第二章 魔界編

第8話 『思惑』

「……ん……ここは……どこだ」



 魔王が目を覚ますと、そこには豪華なシャンデリアや絵画・壁の装飾品などが見える。いかにもお金持ちっぽい部屋だった。


 体を起こすと、全身に激しい痛みが走る。みると腕や体には包帯がグルグル巻きになっていた。



「痛っ……そうか…俺…負けたのか……」



 闘技場で記憶が途切れる前のことがフラッシュバックする。そこへガチャっとドアが開き、ヴァンパイアが入ってきた。



「魔王様!目覚めたんだね、よかった…!」



 ヴァンパイアはドアのところから駆け寄ると魔王に思い切り抱き着いた。



「いててっ…こらヴァンパイア…まったく」



「あ、ごめん!大丈夫?」



 ヴァンパイアは痛がる魔王をみて咄嗟に離れた。魔王は多少痛むが大丈夫と答えると、ここがどこなのかと尋ねた。


 ヴァンパイアが「ここはね…」と言いかけた時、ドアが開きグールとスライムそしてヴァラモスが入ってきた。

グールの手には、イモリの黒焼きが串に刺さっているものが握られていた。



「お~、魔王様起きてるじゃ~ん。はいこれ、イモリの黒焼き~!ケガしたときにコレ効くんだよ~」



 そう言うとグールはそれを魔王の口元に持ってきた。魔王は嫌々ながらもひと口かじる…。得も言われぬ味がする。到底それ以上口に

入れたくなかった。



「グール…ありがとう。けどもういいや」



「え~もったいないじゃ~ん。じゃあ残り貰っちゃっていい?」



 魔王がうなずくと、グールは残ったイモリをパクっとひと口で平らげて恍惚の表情を浮かべている。

よく食べられるなぁと感心していると、スライムも安堵の表情をしてベッドの脇にいた。

そしてそっと水を差しだしてくれる。お礼を言ってコップの水を飲み干すと、視界にヴァラモスが入る。


 ヴァラモスはしばらく黙って窓の外を眺めていたが、魔王が落ち着いた様子を見るとベッドのところへ来て口を開いた。



「すまないが、魔王と二人にしてくれるか?」



 ヴァンパイア達は不満げな表情を見せたが、スライムが促すようにして部屋の外へ出て行った。


 二人だけの空間になり魔王は若干居心地の悪さを感じる。



「15年ぶりになるな、覚えているか?」



 ヴァラモスはそう話を切り出す―――魔王は引っかかっていたものが何か分かった。5歳の頃剣術を教わっていたあのお兄さんだった。



「あの時の…お兄さん、だったか」



「今回のことはすまない」



 突然ヴァラモスは深々と頭を下げた。魔王は突然すぎて声も出ず、なぜと戸惑うばかりだった。そこにヴァラモスが続ける。



「この大会では君が参加すると聞いて、利用させてもらったんだ」



 魔王は未だに言葉の意味が飲み込めない。ヴァラモスは今自分たちが置かれてる状況を話した。


 今、勇者たちは表立っては不干渉条約で魔界には手を出してこなかったが、最近になり水面下では魔界侵攻をどうやら"急いで"進めていること。魔界では四天王の不仲から統制は乱れ、ヴァラモスでもまとめ切れていないと話した。


 そして、その諸々の切り札として『魔王を覚醒させる』それがヴァラモスの思惑だったこと。



「俺を…でも勇者に勝てるのか?」



「今のままでは到底無理だ…奴等は私の10倍は強い」



 ヴァラモスはきっぱりそう答える。


 だが魔王が血の覚醒―――すなわち3つの力とレイスソードを使いこなせば、勇者にも十分対抗できる。いや凌駕できる。


 今回の大会で、自ら魔王を死の淵へ追い込むことで安全に覚醒させた。そして残り二つの力の覚醒はこの世界のどこかの場所で行うこと。

だがその場所がどこかはわからないと話す。それは魔王自身も2年間旅して探してきたが見つかっていないのだった。



 その時だった―――悪魔が突然現れた。



「あははっ!お困りのようだね」



 不快な甲高い声が響く。ヴァラモスは柄に手を添えるが、悪魔は両手を上げ手を振って敵意はないと言った。



「今日は君らに有益な情報を持ってきたのさ、いるだろ?」



 そう言って一枚の地図を魔王に渡す。それにはアルメシア大陸の西のゴルバ山にバツ印が付いていた。


 悪魔が言うには、そこに求める何かがあるらしい。しかしなぜ悪魔はそんな情報を持ってきたのか。



「単なる好奇心、かな。……じゃ、またねー魔王様。」



 そう言い残すと悪魔は霧に包まれ消えていった。


 霧が消え去るとヴァラモスが再び話を始める。


 今のままではいずれ勇者に魔界をも牛耳られる。そして人間がこの世の真の支配者になってしまう。それだけは避けなければならない。

ヴァラモスは魔王に頼んだ。"魔王"による魔界の統治、そして魔都アルメシアの復興を。


 そのためには修行を積まないといけないが、ヴァラモスは勇者と対等に物事を運ぶため、表立って魔王に味方することはできない。

もし勇者に魔王の味方であるということが知られ魔王を擁護すれば、勇者と全面戦争になり長い辛く苦しい戦いを強いられることになりかねない。

それは本当に最後の手段にしたかった。



「表立って協力はできないが、これくらいなら」



 そういってヴァラモスは銀の装飾が施されて黒い宝石の付いたイヤリングを魔王に渡した。



「これは…?」



「それは生前の先々代魔王様から頂いたものでね。ブラックオニキスという宝石でできているイヤリングだ。身に着けると魔界の者ならば、血に反応し魔力が増幅する。」



 魔王はそれを耳につけてみると、不思議な力が体をめぐっているような感覚になった。



「これはすごい…みwなwぎwっwてwきwたwwwとかいいだしそうなくらい」



 ヴァラモスは不思議そうな顔をした。魔王は気にしないでと諭した。



 こうして次の目的地は決まった。悪魔が持ってきた情報は、もしかすると罠かもしれないが、なにも手掛かりがない以上乗るしかないのだ。


 ヴァラモスの邸宅で一日療養した魔王達は、ゴルバ山目指し歩を進める。

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