第2話 『身支度』

 ゴーレムのパーツのおかげで懐がほんの少し潤った魔王たちは、コロッセオまであと数キロのところにあるペリオ村で宿屋に泊まっていた。



「あ、グールおはよう。ちょうどよかった、髪結うの手伝ってくれない?」



「ん~おはよ~、いいよ~。ってかヴァンパイアっち髪さらさらで長いよね~。洗うのとかめんどくな~い?」



「そんなことないわよ。髪は女の命なのよ」



「へ~。よくわかんないわ~」



「そういえば、グールって髪伸びないの?」



「伸び…ないかな~、たぶん~」



「たぶんってなによそれ」



 そこへ魔王が通りかかった。



「2人ともおはよう。今日はコロッセオに向かって大会のエントリー済ませないといけないから早めに出発する、身支度は早くしてくれよ」



「はーい」



「は~い」



「――これでいいかなー。ありがとね、グール」



「いいよ~」



 ヴァンパイアは綺麗なツインテールに結わえた髪を見て満足げにしていた。



「ってかいいね~。巨乳黒髪ツインテは萌えるよね~。おまけに黒ニーソに絶対領域~!」



「萌え…?絶対領域…?なによそれ」



「あ、知らんならいいよ~うんうん~」



 そこへ魔王とスライムがやってきた。



「2人とも支度は終わったか?」



「あ、魔王様。今ちょうど終わったところよ」



「あの、少しいいですか魔王様」



「ん?どうしたスライム」



「魔王様、ぶっちゃけますけど…このパーティ装備弱くないですか」



「んー…たしかにそう言われれば…そんな気も…?」



「僕が思うに、このまま大会に出たとしてもその銅の剣と木の盾、旅人の服では厳しいかと…」



「あ~確かに~、ドラ〇エの初期装備並みだもんね~」



「グール、そのドラ〇エってなんのことだ?」



「魔王様それ以上いけない」



 スライムが話を続ける。



「ともかく、この街に市場があったはずなのでそこの装備屋で武器と防具仕入れましょう」



「そうするか。でも1600Gしかないけど買えそう?」



「…いざとなったら値切りましょう!」



「魔王様、あたしが色仕掛けしてあげよっか?」



「ヴァンパイア、そういうのいいから!」



「あ、魔王様もしかして…ふふっ」



「こほん…ほらさっさと行くぞー」



 魔王はそそくさと一足先に出て行った。



「あん、待ってよ魔王様ぁー」



 ベリオ村の市場はコロッセオの街と大きな港町であるヴェネチアをつなぐ交易路にあるため


 多くの行商人たちが立ち寄り、商売をしているため大変賑わっていた。



「無理だね。ここらじゃこれが底値さ、冷やかしなら帰りな!」



 魔王たちは案の定所持金が足らず、武器の調達は困難を極めていた。



「さー寄ってらっしゃいみてらっしゃい、ここにある盾はどんな矛にも貫かれない最強の盾だよー!どうだいそこのお兄さん!」



 威勢のいい胡散臭そうな武具屋のおやじに呼び止められた。



「じゃあその槍、見せてもらおうか」



「おおー!この槍に目を付けるとは!お兄さん目利きだね!この槍は名槍でね、穂先に止まったトンボが切れたっていういわくがあるのさ。どうだい、すごいだろう?

この槍にかかれば貫けないものはないね!」



「ほう…ではさっきどんな矛にも貫かれない最強の盾とやらをその槍で突いたらどうなるんだ?」



「あ、え、えっとー…そ、それは……ぎゃふん」



 武具屋のおやじは押し黙ってしまった。



「話にならんな」



「きゃはは~。矛盾って今どき古いよね~」



「待ってくれ、お兄さん」



「なんだ?まだ何か用か?」



「これを持ってってくれ」



「ん?これは…」



 それは鈍い青色の刀身の細身の両刃剣だった。



「そいつはヴォーパルソードってんだ。本来なら赤い刀身の剣と2本一対なんだが、それだけでも強力な剣だ」



「なぜこれを俺に?」



「ここだけの話、あんた…魔王だろ?」



「なに?…なぜわかった」



「うちの家系は代々魔王様に武器を収めてたから、小さい頃のお兄さんの顔見たことあってな。

それに、おやじさんにはお世話になってたからそのちょっとした恩返しってとこだ」



「そうか…わかった、ありがたく使わせてもらう。ありがとう」



「いや、いいってことよ。もしかして、闘技大会でるのかい?」



「ああ、そのつもりだ」



「なら、ヴァラモスのやつには気をつけな。あいつは相当な手練れで、今大会の優勝候補だそうだ。」



「あ、そいつ知ってる。魔界四天王の一角。風雷絶刀のヴァラモスだよね」



「ヴァンパイア、知っているのか。詳しいな」



「うん、っていうか結構な有名人だよ魔王様?」



「え、そうなのか?」



「うんうん。割と世間知らずなとこあるよねー魔王様って。なんでも、風神剣と雷神剣っていう2対の剣の使い手らしいね。」



「なるほど、それはやばそうだなぁ」



「まぁでも魔王様もいい剣貰ったんだし、案外なんとかなっちゃうかも?」



「だといいけどね。四天王かー…」



「魔王様なら、きっと大丈夫ですよ」



「スライム、ありがとう。がんばる」



「それと武具屋さん?元魔王様付きの商人として、ああいうアコギな商売するの、僕はどうかと思いますよ?」



「あっはっは…以後気を付けます……。さーて今日は店じまいしよっかな!じゃあな魔王様!確かに渡したからな。」



そういうと、あっという間に武具をしまい、さっさと行ってしまった。



「まったく、困ったものですね。…ですがヴォーパルソードはいい収穫ですね。」



「やはり握っているとわかるが、相当な力を秘めてる剣だなこれは」



「その剣には伝承があるんですが、もう片方の赤い剣がなければ意味がないので今は置いておきましょうか」



「なんかみんな博識過ぎない?色々知りすぎじゃない?」



「魔王様が勉強しなさすぎたんですよ…はぁー…だからあれほど勉強は大事だと常々言っていたのに…」



「あーあーきこえない。ワタシニホンゴワカラナイネー」



 魔王はそっと走って逃げだした!



「お待ちください魔王様!今夜は少しお勉強してもらいましょうか!」



「ごめんてー」



「いや、許しません!今日は付き合ってもらいますよ」



「許してちょんまげ」



「…魔王様。情けないですよ。あと寒いです。」



「あっはい」



―――魔王の頭が痛い、長い夜が更けていく。





「さて、着いたな」



魔王たちはコロッセオの街の城門に着いた。


 コロッセオの街は、街の周囲が強力な外壁に囲われており、街の入り口は20メートルはある鋼鉄の城門で守られている。



「でかい城門だなぁ」



「だよね。魔王城の城門より大きいかも」



「よし、いくか!」

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