第9話 『休息』
―――ヴァラモスの邸宅を出てから約1時間後。
「スライムー・・・疲れたー・・・。」
「魔王様しっかりしてくださいよ、そんなことでは勇者に勝てませんよ?」
「そんなこと言ったって、こう山道ばかりじゃきついって・・・電車とか飛行機とかで行けないの?」
「この世界にそんなものありません、仮にあっても乗るお金はないんですけどね。全く、漫画の読みすぎです」
「そんな母親みたいなこと言わないでよ・・・」
「魔王様、もうすぐロランの街に着くから頑張って!」
そういってヴァンパイアは小さな蝙蝠の姿になって、小さな傘を差し、魔王の肩に停まって励ましていた。
ロランの街は、コロッセオから約20キロほど離れた、商業と工業が盛んな商人と鍛冶の街だ。近くの鉱山には豊富な貴金属の鉱物や石炭・原油などが産出され、アルメシアに流通する装飾品の宝石や様々な燃料など、そのほとんどがこのロランの街から輸出されている。
そして、このロランの街は独自の自治区であり、石油王と呼ばれる『ルイオ』、宝石王と呼ばれる『リエージュ』の2人が代表として治めている。
ロランには、ロラン議会と呼ばれるものが存在し、ロランで行われる立法・行政・司法そのすべてを取り仕切るものである。議長を務める『エビル』はロラン第3位の権力者で、一流の鍛冶職人でもあり、そして勇者が抱える元老院のメンバーでもある。
「なぁ・・・せめて馬車とかさ?あるじゃん?」
スライムはため息交じりに答える。
「馬車の料金知ってますか?今の勇者の体制になってから人間は割引されますが、魔物は料金10倍以上取られるんですよ。そんなお金ないんです。それより羽あるんだから飛んだらいいのでは?」
「あーだめ。飛ぶのは歩くより数倍体力使うから・・・。」
勇者が魔王を倒し、アルメシアを治めてからというもの、魔族たちは肩身が狭い思いをしている。
アルメシアには、いわゆる人間族と魔界の生まれである魔族がいる。魔王統治時代はこの二つの種族は共存していた。人間をひどく弾圧したりというようなことはなく、魔族と分け隔てなく暮らしていたのである。
しかし、勇者の統治になってから魔族は徐々に虐げられつつあるのだ。あらゆる優遇制度は魔族は利用できなくなった。それに不満を抱いたとしても、勇者軍に排除されるだけである。世知辛い。
「あ、ほら魔王様見えてきましたよ、ロランの街!ほら行こー魔王様!」
ヴァンパイアは本来の姿に戻ると、魔王の手を引き駆けていく。
「おいこらヴァンパイア!そんな走るなってー」
スライムたちは宿屋で合流しましょうといって別れた。
「あ、魔王様あっち行ってみようよ」
ヴァンパイアは魔王の右腕に腕を組み嬉しそうに歩いている。右手には相変わらず日傘を差すのでちょっと目立って、すこしだけ気恥しい。
「ん?魔王様どうしたの?」
「いやその、くっつきすぎじゃ、ないかな・・・」
「えーいいじゃん。嫌なの?」
「嫌じゃないけどさ」
「じゃあいいよね」
ヴァンパイアはそういうとにっこりと笑顔をみせた。魔王はその笑顔に少しドキッとする。
「あ、魔王様クレープ食べよ!ね!」
「ちょっ!全く・・・お金あったかな・・・」
魔王は財布の中を確認すると、なんとか足りそうなくらいはあった。コロッセオの大会の準優勝賞金である1万Gが入ったからである。
「優勝だったら100万Gだったんだけどなー」
そう愚痴るも、ヴァラモスは強すぎた。
「魔王様ーはやく!」
「ああ、今行く」
魔王はクレープ屋で二人分のチョコバナナとチョコイチゴを買った。そして歩きながらそれを食べる。
「んー!チョコバナナ、これ美味しい!魔王様一口食べる?」
そういってヴァンパイアは自分のクレープを差し出す。それって関節・・・。そんな考えがよぎったが、口を付けてない反対側をひと口かじる。それはおいしかったが、味はあまり入ってこなかった。
そんな魔王の考えを知ってか知らずか、ヴァンパイアは魔王がかじったところをパクっと食べる。
「ねぇこれ、間接キスだよね。ふふっ」
魔王の顔がわずかに赤くなる。顔を逸らし無言で自分のクレープを頬張って隠した。
「魔王様のも美味しそう、ね、ひと口頂戴?」
ヴァンパイアは上目遣いで下から魔王を見上げる。なにこの可愛い生き物。魔王は自分のクレープをヴァンパイアに差し出す。ヴァンパイアは嬉しそうにひと口食べた。
「やっぱりこっちも美味しいね!ありがと」
ヴァンパイアは満足げにまた自分のクレープを食べていた。そしてそのままロランの街並みをめぐるのであった。
――――やがて歩き疲れた二人はベンチで休んでいた。ヴァンパイアは飲み物を買いにいくねといって露店のジュース屋に行った。魔王はふとレイスソードをみる。魔王と魔族の未来の為に命を捧げたダークナイト・・・。このままではダークナイトに申し訳なさすぎる、と改めて勇者を倒すと心に誓うのだった。
ヴァンパイアは、レイスソードを手にし悲しそうな顔をして落ち込む魔王の姿を見てしまった。なんとか元気づけたいヴァンパイアだったが、やはりダークナイトの代わりにはなれないのかと、落ち込んでしまう。しかし、自分まで落ち込んでいてはだめだと気持ちを切り替え魔王のもとへ戻る。
「魔王様、はいコーラ!」
「お、ありがとう」
魔王は気取られないように、努めていつも通りに接した。
「魔王様、宿屋に戻ったら・・・血吸わせてもらえませんか?」
「ん?急にどうした?いつも聞かずに吸うくせに」
「なんとなくー」
そういうとヴァンパイアは魔王の肩に頭を預けいつの間にか、すやすやと寝入ってしまった。魔王は動くわけにはいかず、みんな見てるぞと声をかけるがヴァンパイアは起きそうもない。しばらく起きるまで魔王はヴァンパイアの寝顔を見つつ過ごした。健気なこの子も護らなければ、と。
―――宿屋に着いた魔王たちは疲れからすぐにベッドで寝ることにした。ロランでの夜が更けていく。
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