順番を決めてくれ!」


「お前シンナーやってるべ!」

「残念・・近いけどドンペリだ!」 

「どうりで酒くせえ!不謹慎だべ!」 

「万年謹慎野郎に言われたかねえ!」

「なんだとこらタイマンか?おら!」


こいつら無茶苦茶だ!早く逃げた方が身のためだ。それはわかってる。


俺が欲しけりゃ殴りあえだと。

あれ・・それって画家の言葉だっけ。 

バクリじゃねえか!?まさかこいつバイト先でもそんなこと言ってんのか。


気になる。なんか知らんが。

とてもいけ好かないやつだが。

けど無性にこいつ気になるやつ。

アンテナがセンサーが反応してしまう。


「アフターって・・夜のお仕事か?」


「そうだよ」


彗は欠伸を噛み殺しながら答えた。

ちゃんと話したことはなかった。 

つい口をついて出た言葉。


「君たちも俺と探しに行く?」


「探しに行くって・・一体なにを?」


「美の女神さ」 


それは甘美な果実を咀嚼する音色。 

瞳は夢見るように星を映していた。


真の芸術家だけが出逢うことが出来る。人でもあり幻影でもある存在。


「自分だけのミューズさ」 


田崎彗は両手を大きく広げて。

ゲストを迎えるホストのように。

彼らに微笑みながら言った。





【次回予告】


「憤怒の仮面ここにありだべ!パート2!!!」


「あれれ・・前回の予告と同じ入りだ!?」


「当たり前だべ!俺は怒ったべ!」

「へ?なして?」


「前回の予告で、声高らかに!この不祥榎本!主役回でございます!乞うご期待と宣言させておいての・・」


「いいね〜主役回!心が踊るな!」


「結局はお前の当て馬だべ!引き立て役に甘んじて終わりだべ!」


「このお話はロンドンから中世の絵画を巡る・・そんなお話になってます」


「だから何だべ?」


「空騒ぎや、当て馬、さや当てなんて中世の貴族の世界じゃ当たり前!貴族様のたしなみよ!ノブレスオブリージェよりもさらに常識さ!」


「なに!?オードトワレがおかわり自由だと!?オーデコロンなら!男は黙ってタクティクス!ギャツビーもさすのベスコスだべ!さらにはヘアスチック!スティックじゃなくてチックだべ!」


「なにそれ歯磨き?」


「この・・クソホストが!!!」  


「昔・・お父さんが、自分のオードトワレの瓶の蓋を開けて、僕にその匂いをそっと嗅がせてくれたんだ」 


「親父さんとの、男同士の、親子のい〜い話だべな!『いつかお前も一人前の男になったら』的な・・」 


「いや・・これがびんぼうな男の匂いだ!これ大人になってもつけてる男は一生うだつが上がらないか、中高生で、ばんばかふりかけて道歩いてるようなやつは・・必ずお金をたかられるから。この匂いがしたら逃げろ!」


「てめ!親父連れて来いやゴルァ!」


「あれ・・もしかして、さっきのコロンのエピソードって・・」


「俺と親父の大切なメモリーだべ!今でも父親のお気に入りの品だべさ!『お前も、このコロンが似合ういい男になるべ』と父が言ったべ!お前!俺の思い出に便乗したべ!」


「親子で同じしゃべり方」


「まあ、それはすまなかった」 

「わかればいいべ!」

「ではまた次回!」


「パラリ・・ちょっと待てべ!」 

「なにさ」


「あぶなく香りに巻かれるとこだべ」 

「コロンだけにね!」 

「だべ!」


「思ったほどうけないよね」

「そ、それだべ!」 

「なんだべ?」


「せっかく俺がダチの悪口を言ってるやつらを成敗する神回だったのに!」


「そんな回だったっけ?」


「それを・・お前がたしなめて、茶々入れていつの間にやら主役面だべ!」


「だって俺が主役だしい」


「それ言ったらおしまいだべさ!」

「そう!だからお終い!また来週!」


「まてまてまて!なんで今回に限って、そんなにも巻くたべか!?は!?まさかこの後バレンタインの予定とか?抜けがけはずるいぜ相棒!?」


「美の女神と街合わせなんでね」 

「くっ!またこいつ・・!?」


「それじゃ!」

「待つだべ!なぜそう急ぐ!」 

「それはね」

「ふむふむ」


「今回は大学のキャンパスが舞台で、お前や、お前らと、つらつら話してるような展開だ!そうだったよな?」


「だべだべ」


「だから、本編も予告も大して変わらないんだ!いや・・むしろ本編も次話の予告みたいなものだったのさ!」


「なん・・だと・・」


「前話の予告からの壮大な予告だ」


「俺の主役回が単なる予告だと!?」


「だから、調子こいて話してると、まんまネタバレになるわけ!はよ終わらんと!次回の話しになっちゃうよ!」 


「納得がいかねえべし!」


「あきらめが悪いのは男らしくないよ榎本君!そもそもだ!スペイン絵画紀行とか銘打ってるのに日本の美大のヤンキーのヨタ話なわけないじゃん」


「ぐっ・・」


「では次回も・・」


「くくく」

「泣いてる」


「考えてもみるべ」


「え〜なんで!?なんで僕がそんなことまで考えなきゃいけないの!!!(ふくれっ面)」


「考えてもみるべ!田崎ょお・・このお話が投稿される時期、皆さんがこれを読んで下さる季節はバレンタインからホワイトデーに向かう季節だべ?」


「いや、お話の設定は10月だから、現在の季節とか気にしなくて大丈夫です!バレンタインとか?ホワイトデーにわざわざこんな後書き読む人はさだめし不幸な人ばかり・・」


「だまらっしゃいだべ〜」

「ドクロベエ様みたいな・・」


「この時期に主役ともなれば!」 

「だから予告だって!」


「高校時代に美術の才能に目覚めたヤンキーの主人公と!その才能に子供の頃から実は気がついていた、可愛さあふれるヒロインとの、甘酸っぱくも、切ないラブストーリーがいいべ!」


「尺が足りない」


「なら、美大生と、女子大生のミステリアスなラブロマンス・・いいべ!」


「本編でやってるね」


「魔性の美人モデルや絵画講師との、濃密にして官能的な日々・・」


「それは過去の偉大な画家や作品や、モデルとの実話で補完出来るのです」


「怖い顔の軍人さんと、くいしんぼシスターの恋・・マナではなくエロの根源を追い求める勇者と、清楚で可愛そいヒロインの冒険!」


「ぱくりダメ!」


「ロマンスが足りてないべ」

「鉄火場の親方みたいな顔で」

「たたら踏んで焼き殺すぞ!」

「それは製鉄ですぜ親方!」


【榎本薫高3の冬】


榎本「ぜいぜい・・くそ!アイツらこっちが無抵抗だからって、やりたい放題ぼこりやがって!?いてて・・傷口が雨にしみやがる!だべ!」


彗子「薫ちゃん!」

榎本「なんだ・・すばる子・・駅で待ってろって言ったのに・・ぐは!(吐血)」

彗子「いつもいつも約束守らないの薫ちゃんじゃない!?もう喧嘩しないって言ったのに!今夜だけは一緒に過ごせると思ったのに!もう知らない!」 

榎本「けんかはしてねえ」

彗子「うそ・・ならその傷は・・いけない!はやく手当をしないと!」

榎本「なあ・・すば子」

彗子「子供の時みたいな呼び方はもうやめて!もう私たち子供じゃないのよ、今傷口拭くからじっとしてさい」

榎本「なあ・・サンタって2人組らしいな・・お前知ってたか?」

彗子「なによ急に・・サンタさんは本当は二人いて、いい子にニコニコ顔でプレゼントくれるサンタさんと悪い子はムチでしばくムチ打ちおじいさんと・・そんな話よね・・確か・・」

榎本「そうだ・・俺はどうやらこれまでの悪さしてきたつけがまわったらしい・・プレゼントなんてむしがいい話さ」

彗子「わかってなら心入れ替えなさいよ!ぱしっ!」

榎本「いてて・・もう少し優しく・・お前本当昔から変わらねえな」

彗「もう!変わらないのはお互い様でしょ!」

榎本「おしおきのムチは存分に受けたリベンジもねえ・・だから」 

彗子「だから?」

榎本「メリークリスマス!メリークリスマス彗子!俺はからのプレゼントだべ!」

彗子「この絵は・・もしかして薫ちゃん!?この絵を守りたくて・・」

榎本「守りたい笑顔だべ」

彗子「これは私じゃなくて薫ちゃんの笑顔・・だけどありがとう!こんな風に笑ってる薫ちゃん小学校以来よ!」

榎本「そうけ?お前の前ではいつも俺は笑って・・」

彗子「ずっと怖い顔ばかりしてた!」

榎本「美大に行って離れ離れになっても」

彗子「ずっと一緒だね!部屋に飾るよ!」

榎本「ならついでにこれも頼む!」

彗子「ついでにって・・は!?これは私の・・」

榎本「本当に守りたい俺の笑顔だ」

彗子「わあああああん」

榎本「彗・・なして泣く、もう悲しい思いは二度と・・」

彗子「だって・・だって子供の時から薫ちゃんはすごく絵が上手で!私それを知ってたから!みんなに自慢したくて!『私を描いて』って頼んでも全然描いてくれなくて・・今なんてずるいよ!」

榎本「ばっか・・てれくせえ!泣くなすば子のくせに・・だべ!」

彗子「ひっく」

榎本「そうお前には笑顔が一番だべ」

彗子「あ・・薫ちゃん!雪!雪だよ!」

榎本「クリスマスだからな」

彗子「バレンタインでもホワイトデーでもなかったんだね!きゃ!薫ちゃん・・なに!?そんな風に急に抱きしめられたら私・・私・・」

榎本「すば子愛してるべ!お前は俺の帰る場所!離れ離れになっても必ず帰る!愛の帰巣本能!愛の巣箱だべ!」


「榎本薫 愛の無事着陸 完」


「ランディング完了!」

「ご苦労!」

「やれたべ!」

「やりよった!」


「なら本編でやれや!ゴルァ!!!」 

「いや無理無理無理!」



「改めまして!俺の名前は彗星の彗と書いてすばる!田崎彗です!」


「改めましてまして!えのき茸が薫る、森の本格ハンバーグと書いて薫!榎本薫だべ!」


「ん?」

「ん?」


「田崎、お前の名前がすばるなのって、ここで今更説明することけ?」


「そうなんなんだけど〜ほら!この作品の作者ってなまけた人間だから名前とか難読漢字にルビとかふらないじゃん!だから彗星のセイだと思ってる人もいるかと思ってね!改めて自己紹介させて頂いたわけだよ!よろしくね!」


「それはよくないな!怠慢だべ!あの日本の誇る大文豪の夏目漱石先生だって作品の漢字に丁寧にルビをふってるだべよ!自分は大衆作家である・・そんな謙虚さが垣間見えるべ!ネットノベル界のディーバ坂井令和先生に至っては・・」


「そうそう!夏目漱石さんは東大卒で、当時の日本を代表するエリートとしてロンドンにも留学!このお話とも実は縁が深いのさ!」


「ほう?」


「漱石がロンドン留学中に出会ったのは、後の作家活動の規範となる個人主義という思想と、ラファエル前派という、英国に起きた英国固有の美しき絵画の波!それにいたく感銘し心を揺さぶられたと・・著作にも書いているのさ!」


「ラファエル前派」


「そうそう!英国ロマンティシズム絵画の精髄にして、そのファーストインパクトとラファエル前派の終焉とされる【死にゆくオフィーリア】(原題はオフィーリア)は特にお気に入りで。このお話を読んで、英国文化や絵画に興味を持った方なら、ぜひ見て欲しい傑作なんだ!」

「大学の講義で知ってるべ!」


「シェイクスピアの悲劇のヒロイン、オフィーリアが水辺に身を投げて、今まさに死にゆく場面を描いた作品で、その美しいこと!漱石先生も、初期の名作【草枕】では、その作品を絶賛しているのさ!」


「なんと漱石先生が!」


『風流などざえもん』


「流石の漱石先生だべ!」


「ロマンティックと言えば、このラファエル前派のオフィーリアを描いたジョン・エヴァレット・ミレイ、その周辺の画家たち、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハントたちのモデルや妻たちの実話がすごく面白いんだ!詳しくは書かないが・・絵画以上に役者が揃っていて、長編小説が書けるくらい濃厚なんだ!」


「は!それはひょっとして・・ロンドンに戻ってからのお話だべか!」


「いや!それはない!」


「なしてだべ!?ロマンティックな画家とモデルの話ならホワイトデーとかクリスマス向けだべ!?しかもイギリスが舞台なら書いたらいいべさ!」


「ラファエル前派やミレイの絵画は19世紀のロンドンに描かれてな」

「年代も中世!ドンピシャだべし!」


「ナショナルギャラリーじゃなくてロンドンのテートギャラリー所蔵でして・・」


「ナショナルギャラリーには?」


「ない!」


「なんだと!?なんにもねえな!あの美術館!」


「なんにもねえことあるか!あのな!ロンドンナショナルギャラリーは、中世の絵画でもヨーロッパの名画が中心なの!住み分けが出来てんだ!」


「やったらいいべさ別に・・」

「まあ次回の予告でね」

「予告の予告だべか!?」


「小僧!なぜ、我らギャラリーの人間が!むざむざテートの利益になることを・・片腹痛いわ!」


「ひどい・・ごまかしだべ!」

「予告結構やりました!」


「最後にひとつ質問いいだべか?」

「なんだべ?」


「本編に出て来た『俺が欲しけりゃ殴り合え』とか女性にぬかした鬼畜画家は誰だべ!?炎上案件だべ!実名晒せや!」


「中世の人じゃないし」

「だからその謎のこだわり・・」

「次回スペイン編のラストでね!」

「あ・・それはしっかり予告!」


「最近作者はYouTubeで山田五郎さんが始めた素敵な絵画ブログ「大人の教養講座」楽しく見ております!」


「山田五郎さん・・あの頭がキューピーみたいな・・」


「ごほ!げほ!」


「あ、頭がキュートでキューピッドみたいにお優しい賢人のお方だべな!」


「そうそう!わかりやすくて、すごくためになるのでオススメですよ!」


「その五郎さんのサイトがどうかしたべ?」


「実は、ラファエル前派とか、その周辺の画家たちのスキャンダルや、恋愛模様は、そちらにとても詳しく紹介されていて・・こちらの作者としては、パクリと言われるのを避ける意味でも、同じ画家さんのお話は極力避けたいと思います!まる写ししたらそりゃ面白いんだけどねえ・・」


「なるほど!バカはバカなりに色々考えてるだべ!しかし古典の絵画とか音楽とか版権とか問題ねえべさ!」


「それが、例えば超有名な画家さんの作品とか取り上げる場合は、許可とか掲載期限とか、場合によっては結構な、金額が必要らしくて。五郎さんのサイトでも、ある有名画家の特集するのに視聴者の会員さんから寄付を集めて、ようやく実現した・・らしいぜ!」


「この作品は文字で画像が無いから」

「そうそう!そういうこと!」


「もし…もしもだべ?この、お清め日和が映像化とかされたら?本編には有名な絵画は出て来ねえが・・こっちは?」


「もちろん番外編は全部カットだ!」

「げげ!じゃ!やる意味ねえべ!」

「意味ない言うな!俺は既に本編にも順レギ内定の通知を・・」

「今・・なんか言ったべか?」


「ん?」

「ん?」


「では次回も!お清め日和スペイン編最終話よろしくお願いします!ガチャガチャ・・」


「なにか・・さっきから田崎のトートバッグかガチャガチャうるさいべ!ちょっと中身見せるべ!」


「な・・やめろよ!プライバシーが!?」


「そもそも美大生のバッグには、プライバシーじゃなくて、夢と画材しか・・なんだべ!?この大量のドンペリ!そして大量のプレゼント!?こら待て!田崎!どごいくべ〜(怨)」


「だから!美の女神に会いに・・こら!?やめろ!襟を掴むなって!?」


「くくくく首筋にキスマーク!?お前どっから来て一体どこに行くべ!?」


「それも次回で!」


「キサマ!どこに行くか言え!どうしたら行けるのだべ!教えて欲しいべ!その女神とかのいる国の名は!?」


「パラリラ」


「その国の名はバラリラ!何処かにある教えて欲しいユートピア!いつの日も口ずさんでいたこの言葉!これは・・灯台元暮らしだったべ!」


『パラリ〜ラ』

『バラリ〜ラ』


『次回も読んでね!』

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