第3話 『前夜』
――コロッセオ中央闘技場。3万人ほどの観客を収容できる、アルメシア随一の規模を誇る闘技場だ。
毎年、己の強さを証明するために数多くの猛者たちが、人魔問わず集うのである。
この大会のルールは一つ。魔法の類は禁止。あとは何をしてもいいというルールである。
そして今年は、コロッセオ闘技場創設100周年の記念大会であり、特別招待参加者で一際目立つ存在がいた。
魔界四天王の一人、風雷絶刀のヴァラモスである。2刀流の使い手であり、魔界四天王最強の呼び声高い存在である。
容姿端麗、絶世の美男子としても有名であり、魔族の男性ファッション誌『魔界Mon-mon』では
モデルとしても活動するファッションリーダーでもある。(実に小憎らしい…。)おっとしつれい。
「キャー!ヴァラモス様ー!こっちみてー!キャーッ!」
「何だあの人だかりは」
魔王たちは、闘技大会の受付にエントリーしに来ていた。入り口の前には、なにやら大勢の人だかりができている。
「どうやら、噂のヴァラモスがいるっぽいですね。」
「なんてったっけ?風来坊だっけ」
「風雷絶刀、ですよ」
やがて人だかりが分かれ、こちらに歩いてくる人物が見える。
「じゃあまたね、ハニーたち♪」
「キャアアアアア!素敵!」
ヴァンパイアがその様子を怪訝そうな顔で見ていた。
「感じ悪ーい。あたしあいつ嫌いなのよね」
「ヴァンパイアっちって昔からイケメン嫌いだったもんね~」
魔王たちの前にヴァラモスが通りかかる。
「おや、君は…」
「ん?なんだ?」
「失礼、なんでもないよ。」
そう言うとヴァラモスは歩き去っていった。
「んー…どっかでみたことあるような気がするんだよな…。よくわからんけど、オーラはすごかったな。さすがは四天王か」
「そういうあなたは魔王なんですから、後れはとらないでくださいね」
魔界における四天王と魔王の関係はちょっと複雑で、簡単に言うと本家と分家みたいなものである。
先々代の魔王がいた時代は魔界の統治を四天王たちが、アルメシアの支配を魔王がしていた。
代々魔王の血筋は強力な血の覚醒の能力により、魔界においても第一の有力者であった。
そのため、表の世界であるアルメシアの支配を行ってきたのである。
しかし、アルメシアが勇者の手に落ちると魔界における魔王の評判は失墜し、今や昔のような有力者には見られなくなった。
そして四天王は魔界に勇者の手が及ばないように、勇者と魔界四天王は互いに不可侵条約を取り付けたのである。
「さて、エントリーも済んだし、ちょっと観光でもするか?」
「賛成!あたし服見に行きたい」
「僕はグラディウス博物館見てみたいですねー」
「うちは~…おいしいもの食べた~い」
「あんま金はないからな…?」
――コロッセオ中央闘技場。ヴァラモスの控室。
「どうでした?ヴァラモス様、魔王は」
「…悪魔か。ふん、邪眼を会得していたという話は驚いたが、やはりまだ若い」
「若い芽は今のうちに摘み取っておいたほうが、後々楽になるかもしれませんよ」
「……。」
「では、また。今日のところはこの辺で失礼させてもらいます」
そういうと悪魔は黒い霧の中に姿を消した。
おもむろにヴァラモスは風神と雷神の2振りの剣を取り出した。
「師匠…私は…」
―――15年前、魔王城・玉座の間。
「師匠!」
「なんじゃヴァラモス、騒々しい」
ヴァラモスに師匠と呼ばれたのは、先々代魔王だった。
先々代の魔王は、剣の腕も凄まじく剣術指南もやっていた。
その中でも一番弟子といえるのがヴァラモスだったのである。
「今日も稽古つけてくれるんだろ!」
「あーわかったわかった。そう急くな…仕方のないやつじゃ」
魔王城の中庭に、剣を打ち合う音が響く。
「まだ、少し腰が甘いな」
「はい、師匠…」
「おじいちゃーん」
「お、どうした孫よ。今は稽古中だから危ないぞ」
まだ幼い子供が駆け寄ってくる。
「師匠、その子は?」
「わしの孫じゃ。ほれヴァラモスに挨拶なさい」
「ヴァラモスお兄ちゃん、こんにちは!剣強いね!おじいちゃんいっつも褒めてたよ」
「わっはっは。ヴァラモスは本当に筋がいいからな」
「そんな…///」
「お兄ちゃん!ぼくにも剣術教えてくれる?」
「え、でも…」
「うむ。もしお主が迷惑でなければ、相手してやってくれんか?」
「いいでしょー!お兄ちゃん!」
「ああ、わかった。今度一緒にやろうか」
「わーい!約束だよ!お兄ちゃん」
ヴァラモスはそれからというもの、5歳の魔王に時間があれば剣術の指南をしていた。
「筋がいいのはやっぱりおじいちゃん譲りかな」
「筋がいいってほんと?やったーうれしいな!」
それから数か月後。ヴァラモスは魔界へ戻らなくてはならなくなった。
「お兄ちゃん戻っちゃうの…やだよー…」
「ごめんな。またいずれこっちに来るから」
「約束だよ?」
「ああ、約束だ―――」
「―――あれから15年か…」
ヴァラモスは風神剣と雷神剣を鞘に納め、窓から外を見つめる。
「この目で見定めるか…魔王の資質を…」
一方その頃、魔王たちは。
「魔王様~ちゃんと返せるの~?」
「大丈夫だグール、俺はお好み焼きは得意でな!」
ヘラを2本持ち、お好み焼きを持ち上げる。そして勢いよくひっくり返した。
「お~!すご~い」
「さぁ、あとはソースとマヨネーズかけて、鰹節ふりかけたらオッケーだ」
「いただきま~す」
切り分けたお好み焼きをグールたちはそれぞれ自分の皿に取り頬張っていく。
「あたし、お好み焼きって初めて食べたけど超おいしいね!」
「うまいだろー」
「うちも久々に食べたけど~、魔王様の焼き方超うま~い」
「僕も魔王様が焼いたものは初めて頂きましたが、これはおいしい」
「これなら安いし、まだ焼けそうだからじゃんじゃん食えよー」
「はーい」
3人はおいしそうにお好み焼きを平らげていく。
「そういえば魔王様、おじい様はアルメシア随一の剣術指南の達人だったって聞いたんだけど、剣術は習ったの?」
「へ~、そんなすごい人だったんなら魔王様って超剣術すごいんじゃな~い?」
「はぁ…銅の剣しか持っていなかったことから察してほしかったけど残念ながら…」
スライムはため息交じりにそう言った。
「先々代は俺が物心ついたころから病に蝕まれ始めて、剣術を教われるような体調じゃなくてね」
「そっかー…そうだったんだ」
「先代も剣術からっきしダメだったからね…」
「僕は8歳の頃からの魔王様しかわかりませんが、お城の剣術指南役であるダークナイト様は大変苦労しておられましたね…」
ダークナイトとは魔王家に仕える女性剣士で先々代魔王にも認められる剣術の腕前であった。
「ぐっ…そんな昔のことはもう忘れたなぁー」
「まぁいいですけど、この大会は頑張ってくださいよ」
「善処します」
「あ~、それ絶対しないやつじゃ~ん」
「そんなことはいいけどさ、あのヴァラモスってやつに勝てる算段はあるの?」
ヴァンパイアは率直に尋ねた。
「んー、それなー」
「やっぱ策はなしかー」
「まぁ純粋に戦えば実力は…」
「まーなんとかなるでしょ」
「そんな気楽でいいわけ?あたしたちの一軒家がかかってるんですけど!?」
「そいやそうだったなw」
「草はやすな~」
「なんかこう異世界転生してきた超強い子が仲間になって、バーンって勝ってくれたりしないかな」
「そんなことありえないでしょ」
「そうだよなぁ…」
「ともかく、明日は本当に頑張ってよね」
「さて今日はもう宿屋に戻りますよ」
―――いよいよ、コロッセオ闘技大会が始まる。
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