第7話 『決着』


―――コロッセオ闘技場、魔王の控室。


 ドアがノックされ、ヴァンパイアが入ってくる。



「魔王様ーいる?」



 ヴァンパイアは魔王を見つけると、長椅子に腰掛けうなだれている魔王の横にそっと座った。



「聞いたよ、ダークナイトさんのこと。…その……元気出して、ね」



 魔王は「ああ…」と気のない返事をするだけだった。


 ヴァンパイアはどう声をかけるべきか考えあぐねたが、すっと立ち上がり魔王の後ろに立ち魔王をそっと抱きしめた。


 魔王は多少びっくりしたが、抵抗せず身を任せていた。ヴァンパイアの腕に雫が一つ落ちて滲んだ…。


 幾許かの時が過ぎ、やがて魔王は前に回していたヴァンパイアの手にそっと手を添え、そしてその手をぎゅっと握った。



「ありがとう、もう大丈夫だから」



 魔王のいつもの覇気ある(?)顔に戻り、ヴァンパイアも安堵した。


 もうすぐエクストラマッチが始まる。係員が呼びに来ると、魔王は支度を始めた。 



「魔王様、あたしは観客席に戻ってるね」



「ああ、わかった」



 ヴァンパイアと別れ、気合を入れるためパワーのあがるポーションを飲もうと荷物をまさぐる。しかし

いっこうにみつからなかった。どこにいったかスライムに尋ねると



「え、あれ売っちゃいましたよ。一昨日宿屋代払うのにちょっと足りなかったので」



「えーマジかよ」



 そんな事をしてるうちに係員に急かされ、慌て気味にリングに入場した。


 二人がリングに立つと怒号にも似た大歓声が響き渡る。


 ヴァラモスと対峙した魔王は、背中が凍り付くような空気に一瞬ぞくっとした。


 

「……ようやくだな。魔王の力見極めさせてもらう」



 そういうと――キッと瞑っていた目を開き、鋭い眼光で魔王を睨みつけた。


 客席から黄色い声援が飛んでくる。ヴァラモスはそれに軽く手を振り答える。 


 魔王は体が小刻みに震え、剣の柄に添えた手もカタカタ言っていた。これが武者震いなのか、恐怖からのものなのかわかりかねた。



「ずいぶんと余裕がないな…それでは正直残念だな。」



 ゴングが鳴る。試合開始の合図が鳴っても、魔王はまだ震えていた。どうにかレイスソードを鞘から引き抜き正面に構えた。


 ヴァラモスは風神剣を左手で抜き、構えると―――



「そのザマでは、まともな試合は望めそうにないからさっさと終わらせるぞ」



 そう言い終わるとほぼ同時に魔王のすぐ目の前まで迫って斬りかかった。一瞬のことで魔王は防げなかった。


 右腕に激痛が走る。


 魔王は握っていたレイスソードを地面に突き刺しどうにか立っている。


 傷口を押さえ、どうにか止血した。幸い魔王の体は皮膚の再生が早く、切り傷などによる出血が致命傷にはなりにくい。



「ほう、流石は魔王の血筋。身体能力は素晴らしい……それゆえに惜しい……。」



 ヴァラモスは再び風神剣を構えると魔王に向かい振り下ろす。


 「ガキンッ」と鈍い音が響き、魔王が攻撃を間一髪レイスソードで受け止める。


 その時、腹部に激痛が走る。見ると魔王の腹部をヴァラモスが右手に持った雷神剣に突き貫かれていた。



「魔王様ァァァァァー!!!」



 ヴァンパイアの悲鳴が響く。次第に魔王は意識が薄れていった…。


 魔王は膝から崩れ落ち、ヴァラモスが雷神剣を引き抜くと床に倒れ込んだ。



「―――魔王…。起きろ。」



「ん……」



 寝ていた魔王は体を起こすと暗い闇の中にいた。どこからともなく聞こえる声に手を伸ばし探ろうとするが何も掴めない。



「お前は何しにここへ来た?……まだ来る時ではない―――」



 暗闇に目が慣れて、やがて薄っすらと影のような人のようなものが見えた。


 その影に向かってゆっくりと手を伸ばす。


 そして何かを掴んだような感触があり、握りしめると突然閃光がほとばしる。


 やがて光が収まり握った手を開いて見た。魔王が掴んだ"ソレ"は白く輝く小さな珠だった。



「これは……。」



「それはな……覚醒の珠・アーティファクトだ。」



 頭の中に直接声が聞こえてくる。



「覚醒の珠・アーティファクト……なるほどな、そういうことか」



「そのアーティファクトは気を武にする力。死の淵に彷徨う時、才覚ある者のみが授けられる力。

霊焔の剣・レイスソードによりその身に宿せるだろう…――――」



 そう言うと、声は聞こえなくなり意識が朦朧としてくる。目の前がまた暗になった。



「魔王、戦闘不―――」



 審判がそう言いかけたときだった。



「くっ…」



 リングに倒れていた魔王が左手を付いて起き上がろうと動いた。


 会場がざわつく。



「ほう…まだ動けたか。」



 ヴァラモスは風神剣を魔王に向け突き出す。


 片膝を付いて座り込んだ姿勢で魔王は右手に握った珠を左手に持ったレイスソードに近づけると

珠は発光しレイスソードを共鳴させた。


 すると魔王の体の表面が黒い膜で覆われていく。そしてそこは鋼鉄のように硬くなる。


 この体表硬質化の力こそが、『気を武にする力』であった。



「なんと……土壇場で覚醒の力を………」



 魔王は左手の先を硬質化させ、鋭い刃を創り出した。そしてヴァラモスに勢いよく斬りかかる。


 ヴァラモスは寸でのところで刃を躱し、振り下ろしてくるレイスソードを風神剣で防ぐ。


 ガキンと鈍い音が響き魔王の攻撃はなおも続く。


 ヴァラモスは魔王の攻撃を躱し続け、動きを見切った。



「よくやった、と褒めようかな」



 ヴァラモスはニヤリと笑みを浮かべると、思い切り風神剣を魔王に振り下ろした。


 魔王は右手全体を硬質化させ、ヴァラモスの風神剣を掴み受け止めた。


 ギリギリと音を立てヴァラモスはさらに力を込めて風神剣を押し込む。


 パリンッと割れる音がして、魔王の右手の硬質化にヒビが入る。



「やはりまだ未熟なようだな―――」



 魔王が左手で振り下ろそうとしたレイスソードをヴァラモスは右手に持った雷神剣で弾き飛ばした。



「チェックメイトだ―――弐ノ絶チ・雷斬!」



 ヴァラモスが視認できないほどの速度で雷神剣を振り抜いた。まるで雷が落ちたように稲光がみえたようだった―――


 すると魔王が纏っていた硬質化の膜にひびが入り、割れてポロポロと剥がれ床に落ちる。


 そして魔王は床に倒れ込んだ。



「魔王戦闘不能!勝者ヴァラモス」



 魔王は意識を失った――――

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