貧乏魔王の勇者退治
Nell
プロローグ
「魔王様、ちょっと一休みしませんか?さすがに2時間も歩きっぱなしじゃ疲れましたよー」
このぶよぶよしたゲル状の生き物はスライムだ。薄い水色でつやつやしたボディに2つのおめめと愛らしいちょび髭が生えているちょっと変わったスライムである。
「んじゃその木の陰で少し休もうか」
魔王と呼ばれたのは、このアルメシア大陸の"前"支配者であり、魔王族の血脈を継ぐその名も魔王である。
普段は世を忍ぶため、魔力により人間の姿をしている。本来は頭には黒い立派な巻き角が頭に2本生えており、背中には漆黒の翼が4枚生えている。翼は人間の姿になればもちろん消えるが、本来の姿でも見えなくすることができる。便利なのかは不明。腹筋は6LDKであり、普段の体色も人間と変わらぬ肌色。髪は若干伸びており、いわゆるウルフカットのような髪型である。もちろん漆黒の黒色。尻尾は野球のバットほどの長さで、猫のように自在に動く。お茶も入れられる器用さである。
魔王と言ってもなにかこう、凶悪なオーラや得体のしれない恐怖感的なものは醸し出していない。瞳は赤と紫のオッドアイと呼ばれるものだが。
――――2年前、勇者によって魔王城が襲撃され、先代魔王である父が討たれてしまった。当時まだ家督を継いでおらず、若かった現・魔王は勇者の凶刃から逃れるためヴァンパイア・グール・スライムの3名の魔物の力を借り魔王城を脱出。再起を図ることにしたのだ。
それ以来、着の身着のままで逃げてきたため、この2年間日々日銭を稼ぎ生きていくのがやっとの状態である。主な収入と言えばその辺のダンジョンに潜り、ちょっとしたお宝を漁るくらいなものである。
魔王という立場上、襲い来る魔物、というのもあまりおらず、戦いでお金を稼ぐのもできないのである。たまにモンスター退治の依頼も見かけるが、たいていターゲットは親戚や知り合いだったりするので、受けられなかった。
もし勇者に見つかれば捕らえられてしまうかもしれないが、今のところ賞金が懸けられたりなどはしてないため一応用心だけしている。
「それにしても、残金150Gか…」
「魔王様もしかして今日も野宿ですか…?」
魔王たちはキャンプの腕は一流になるほど、野宿をしてきた。テントの設営などはもう数分で終わるし、火おこしなんかは人差し指からすぐだ。そんなこんなで野宿は常套手段になってしまっていた。
「まぁ、かといって人間の村襲ってたらその後の支配に悪影響ですからねー」
アルメシアには純粋な人間だけの村や魔族と人間の村、魔族の集落など人魔の垣根をこえて暮らしている。魔族が人間を襲うことはまぁよくあるのだが、魔王が命令したことは一度もない。
先代魔王の支配時代、先代の魔王は魔力が弱かったため、支配力が弱かった。その為か、魔界の勢力との連携をコントロールしきれず、魔界のボスクラスのモンスターが自分勝手にアルメシアを荒し、局地支配するような事態もたびたび起きていた。先代は頭を悩ませたが、打つ手はあまりなかったのだ。魔王の代継も20歳にならないと行えないという決まりもあった。2年前の当時18歳だった現・魔王は潜在能力は高かったが魔王は引き継げなかったのだ。
ともあれこうして勇者打倒を目指し、旅を続けている魔王たちであるが―――
「いい加減しょぼい遺跡荒ししかできてないから、ちゃんとした食い扶持見つけないとなあ…。グール、なんかいい手はないか?」
そういうと地面から手が出てきて、グールが顔を覗かせた。
「え~、うちそういうめんどいことはヴァンパイアっちにおまかせ~」
気怠そうに伸びをしながら答える。グールは中性的で、すらっとした体型だがいわゆる死人である。普段からこうして地面の中にいることが多く、体はダークグリーンのような色をしている。
「そういやヴァンパイアのやつどこいった?」
「魔王さまーーー!!」
その時、遠くから魔王を呼ぶ声が聞こえてくる。その声の主はパタパタとこっちへ飛んで近寄ってくる小さな蝙蝠だった。
「ヴァンパイアどこへ行ってたんだ?昼間はあんまり活動できんだろう」
「そうなんだけど、ちょっとそこの街で献血キャンペーンやってるらしくておこぼれ貰ってた!…ってそうじゃなくて、大変なのよ!」
そういうとヴァンパイアは木陰に降り立ち、普段の姿に戻る。すらっとした細身の体型だが髪は腰まで長く黒髪をツインテールに纏めている。そしてフリフリの付いたいわゆるゴスロリなドレスを着ているが、胸が17歳とは思えないほど服がはちきれんばかりに成長している。瞳の黄色い、一見すると可愛い女の子である。血を吸う以外は。
「ん?一体どうした?」
「一攫千金の大チャンスだよ!献血のおこぼれ貰ってるときに聞いたんだけど、今度コロッセオって街で闘技大会やるらしいのよ。
そして、その優勝賞金がなんと100万G!!これはもうでるしかない!いつ出るの!いまでsy」
「確かにおいしい話だがな…」
「魔王様割と強いし、いけるんでは?」
「うーむ…しかし勇者にみつかるとまずいかもしれんしなぁ」
「ふっふっふー!そこは大丈夫よ!コロッセオの大会は人魔参加自由!つまり魔物界からもいっぱいでるから、
魔王様が紛れてても気づかれない!」
「なるほど?」
「ヴァンパイアっちさすが~」
「そうと決まったらさっそくコロッセオの街に行きましょ」
―――こうして変わらない日常に一筋の光明が見えた魔王たちは、コロッセオの街に向け歩を進めるのであった。
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