第55話 熟練度設定を設けたのです


 

 対戦の会場は、ウィラルヴァと国乃樹魅富両者の同意により、自分達の住む街を模した市街戦で行われることになった。


 見慣れた街並み。しかし不気味なほどに静まり返り、車の一台や通行人の一人どころか、虫の鳴く声さえ聞こえない。頭上には青空はなく、数百メートル上空に、この空間を形成する結界のオーロラが、視界一杯に広がっていた。ちなみに時刻は昼間の設定だ。太陽こそはないけれど、不思議と明るく視界は良好である。


 5対5のチーム戦。それぞれにチームの本拠地であるリスポーンポイントがあり、所持する武器や能力は、対戦中に撃破されるたびにリセットされる。また本拠地には耐久値があり、一定の攻撃を受けたら破壊され、高ポイントを獲得できる。ただしスポーンポイントとしての機能を失うことはない。


 使用できる武器や能力は、自軍のゲームマスターであるウィラルヴァが購入し、プレイヤーに持たせることができる。自前の能力も使用可能だが、相手を撃破してしまったら失格扱いになる。


 ふむ。つまりは攻撃系の能力は使用できない……というよりは、仮にビルを薙ぎ倒して視界を良好にすることはできるが、相手を巻き込んで撃破してしまう危険性があるということだな。迂闊には使えないと。


 逆に攻撃的ではない能力、つまりは空を飛んだり闇に潜んだりなどといった補助能力は、問題なく使用できるわけだ。


 アサルトライフルを片手に慎司、タマちゃんと先行し、建ち並ぶビルの物陰に潜みながら、視力を上げる常発能力を用いて、索敵に集中する。


 この手のシューティングゲームでは、索敵ってのは何より大事だからね。先に見つかった方が負ける、と言っても過言ではない。


「国乃樹魅富だけは、絶対にタマがやっつけます!」タマちゃんがフンスと鼻息を荒くさせた。


 いつもの白いお子ちゃま用のワンピースの上から、防弾チョッキとヘルメットを着用するタマちゃん。ヘルメットは上部にピョコンと猫耳のシルエットが飛び出しているデザインで、両手にアサルトライフルとサブマシンガンを構えたその姿は、ギャップ萌えの王道をとめどなく突き進んだスタイルだ。


 慎司は黒いトレンチコートの下に、防御用の防弾チョッキだけは着込んでいるが、その他は普段の姿となんら変わりはない。しかしコートの裏側には、大量の手榴弾が見え隠れしている。……重そう。


「国乃樹魅富は、より多くの神力を保有することが、神としての権威だと勘違いしている男です。要は、銭ゲバならぬ神力ゲバですね。集めた神力も不必要に消費したがらないので、この戦いにも同じ姿勢を貫くでしょう」


「つまり、相手の武器はショボくて、装甲車などの高ポイントが必要な装備も使用してこないということか?」


 それだとまぁ、こっちとしては非常に助かりますが。


「絶対に、とは言い切れませんがね。少なくとも自らプレイヤーとして出場している国乃樹魅富以外の敵は、持ってて精々がサブマシンガンくらいのものでしょう。逆に国乃樹魅富自身は、ガチガチに完全武装しているかも知れません」


 なるほど、そういう奴なわけね。


 神力というものは、神酒などのように物に込めて保管しようにも、真樹さんのスマホのように神器の中に保管しようにも、竜脈のように絶えず循環され浄化されるシステムがない限りは、いずれは腐って負の神力になる。


 竜脈に根を張った神の樹木なら、腐らせることなく神力を保管(保有)できるが、そこに納め切れない分は、使ってしまうか、神酒や神器など何かしらの方法で、期限付きで保管するしかない。


 人によっては、身体の内で負の神力を消化してしまうほどの、高い浄化能力を持つ者もいるが……どちらにせよ、人の身で扱える神力量というのは、高が知れているものだ。


 とにかく、神の樹木の許容量を底上げするために、国乃樹魅富が聖魂を集めているというのは、納得できることだ。どれだけの聖魂を保有しているかで、神としての格が問われるというのも、まぁ当然のことだろう。


 タマちゃんとこの質の高い聖魂が狙われたのも、必然だったといえる。


 問題はそれを、詐欺紛いの方法で強制的に行ったという部分だ。もしタマちゃんとこの聖魂が、自らの意思で国乃樹魅富に帰依したというのならば、正当性も生じる。


 そうではないから問題なのだ。


『真樹と蛇貴妃が、指定の配置についた。そっちはどうだ。敵は見つけたか?』ウィラルヴァの声がする。


 パーティ用のボイスチャットだ。ウィラルヴァがこうして対象のプレイヤーにチャンネルを合わせているときは、離れた箇所にいる真樹さんや蛇貴妃にも、お互いの声が届いているはずだ。


 自軍のゲームマスターであるウィラルヴァが見ることができるのは、それぞれの味方プレイヤー視点のみだが、上手く視点を切り替えつつ状況を把握し、どれだけ司令塔としての役割を果たせるか、手腕が問われることになる。


 そういう役割はどっちかと言えば、ウィラルヴァより俺の方が得意なんだけどね。向こうの世界でも戦時中は、なんちゃって軍師的な役割を果たしてたし。


「今んとこ異常ナシ。真樹さんと蛇貴妃に持たせた狙撃銃、ちゃんとレベル高いヤツを選んだだろうな?」


『当然だ。神力をケチる必要もないからな』


 ゲーム内の武器にはレベルがあり、レベルが上がるほど高性能になってゆく。元々あったハンキチが設定しただろう機能に加え、俺のオリジナルのアイデアも追加させてもらった。


 おそらくハンキチは、既存のゲームから武器や能力の設定を持ってきただけなのだろう。例えばアサルトライフルならば、あくまでアサルトライフルとしての能力しか持たず、人外の怪物や神族には、効果が期待できそうな攻撃力ではなかった。


 まぁ今回のルールでは、それでも問題はないのだが……とにかく、俺が追加した機能とは、


 まずは全ての武器や能力ごとに、五段階のレベルを設けた。アサルトライフルならば、レベルが上がるごとに使用できる弾数も増え、威力や弾速も上昇してゆく。もちろん、それだけ購入時に必要な神力やポイントも増えてゆく。弾丸は実弾ではなく、悪霊や神族が相手でも効果の高い、神力弾を採用させてもらった。


 加えて隠し設定として、熟練度システムも採用した。武器や能力を購入、または使用することで、最大100までの熟練度が溜まり、熟練度の溜まった武器や能力は、購入価格も安くなり、弾数や威力も上昇する。五段階の熟練度が全て最大になれば、そこからさらに上の段階が解放され、最高で十レベルにまで鍛え上げることができる。


 さらには一定数の総合熟練度が溜まるたびに、初期メニューでは表示されない隠し武器や隠し能力が、解放されてゆくといった仕組みだ。


 つまりは、使った人だけ得をするシステムなのです。


 例えば一番安いライフルが、ショットガンに分類されるサイガ12だけれど、購入価格は300ポイント、または300ポイントに相当する神力であり、威力は弾丸一発が100ダメージ。五発同時に発射されるショットガンであるため、実質500という攻撃力だ。弾数は6。総攻撃力は3000ということになる。


 レベルが一つ上がるごとに、購入価格が300ずつ増えてゆき、レベル5で1500ポイント。弾数は1ずつ、威力は250ずつ増えてゆき、レベル5での弾数は10、総攻撃力は15000になる。


 これが熟練度が最大になれば、威力も弾数も増え、購入価格が半額になる。


 レベル1でも購入価格150ポイントで、弾数8に総攻撃力は6000。レベル5なら購入価格750ポイント、弾数16で総攻撃力は28000となる。


 ちなみに最高レベル10のサイガを熟練度100にした場合は、購入価格1500ポイントで、弾数26、総攻撃力は78000だ。


 一撃の威力なら高レベル、コスパフォ考えるならば低レベル、ってことになるけどね。まぁそれは、この手の設定ではありがちなことだ。強敵相手なら高レベルを使い、周回雑魚モンスならば低レベルを使う。基本ですね。


 ってもさすがに、最安銃のサイガを熟練度マックスにする奴なんて、出てこないだろうけれど。もし出てきたら開発者認定でショットガン猛者の称号を与えてもいいわ。


 その他の武器や能力も、似たような仕様になっている。浮遊能力などレベル10熟練度最大にもなれば、飛行機並みのスピードで高速飛翔することも可能だ。


 加えて総合熟練度が溜まれば、初期設定にはない新しい武器や能力も使用できるようになってゆくのだから、やりがいを感じてハマってくれるお方も………出てきたらいいなぁ。ルンルン。


 ……関野さんが言うには、期待は薄いらしいが。


 はぁ……なんかいい方法はないものか。


 関野さんの会社が開発した公式アプリをインストールしていれば、ポイントを消費して現実世界でも能力が使用可能な仕様を考えてもみたけれど、最高神の天照大御神の許可が下りるかどうかは、微妙なところらしい。


 皆んなでガンガン、ポイントを消費して欲しいところなんだけどねー。まぁしょうがないか。とりあえず今は、この試合に集中することにしましょう。

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