第19話【LOVERS ONLY番外編Ⅹ】


スペイン絵画紀行へようこそ!後編1



この星の軌道上には既に数多の人工天体が存在する。これまで、世界各国で打ち上げられた人工天体は7600機。

現在も稼働中のもので約4400機


その用途は実に多種多様だ。


具体的な目的は軍事、偵察、通信、放送、地球観測、航行、気象、科学、アマチュアの娯楽・・人工衛星である。


地上から高度750m付近の低軌道上に、

人工衛星を多数打ち上げる計画。


宇宙に携帯電話端末のエリアの拡大、さらなるネットワークを形成する。


もし実現すれば世界の何処にいても、煩わしい端末の圏外は解消される。


小さな端末さえあれば。


世界中にある禁足未踏の秘境から。 

一般人が訪れる事が叶わぬ場所から。

LIVE映像も共有出来るようになる。


田崎彗がまだ院生ではなかった頃。 

そんなニュースをちらほら耳にした。


「ほんまかいな」  


当時はずぼらな美大生だった。

田崎彗は部屋のベッドに寝転び。

端末の液晶画面を眺めていた。 

思わず舌打ちする。 


「また画面が反転した!」 


画面のロックの仕方がわからない。

彼は美術以外は不器用だった。

 

まして、人工衛星やロケットの仕組みなど皆目わからない。興味もない。


手にした携帯端末の中のICチップや、アルゴリズムなんて言葉「自分には一生無縁なものだ」そう考えていた。 


それでも液晶の画面に映る美術品を、ザッピングするように眺めている。


子供の頃から彼はずっとそうだった。

古びた美術書が端末に変わっただけ。

そんな時間が何より好きだった。




それは太古の絵画の回廊を巡る旅。

スペイン北西部に現存する望楼。

最古の壁画洞窟アルタミラ。


中世のすべての時代を生きた人々。

如何なる王であれ教皇であろうと。

その存在を知る者はなかった。


その洞窟に壁画が描かれて間もなく、

洞窟の開口部は約13000年前に起きた、落石により閉ざされた。


再び入口が発見されたのは1879年。


幸運にもこの落石により外気は遮断された。理想的な保存状態であった。


1879年。この地の領主であり、法律家であり、アマチュアの考古学者でもあった人物。マルセリーノ・サンス・デ・サウトゥオラ侯爵。


侯爵には5歳のマリアという娘がいた。

そのマリアによって偶然発見された。


侯爵は洞窟に描かれた壁画を見た。

旧石器時代のものであると考えた。


自身の領地からの歴史的発見である。

侯爵の歓喜の程は想像に難くない。

侯爵は1880年に論文を発表した。


しかし当時は、旧石器時代の絵など、その存在すら信じられていなかった。


学界は「侯爵の捏造が濃厚」結論づけた。功名心のためと揶揄された。


20年ほどの間に、他の地でも、幾つかの洞窟壁画の事例は報告されていた。


これらの壁画の発見に対してすべて、

否定的見解が圧倒的多数を占めた。


しかし時代が1900年代に入る頃には、考古学調査の分野において、科学技術は飛躍的な進歩を遂げていた。


遺跡の年代解析に於いて、放射性炭素の特性を活かした技術が転用され、非常に精度の高い調査が可能となった。


ラスコー洞窟がフランスで発見されたのは1940年。ショーベ洞窟が発見されたのは1992年になってからだ。


アルタミラの洞窟壁画は間違いなく、旧石器時代の絵であると認定された。


しかし自らに科せられた捏造者の汚名が晴らされる時を待たず。マルセリーノ・サンス・デ・サウトゥオラ侯爵は、晩年を深い失意の中で過ごした。


1888年、57歳でこの世を去っていた。


侯爵の死から15年後、侯爵の論文を否定した、トゥルーズ大学のカルテラック教授は、洞窟壁画に関する肯定的な論文を発表した。かつて自身が侯爵の論文を否定したことを深く謝罪した。


アルミタラ洞窟壁画が発見されたのはは、まったく偶然からだ。


しかし侯爵は、1869年に地方に住んでいた猟師から、洞窟に関する話を聞いたことがあった。


当時はさして興味を持てなかった。


「1878年にパリの展覧会を訪れた際、旧石器時代の展示物を見て、洞窟壁画の存在を察知、確信を得た」


そう彼の論文に書き遺している。



絵画を前にした時。

人は違う夢を見る。


学者は学者の夢。

画家は画家の夢。


アルミタラの最深部に辿り着いた。

考古学たちはひとつの夢を見た。


夢というよりは仮説だった。


その、仮説の根幹となった遺跡とは、

アルミタラ洞窟最深部に描かれた、

ヒトの顔の壁画付近にあった。


動物の壁画を見てのことだった。


【馬の尻尾】と名付けられた洞窟の最深部。その行き止まりにある、ヒトの肖像画を見ても、考古学たちは誰もそれをバスク神話や、その最高神マリと結びつけたりする者はいなかった。


もしいても一笑にふされたはずだ。


マリは確かに太古より豊穣を祝う女神である。その伝来は古代ケルト人によって齎されたとされる。


その神話伝来は確かにカソリックや、古代ローマ人の渡来よりも古き波だ。

しかしこの時代より遥かに後である。


『アルミタラの洞窟に描かれた動物たち。それは狩猟による収穫の豊かさ、その祈願を壁画に描いたものである』


考古学者はそう判断した。


寧ろ、彼らの興味と検証は、洞窟の壁と天井に描かれた壁画の画風の変化、その技術の進歩と推移に及んだ。


ヒトが覚束ない足元を照らしながら、洞窟の入口から奥へと進みながら。

描かれたであろう。壁画群。


それは当然先に進めば進むほどに、

ヒトは絵を描き慣れて行ったはずだ。


実際、洞窟の壁画はその先へ先へと、進むごとにその完成度を深めている。


にも関わらず、最深部へ到達した時、単純な線刻画が目につくようになる。


より複雑で、遠近法や躍動が加えられた壁画の技術。それが行き止まりで、先祖返りして何故か退行している。


これは何を意味するのか。


その壁画を洞窟の外で発見されたものと比較する。それは、今まで見てきたマードレーヌ期の壁画とは異なる。


さらに古い地層のものではないか?

もう洞窟は行き止まりだ。


考古学たちはその答えを得るため、

洞窟最深部の地面を掘り起こす作業を行った。発掘は細心の注意を要した。


そこから多数の骨器が出土した。

あらゆる土器よりもさらに古い。

考古学的含有層の発見である。


最古の人類たちが覚えた狩猟で得た、動物の骨を用いて作った遺物。

最古のヒトの道具である。


洞窟に描かれた壁画は、紛れも無くソリュートレル文化期に属する、マードレーヌ文化期の年代に描かれたもの。

考古学者たちはそのように判定した。


しかし洞窟最深部の線刻画たちは明らかにその年代より遥か昔に描かれた。


洞窟の地面から採掘された骨器。


そこには壁画同様に線刻画が描かれていた。一体これは何を意味するのか。

出土した複数個の骨器の遺物たち。


鹿の角の断片。  


右を向く鹿の図画。  

深堀の線で描かれた鹿。

骨器全体の破損が激しく。

見て取れる絵は一部のみ。


牛の柄の角片。

断面は平たい形状。 

タガネの一部と思われる。

刃の部分に牛の頭部の画。

幅広の線刻画にて描かれ。

鼻先、鼻孔、目まで確認出来る。 


鹿の角で作られた楔。

紡錘系のモチーフ。

無数の横線の装飾。


山羊の柄角片。

左に山羊の頭部と背中。

その角は長く複雑に分岐。

湾曲遠近法で描かれている。

右に描かれた動物は判別不能だ。


投げ槍の断片。


動物の柄指揮棒の断片。

全周幾つかの動物の柄。


この場合の指揮棒はオーケストラの指揮者が持つようなタクトではない。

祭祀に使われた道具だ。


或いは石器を作る際や弓の調整に使われたものでは。そんな説もある。

その使用目的は依然定かではない。


重要なのは、アルタミラの洞窟から出土した骨器。これらの道具に描かれた絵や柄だ。それは、さらに古い地層の時代に作られ使用されたものだ。


アルタミラよりさらに古い。

古代壁画が眠る洞窟の存在。


それが考古学者の見た夢だ。


鳥の翼に似た牝鹿の肩甲骨。

発掘された骨器のひとつだ。


アルタミラのソリュトレール、マードレーヌ文化期、それよりも古い年代に描かれた、図画と文様の施された。


石と骨の翼。 


学者たちの思いを乗せ羽撃いた。

彼らを探索の旅へ駆り立てた。





【次話予告】


「肩甲骨は翼の名残!」


「みんな飛べないエンジェルだべ!」


「羽ばたけ!」 


「みんな俺たちの羽ばたき聞くべ!」


「榎本!お前の、その背中にも、才能という名の輝く翼があるんだぜ!」 


「なに!?それは本当だべか!?」 


「榎本よ・・お前ならば!あの世界の、てっぺんまでも飛べる!この俺にはわかっているさ!」


「ああ・・飛びたいべ!あの空に輝く熱く燃える!アート界の太陽に手を伸ばして・・でも、人間は悲しいかな、羽がない・それが悲しき現実だべ!」


「そんなお前に!テッテレー♪」


「おお!輝く天使の翼!田崎!お前いつの間にそんな大作を!すごいべ!」 


「こんなこともあろうかと!日本に行く前に、夜なべして作ったんだ!トランクに入れて、税関抜けるのに苦労したぜ〜」


「田崎君!君ってやつは・・絵画の才能だけじゃなくて!造形でも天才だべ!尊敬をせずにいられないべ!」


「さあ・・この羽を背中に!そしてパウダーをひとふり!パラパラパララン・・」


「なんて綺麗な!なんの粉だべか?」


「これはガラムマサ・・いや!ティンカーベルの魔法の粉だ!」 


「ティンカーベル!?この粉で飛べるべか!?」 


「そうだ!このナショナルギャラリーからも見えるはず!ケンジントンパークの!あの永遠の少年の銅像が!」 


「それはまさか!?田崎お前は!?」


「ピーターパンと呼んでくれ!」  


「さっきまで、俺はパンクの画家パンクシーとかなんとか・・」  


「ちっちっち!それはピクシーの聞き間違いさ!心が汚れてしまった大人には僕の本当の姿は見えないのさ!」 


「そうか!日本ではティンカーベルは妖精と訳されるがピクシーだべ!」


「小さな羽と・・ティンカーベルのヒクシーの粉さえあれば!人はみんな、誰でも自由に空をトべるんだよ!」 


「I Can Fly!」

「You Can Fly!!」


『We Can Fly!!!』


「さあ飛べ!榎本!ここはロンドンギャラリー!芸術の最前線基地だ!お前が世界に羽ばたく日は来た!まったくもって、超おあつらえの大舞台じゃねえか!?出撃準備はいいか!!!」 


「ウオッ!!!」 


「さあ!最上階のイートウイングの屋根まで駆け抜けるぞ!」


「相棒!こうなった俺たちのことを、何人たりとも止められねえべ!」  


【ナショナルギャラリー最上階】  


「はあはあ・・ようやく辿り着いたべ!」 


「せいぜい・・さすがに運動不足だな!」 


「こら!田崎!榎本!お前たち勝手に列を離れて何をしている!」  


「は!しまった!?ゼミデウス(教授)がポリ(警備員)を連れてやって来たべ!このままでは、拘束されてしまうべ!美術館の前で正座だべ!修学旅行のあのトラウマがよみがえるべ!もうおしまいだべ!」


「そんなことは・・させねえよ!」 


「は!?田崎何をするべ!?」  


「おい!こら!?田崎なにをする!?貴っ様ぁ!私に逆らうと退学に処す!道を開けろ!?その手を離せ!?尖った頭で私をつつくんじゃない!?」 


「俺の友が・・ここから羽ばたこうとしている!邪魔はさせない!」   


「よし!わかった!榎本お前も退学だ!好きなだけ大学から羽ばたけ!」


「ええ・・」 


「ぐはっ!?榎本・・俺にかまわず・・今すぐ飛ぶんだ!俺の鼻薬が教授を止めてる間に・・飛べ!」


「わかった!すまねえ田崎!ぱたばたぱた・・飛べる!田崎!お前の翼で・・俺は空を飛んでいる!空を飛んているべ!?」   


「当たり前だ!俺が白蝋で作った翼だ!ネバーランドだって、神様のいる空の天辺だって・・自由自在だ!」

 

「飛べる!飛べる!これなら!何処までだって飛んていけるべ!」  


「榎本・・いい人に拾われろよ!」 



さて・・榎本もいなくなったことだしし。ここで前回少し好評だったギリシア神話の続きでもしようかな。   


【ギリシア神話:イカロスの翼】 


「・・以下省略」


「ちゃんとやれべ!ゴルァ!!!」


「だって知ってる話じゃん!」



イカロス(もしくはイーカロス、ラテン文字表記ではイカルスとも発音される)ギリシア神話において、伝説的な大工職人のダイダロスと、ナウクラテーの息子。母ナウクラテーはクレータ島の王ミーノースの女奴隷であった。


迷宮ラビュリントスの攻略法。  


英雄テセウス。そのテセウスの敵であったミーノス王(ミノタウロスの父である)王からテセウスを救わんとした王の娘アリアドネー。 


彼女に迷宮の攻略を教えた罪で(以下複雑になるので省略)ダイダロスとイーカロス親子は王のとばっちり・・いや不興と怒りをかった。


親子は迷宮ラビュリントス(塔という逸話もあり)に幽閉されてしまう。 

迷宮には怖い王の息子ミノタウロス。


職人親子は蜜蝋で鳥の羽根を固めて、翼を作る。そして翼で空に飛び立つ。

見事迷宮からの脱出に成功する。


その際に父ダイダロスはイカロスに「翼の蝋が、海の湿気でバラバラにならないよう、海面に近付きすぎてはいけない。翼の蝋が、熱で溶けてしまうので、太陽にも近付いてはいけない」そのように忠告した。


しかし「自由自在に空を飛べるぞ!」そうイカロスは自らの力を過信して、文字通り舞い上がってしまう。


「太陽にも到達できる!」


そんな傲慢さから太陽神ヘーリオス(アポローン)に向かって飛んだ。


太陽神の怒りに触れたイカロス。

太陽の熱で蝋を溶かされ墜落死した。


この神話は説明不要なほど有名です。しかし父子は追放され幽閉はされず。親子は船でクレータ島を脱出する。


2人は別々の船に乗り込み脱出。 

イカロス帆船をうまく操れず。 

船は転覆・・イカロス溺死、 


あるいは船から降りる際。

誤って海に落ちて溺死。

そんな異説もあります。


「イカロスにマリオ死亡のSE♪♫」


《おしまい》


「ちょっと待つべ!太陽に近づけば近づくほどに・・汗が出て止まらねえべ!なんか・・田崎のくれた翼が熱でどんどん溶けていくべし・・」


「この神話から学ぶべきこと・・」 


「行き過ぎた文明のテクノロジーと、神をも恐れぬ人間の傲慢さ、それは、やがて破滅を呼ぶ・・だべか?」 


「ぶぶー!違います!」


作者『実はこのお話、スペイン編最終話になるはずが、結構な長さになってしまったので・・3話に分割しました!』


「次話は・・蝋の羽根が溶けた榎本君が空から落ちて来るスピードで更新されるでしょう!それでは次話!」


「次回予告・・相変わらず内容なしのすっかすかだべ!はっ!?そうか!榎本わかったべ!この作者「今回は内容地味がとか、読書様がついて来てくれるか・・」不安になると、次回予告がやたら長くなるべ!なんとかこう!手を変え品を変え、次も読んでもらおうと・・なんて姑息だべ!男なら、作品だけで堂々と勝負するべきだべ!」


『撃ち落とせ!』


「では最速更新の次回も読んでね!」

「次回はどこに不時着するべ?」


『行く先は背中の翼に聞いてくれ』 


「葉っぱだべ!」 

「葉っぱの羽な!」


「次回もまた読んでね!」 

「バラリラ飛ぶべ!」



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