第56話 イケメンコンビ……嫌な響きです
この手の類いのゲームは、転移前にもよくプレイしていた。
いくつかやっていたFPSやTPSのバトロワで、それぞれ特色は違ったけれど、基本的に一番大事なのは索敵であり、その次に接敵ポイントや地形を含めた立ち回り、そしてエイム力や武器の選択を含めた攻撃力だ。
移動力に関しては、ゲームによっては乗り物があったり、ワープできるアイテムがあったりなど、それぞれ優先順位は違ったが、目立つ乗り物をあえて使わないことで、敵に見つかり難いサイレント移動が有効な場面もある。
そして何より大事なのは、マップの地形を把握することだ。どれだけ有利に戦えるポイントを知っているかは、勝敗に直に関わってくる。それに関しては、今回のマップは、住み慣れた地元の街。
おかげで敵の進行経路も、楽に予測できた。
「無理して凸る必要はないからな。あくまで俺達は陽動だ」
「分かっています。向こうの見通しの良い交差点付近にまで、敵を誘導すればいいのですよね」
一発食らったら撃破扱いになるため、敵だって局地的には、障害物を意識した行動をしてくるはずだ。一番厄介なのは、入り組んだ商店街や歓楽街の小道に入り込まれること。
そうなってしまえばかなり、運要素が絡んでくる。完全に先に見つけた者勝ちという状況になってしまうからだ。
そうなってしまう前に、少しでも撃破ポイントで有利に立っておきたい。でなければ不利な地形に芋られた場合、どうしてもこっちから凸らなければならない事態に陥ってしまう。
今回のルールでは、初手が大事だ。機先を制してポイントで有利に立ってしまえば、相手は無理にもポイントを稼ぎに突撃せねばならなくなるため、常に有利な状況下で戦うことができる。
制限時間は、一時間。まずは最初の三十分、敵さんには誘い込み狙撃の餌食になってもらいましょう!
「シュウお兄ちゃん、敵が来たよ」タマちゃんの猫目がギラリと光った。
見た目は明らかに獣系の獣人のような男達が四人、SMGを片手に国道の真ん中を疾走してくる。
ふむ。開始五分でここまで到達できるのか。どうやら車などの乗り物系は使用しておらず、走って国道を北上しているようだが。
「慎司、頼むな」
「任せてください。運転だけは得意ですので」
頷いた慎司が後ろを振り向くと、その場にどこからともなく、アメリカンタイプのオートバイが出現した。
手筈通り、ウィラルヴァが購入して慎司に配備させたものだ。ブルンとエンジンを吹かし、バイクに跨った慎司が国道に躍り出ていった。
その間に俺とタマちゃんは、敵に見つからないよう物陰に身を潜めた。
慎司が片手でハンドルを握りながら、後方に向かってARを構える。慎司の姿に気づいた四人の男らが、走りながらSMGを撃ち放った。
が、この距離はSMGのエイムも乱れる距離だ。慎司が軽くバイクを蛇行させただけで、敵の弾丸は慎司に掠ることもなく狙いを外れていった。
逆に慎司のARの弾丸は、蛇行中だというのにしっかりと四人の男らに狙いがつけられている。
それでもさすがは獣人というべきか、身体能力だけは飛び抜けているようだ。右に左に上空にと、慎司の銃弾を造作もなく躱していった。
「待ちやがれこのやろう!」
「逃げんじゃねぇ!」
タチの悪そうな、ドスの効いた叫び声が、静寂の街中にこだまする。
うーん。明らかに三下風情という感じですねー。
とはいえレベルの高いARの弾速を、遠距離とはいえ造作もなく躱すとは……奴らが通り過ぎたあとに、タマちゃんと二人で一気に不意打ちすることも考慮していたのだが、辞めた方がよさそうだ。
撃ちたがりでウズウズしながら、ARとAMGをギュッと握りしめるタマちゃんのヘルメット猫耳頭を、ポンポンと叩いて諫めると、発砲しながら駆け抜けてゆく四人の男らが通り過ぎるのを待った。
十分に距離が離れてから、タマちゃんと二人国道に飛び出し、慎司と男らのあとを追ってゆく。
ていうか、クニノキミト本人の姿はないようだが、本拠地の防衛にあたっているのだろうか。
まぁ話を聞く限り、相当に慎重な男のようだし、まずは様子見というところなのかも知れない。
『目標地点に入ったぞ』ウィラルヴァの声がする。
「分かった。真樹さん、蛇貴妃!」
『了解。狙撃する』『ム、撃っテいいのカ?』
真樹さんと蛇貴妃の声が続けて聞こえ、前方でドゥンとスナイパーライフルの音が響いた。
ちょうど交差点に差し掛かっていた四人の男らのうち、二人が脳天に弾丸の直撃を受け、薄い光に包まれ消え去ってゆく。
この直後、奴らは自分の本拠地にリスポーンされているはずだ。
「タマちゃん、伏せっ!」「にゃうっ!」
タマちゃんと揃ってずべっと道路にヘッドスライディングし、スチャリとライフルを構えてスコープを覗いた。
タマちゃんは両手でライフルを構え、スコープを覗く代わりに、可愛らしい幼い両眼がギラリと猫目へと変わる。
どバババババババ!!!
三つの銃身からの一斉射撃が、残った二人の獣人を本拠地へとリスポーンさせていった。
「おのれぇぇぇ! 次は負けんぞぉぉぉ!」
捨て台詞を残して消え去ってゆくチンピラ集団。
「よし、撃破ポイント4!」
「タマも倒したです!」
ドヤ顔で胸を張るタマちゃんのヘルメット猫耳頭をヨシヨシと撫でつつ、ウィラルヴァに連絡を入れる。
「あの様子だと、もう二、三回くらいは同じ作戦が使えそうだ。開始三十分までは、待ち伏せに徹しよう」
『そうだな。慎司、もう一度シュウイチらと合流しろ』
『分かりました。すぐに戻ります』
交差点の向こうから、慎司の乗るドラッグスターの派手なエンジン音が響き渡った。
その後も狙い通りに、考えなしに突っ込んでくる獣人らを二度ほど撃破することに成功し、予定時間が訪れた。
そろそろ相手も動きを変えてきそうだったし、あくまでこれは序盤のみの作戦だ。
変化をつけないと、ずっと同じことを繰り返していても、観戦者は退屈だろう。それでは意味がないのだ。どうあっても神々らには、純粋な武力での対戦以外の形式にも、興味を持ってもらわねばならない。
俺は猫神姿のタマちゃんに乗り、慎司と真樹さんはジープで移動する。
今度の作戦は挟み撃ち。ジープが国道を真っ直ぐに南下し、タマちゃんと俺は西の川沿いに回り込んでゆく。
ちなみに蛇貴妃は、本拠地護衛のため残した。撃破されれば100ポイントの本拠地。さすがに空にするわけにはいかない。
川沿いの堤防を猫神タマちゃんの背中に乗って疾走していると、慎司らが接敵したとウィラルヴァから報告が入った。
県道との交差点付近のようだ。ここから割と近い。まぁ、同程度のスピードで移動していたんだから当然だけど。
ビルの屋上を飛び移りながら移動していると、どこか近くからジープの排気音と、撃ち合う銃声の音が聞こえてきた。
国道沿いのビルの屋上から見下ろせば、帆を開けたジープが国道を蛇行し、ドリフトしながら敵の銃弾を華麗に躱していた。ジープの上部から顔を出した真樹さんが、器用にバランスを取りながらARを乱射している。
「ターンしますよ、一旦距離を取ります」
「了解っ! 後部座席に移るぞ」
慎司がグッとサイドブレーキを引き上げ、見事なスピンターンを決めると、飛び込むように後部座席に移った真樹さんが、そこからARを構えて離脱しながらの牽制射撃を開始した。
ええーっと……え? なに? これってどこのハリウッド映画?
中央分離帯や縁石の切れ目を上手く擦り抜け、反対車線や歩道までも自在に疾走しながら、敵の銃弾を躱して反撃の射撃を撃ち込んでゆく。
真樹さんの射撃のタイミングに合わせて蛇行が緩やかになったり、慎司のギアの切り替えのロスで、敵の銃撃が集中しそうになった瞬間に真樹さんの牽制射撃が飛んだりと、地味に連携が取れている。
……モテるだろうなぁこいつら。
い、いやいや、そんなどうでもいいこと考えてる場合じゃないわ!
そこそこにすばしっこい相手のため、真樹さんの射撃も未だ相手の身体を捉えてはいない。
そして厄介なことに、相手も狙撃というものに慣れてきたようだ。徐々に相手の銃弾が、散発的にだがジープの車体を捉えるようになってきた。
が、
「一発いきますよ、備えてください」
相手の方にジープを突っ込ませるタイミングで、慎司が懐から手榴弾を取り出した。
ギュルギュルとタイヤがアスファルトを切り裂き、サイドターンを決めた瞬間に、手榴弾のピンに噛みついた慎司がそれを抜き放ち、ポンっと無造作に放り投げた。
急発進したジープがその場を離れてゆく。
真樹さんの牽制の銃撃音がなり響く中、ドォォォォンと衝撃が弾けた。
「うわぁぁぁぁ!?」
悲鳴を上げるチンピラ集団。三人が爆発で吹っ飛び、呆気なくリスポーンされていった。
残った一人の腕に、グレネードランチャーが出現する。どうやらクニノキミト、珍しく奮発したようです。いきなり新武器を持たされた獣人が、扱い方に若干の戸惑いを見せながらも、銃身をジープに向かって構えるのが見えた。
おおっと、それはちょっとヤバ気だね。いや、どうせ当たらんのだろうが。
「いけっ、タマちゃん!」
「はぁーい!」
タマちゃんがビルの屋上から、ピョーンとダイブした。空中で狙撃銃を構えスコープを覗く。グレランを構える獣人に狙いを定め、やらせねぇよとばかりに撃ち放った一撃で、華麗なヘッドショットを決め、グレネードを撃たれる前にリスポーンさせていった。
グレラン一発いくらだったっけ。…忘れたけど、これはクニノキミトさん、結構な無駄遣いになっちゃいましたよ。
ざまぁでございます。
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