第一章 闘技大会編

第1話 『刺客』

「……さま、魔王様、起きてください」



「ん…ヴァンパイアか……。」



 体を起こすと、首筋にわずかにずきっとした痛みが走った。



「にしても血吸いながら起こすのやめてくれないか?」



「ふふっ。だって魔王様の血おいしいんだもん。」



 そう言うと、口に付いた血をペロッと舌で舐めとる。



「あたし達のパーティで血通ってるの魔王様くらいだし?ね?」



「ね?じゃないっての」



 そこへ焼き魚を持ってスライムがやってきた。



「魔王様、起きましたか。朝食です。焚火で焼いた魚しかないですけど」



「ありがとう、いただくよ」



「スラちゃん、あたしのは?」



「ヴァンパイアは魔王様の血飲んでたからいいだろ」



「えー、あたしだって血液ばっかりじゃ栄養偏っちゃうんだよー」



「じゃあ自分で獲ってきな」



「もー、スラちゃんのケチー!」



 コロッセオの街に向かう途中、所持金の少ない魔王一行は森の中で野営していた。



「はぁー…。でも、たまにはふかふかのベッドでゆっくり寝たいわよね」



「宿屋に安定して泊まるには、一人40Gいるからなぁ…」



「魔王様、大会で優勝すれば宿屋どころか一軒家に住めますよ!」



「うちはどこでもいいけどね~」



 そういうとグールが地面から顔を出した。



「お前はどこでも地面さえあれば良さそうだもんな」



「グールちゃんはお気楽でいいよねー。でもさ、いくら魔王様とはいえ各地のボスクラスがきたら勝つのは結構大変かも?」



「たしかに、今はまだ魔王の血の覚醒まではいってないしなぁ」



「血の覚醒?なんですかそれ」



 スライムが尋ねた。



「魔王の血を引くものだけが持つ血の力。かつて祖父、先々代の魔王が持っていた3種の力。『時を読む力』『気を武にする力』『覇を唱える力』のことだ。

父はこれを覚醒できずに勇者に討たれてしまった。」



「先代はなんで覚醒できなかったんです?」



「父は幼少の頃、南の森に住む悪い魔女によって頭に生えている2本の角の内、

右の角を折られてしまったんだ。錬金術の材料として狙われてね。」



「角を?」



「そう。魔王の力の強さは角の立派さで決まるんだ。だから半分ないってことは、まぁそういうことになるよね」



「でもさー、魔王様の家系って魔王なのに崇められてないっていうか支配者って感じないよね。私たちヴァンパイアは別だけどさ」



「僕たちスライムも慕ってますよ!」



「あ、うちも~!グール、今はうちしかいないけどね~。あはは」



「3人とも、ありがとう」



 先々代魔王の支配時代、アルメシアを恐怖で支配できていたのは覚醒した力があったからだった。


 祖父が病に倒れ、代が父に代わると各地でボスクラスの魔物たちが好き勝手に領地を自分のものにしていった。


 魔界から超ボスクラスの魔獣などが現れると、もう手は打てなかったしその力も先代魔王にはなかった。



「さっきから、そこで聞いてるのは誰だ」



 魔王は気配を感じて、茂みの方へ声をかけた。



「おっと、流石は魔王様ってか」



甲高い声で答えて茂みから出てきたのは悪魔だった。



「貴様、悪魔か」



「こんなところで魔王様に会えるなんて光栄だなぁ。」



 ヴァンパイアが魔王の前に歩み出る。



「魔王様に何の用よ」



「オ~相変わらず怖い顔しないでよーヴァンパイアちゃん。かわいい顔が台無しだよ?」



「だまれ!よくもぬけぬけと魔王様の前に顔を出せたわね」



「まーだあのこと根に持ってるの?しつこい女は嫌われるよ~?」



「うるさい!お前だけは絶対に許さないっ」



「落ち着け、ヴァンパイア」



「魔王様…」



 魔王がヴァンパイアをなだめる。



「悪魔、何しに来た」



「ちょっと、ある人に頼まれてね。魔王様の様子を見に来たんだよ。力の覚醒したかどうかをね。

まぁ、それもさっきこっそり聞いちゃったからもうその用事は済んだんだけどね。」



「なら、もう去れ」



「あともういっこ、あるんだよね。」



「なんだ」



「覚醒してないなら――覚醒する前に消せってね。」



 そう言うと悪魔は指を鳴らした。すると地面から次々と体長2メートルほどのゴーレムが現れる。


 あっという間に魔王たちは10体ほどのゴーレムに囲まれた。



「魔王様が覚醒してないなら、これだけ出したら俺が手を下すまでもないかなー?」



「悪魔、貴様ーー!!」



 ヴァンパイアが叫んだ。



「おっとー、吠えるのもいいけど可愛く泣き叫んでくれよ。あっはっは」



「クソッ…どうしたら…」



 魔王が一歩前に出てヴァンパイアたちに向かって言った。



「お前たち、3人固まってじっとしてろ」



「は、はい。魔王様…?」



 すると魔王は悪魔に向かって言い放つ



「悪魔、あまりなめるなよ。国を追われて2年、なにも成長してないわけじゃないんだよ」



「ほう、この数のゴーレムをどうにかできると?やってみてよ」



「もう一度だけ言う、ここから去れ」



「強がりはいいから、は・や・くー」



「後悔しても知らんからな…!」



 魔王が瞑想を始めると、体から紫のオーラが発生した。



「な、これは…!覚醒してないはずじゃ…」



「これな?第四の力らしいわ」



「なん…だと…!?」



 次の瞬間、あたりが暗闇に包まれ無数の目が現れた。


 そして、次々とゴーレムが崩れていく。


 魔王が瞑想を終えると、辺りは明るくなり目は消え去った。



「これは驚いた…」



 悪魔は少し驚いて震えていたが、やがて笑い出した。



「あははは!これは素晴らしい!まさか邪眼を会得してるとはね」



「悪魔、お前もゴーレムのようになりたくなきゃさっさと失せろ」



「たしかに、今のボクじゃ敵いそうにはないかなぁ♪今は退散させてもらうよ。じゃーね!」



 そう言うと悪魔は黒い霧に包まれ姿を消した。



「ふぅ…」



「魔王様!!」



 魔王にヴァンパイアたちが駆け寄る。



「大丈夫ですか?」



「ああ…少し力を使っただけで疲労がすごいけど、大丈夫だよ」



「ってか魔王様すごいじゃ~ん、あの力~!めっちゃ厨二感~!」



 グールが目を輝かせている。



「ちゅうに…なんだ?」



「あ、知らんならいいよ~!」



 スライムが心配そうに見ている。



「魔王様すごいね!あたしびっくりしちゃったよ!でも守ってくれてありがとう」



「お前たちを守るのは当然だからな」



「ってか魔王様あの力あったら、大会優勝間違いないじゃん!」



「あーそれは無理かも。あの大会は魔法の類禁止なのよねー」



「え~つまんな~い!」



 グールはぶすっとして頬を膨らませた。



「僕知ってますけど、あの力使うと魔王様は命を削られるんですよね…」



「スライム…知ってたのか」



 ヴァンパイアとグールは驚いた顔をしている。



「え、そうだったんですか…?」



「まぁ、うん。」



「じゃあもう二度と使わないでくださいね!次は私たちだって戦います!」



「う~ん、うちもがんばる~!」



 ヴァンパイアとグールは一緒にガッツポーズしてみせた。



「あはは。うん、次はこうならないようにもっと強くならないとね」



「魔王様、僕も出来る限り力に!」



「スライム、ありがとう」



「じゃあやっぱ、まずは大会優勝だー!ふかふかなベッドだー!」



「だ~!」



「その前にもう少し休ませてくれないかな?ちょっと疲れが」



「そうだね。明日までゆっくりしましょっか」



「ってかなんかゴーレムのパーツ売れそうだし~、久々に皆で外食でもしようよ~」



「あ、それいいわね」



「二人ともハメ外しすぎるなよー」



――大会に向けて英気を養う一行であった。

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