第41話 神々のゲーム


 いきなり、ぬらりひょんなどと言われても、ゲームや漫画などに出てくる、悪役の妖怪という印象しかないものだ。


 だがこいつが、異世界の創造主の一人というのならば、普通の人間にはない特殊な能力を持っているのも納得だし、それがこの国を裏から牛耳れるほど、強力なものだというのも、まぁ理解できる。


 ただし曲がりなりにも、一世界の主だというのならば、他者の星であるこの地球を我が家のようにして、好き勝手に振る舞うのは間違っているし、何百年も延命して自分の星に帰らないのは、無責任だと言うほかはない。


 ああ……なるほど。ぬらりひょんという妖怪は、人の家に勝手に上がり込んで、家の主人のようにして、好き勝手に振る舞うというけれど、それはある種の、比喩だったってことか。


 創造主と創造神が、世界の運営を神々に託して、いなくなってしまった地球。それもそれで無責任なことに思えるかも知れないけれど、俺としては、その気持ちも分からないではない。


 よっぽど、自分の子供達のことを信頼しているのだろう。我が子らに世界を託し、貴方達の力で、自由に生きてみなさいってことなんだろうから。


 まぁとにかく、その地球の創造主と創造神も、この地球から消えてしまったわけではない。普通の人間として転生し、この地球のどこかで生きている。地球が滅びかねないほどの事態になれば、必ず姿を現してくる。それは間違いないであろう。


 だからこいつ、ぬらりひょんは、世界を滅亡させない範囲で、人間や神々を混乱させ、楽しみながら、この地球の絶対者を気取っているのだと思う。


 場所、つまり行動する縄張りを、日本だけに絞っているのも、その一環なんだろうな。まぁそれについては、それこそぬらりひょんの気分一つで変わってはくるだろうが。


「神々のゲームか。平和な世界に、よっぽど退屈しておるようだな。この世界に飽きたのなら、さっさと自分の世界に帰れば良いものを」


 呆れ口調でウィラルヴァにジロリと一瞥され、蛸のように歪な形をした頭を揺らしながら、老人は気味の悪い笑い声を上げた。


「ギョヒョヒョヒョ。お主とは話しておらんよ、秀一の創造神よ。創造主の道具でしかない、下等な付喪神にも等しい分際で、儂と秀一の間に入ってくるでない」


 言われたウィラルヴァの額に、ピキッと青筋が入る。豊かな胸を強調するように組まれた両腕が、プルプルと怒りに震えた。


 あ、暴れちゃダメだからね!? あんたが暴れたら、こんな簡易聖域なんて一瞬で吹き飛んじゃうから!


「そんなことより、まずはこの状況をどうにかしてくれないかな。どんな力を使ってるのかは知らないが、周りの皆んなにも、ちゃんとお前の存在を認識させろ」


 じゃないと、あとで説明するのが面倒くさい……じゃなくて、ええーっと。


 皆の意見が聞けないじゃないか。


「理道君? ウィラルヴァちゃんも、さっきから何を言ってるんだい?」と、不思議そうに店長が目を瞬かせた。


 ええーっとですねー。なんて言えばいいだろ。


「今話に出ていた、ぬらりひょんと同一であるという創造主。いるんだよ、そこに」と、店長の隣に座るタコ頭を指差した。


「ここに? でも、いるのは坊主頭のお爺ちゃんだけだよ。どういうこと?」


 うん。だからね、それを疑問に思いなさいってことなんですけどね。


「精神攻撃の一種だな。自分がそこにいることへの疑問を、感じなくされているようだ。いかにも小物が好みそうな術よ」ウィラルヴァが小馬鹿にしたようにフンと鼻を鳴らす。


「儂は小心者なのでなぁ。子犬であろうと、噛まれれば痛いものよ」


「子犬にでも噛まれれば、小鼠などひとたまりもないであろうな」


「小鼠であれば、そうじゃろうよ。解除しても良いが、子犬の躾けはできているのかな?」と、コクコク舟を漕ぐ湧音をチラリと見やる。


 ああ、そうか。湧音に認識されたら、問答無用で戦闘に突入しちゃいそうだなコレ。


 ていうか、湧音にだけ術をかけたままに……できるのであれば、こういう話にはならないか。


 俺とウィラルヴァだけが術にかかっていないのは、創造主と創造神だからなのか、あるいは、この世界の住人にしか効果が及ばないのか。分からないが、とりあえずタマちゃんの聖域で、こいつと湧音に暴れられるわけにもいかない。このまま話を進めるしかなさそうだ。


 今の湧音がこいつと戦っても、返り討ちにされるのがオチだからね。それは俺としても避けておきたい。


 ふうっと一つため息をつき、老人と視線を合わせる。


「とりあえず目的を聞いておこうか。神々のゲームとか言ってたが、一体何をやるつもりなんだ、ぬらりひょん?」


 問いかけると、老人はぷくりと鼻の穴を膨らませ、ニタリと気味の悪い笑みを浮かべた。


「儂の名は、ハンキチという。苗字はなく、ただのハンキチじゃ」


「半分キチガイの略であろう。良く似合った名前ではないか」


「まこと、秀一の貯蔵タンクは良く喋るのう。道具は道具らしく、黙って突っ立っておれば良いものを」


「ウィラルヴァ、嫌味合戦してたんじゃ話が進まない。

 ハンキチ、と呼べばいいんだな。ぬらりひょんではなくて?」ポンとウィラルヴァの肩に、手を置いて引き下がらせる。


 ちなみにここまでの間に、店長が少しだけ口を挟んだ程度で、タマちゃんや慎司らも一切、会話に入って来ようとしない。


 それもまた、ハンキチの能力なのであろう。とは言え、別に呆けてボーッとしてるわけでも、湧音のように居眠りしているわけでもない。普通に真面目な顔で、会話に聞き入っている。タマちゃんと蛇貴妃の二人だけは、やや不思議そうな顔で、ハンキチと俺とを交互に見やっているが。


 タマちゃんはこの聖域の主であり、蛇貴妃は俺の眷族であることが影響しているのだろうか。ウィラルヴァならすでに、術の正体を掴んでいるかも知れないが……まぁいい。そっちは任せて、俺は神々のゲーム、とやらの詳細を聞き出すことにしようか。


「ぬらりひょんなどというふざけた名前は、人間らが勝手に呼ぶようになった名前よ。儂の生まれ持った名前は、ハンキチ。道草のハンキチじゃ」


「はいはい。ハンキチ爺さんね。で、俺にどんな用があるんだ。なんか、スカウトしにきたとか言っていたけれど」


 道草の、っていうのがちょっと気になるところだけど、それ突っ込んでたらまた、話が遠回りしちゃいそうだもんなぁ。


 まぁ生まれは相当、昔のようだし、仮に道草を食うの意味であったとしても、あるいは言葉のままの意味なのかも知れない。なんにせよ、どうだっていい話だ。


 ハンキチ爺さんが再びニタリと、気味の悪い笑みを浮かべた。


 どうにも、慣れない笑い方だ。見る度に背筋に、ゾッと悪寒が走る。


「この国では、神々同士の戦が禁じられておるのは、お主も知っておろう。儂がそこの子犬の一族を滅ぼした際に、国中に浸透されることとなった掟じゃ。つまらん話よのう。儂はもっともっと、神々の争い事を傍観しておきたかったというのにのう」


「ふーん。まぁ戦なんてしてたら、それこそあんたの思う壺だからな。よっぽど、あんたの思い通りになることが、気に入らなかったんだろ、この国の神々も」


 まぁその意味では、この国が平和になったのに、一役買ってると言えなくもない。当の本人は、全く面白くないだろうけどね。


「じゃからのう、一時は外の国と喧嘩をさせ、世界中を戦火に巻き込ませたこともあったが、それももう随分と昔のことよ。儂が何かする度に、この国の神々は、二度目がないようにと、つまらん掟を追加して来おる。この国が戦争に負けて、威信も何もが地に落ちたときには、存分に楽しませてもらったがのう。他国の神に力添えさせてまで、この国を戦争のできない国に変えてしまいおった。全く味気のない連中よ」


「つまりはこの国が第二次世界大戦で……いや、まぁいい。あんたの武勇伝なんか、微塵も興味ない。

 今度はあんた、何を企んでいるんだ? 同じ異世界の創造主である俺を勧誘してまで、何をやろうとしている?」


「企むとは人聞きの悪い言い方じゃのう。儂は単に、神々の間に生じた諍いごとを、解決するための、提案をしようというだけじゃ」


 隙間だらけの黒い歯を見せて、顔が潰れたかのようにして、クシャリと笑った。


「神々の戦いが禁じられて以降、数多の神々が、相当な量の鬱憤を溜め込んでいる。それがいつ爆発し、暴走してもおかしくはないほどにな。特に血の気の多い荒神ほど、余程の不満を抱えておるのじゃ。戦によって揉め事を解決することが、できなくなってしまったのじゃからなぁ。

 儂はな秀一。それらの鬱憤を、晴らせる場を、用意してやろうというのじゃ」


「へぇ。あんたのせいで、喧嘩することができなくなったんだもんな。その責任を取るとでも、都合の良いことを言うつもりか?」


「クックック。天照や月詠など、中には勘のいい神々も居ってなぁ。厄介な掟を追加しては、儂の邪魔をして来おる。じゃが今回のこれは、奴らも文句は言えまいて。何しろ異世界の創造主、二名からの提案になるでな」


 言ってハンキチ爺さんはテーブルに前のめりに、細長い指でビッと俺の顔を指差した。


「お主も今、国乃樹魅富との厄介ごとを抱え込んでおるであろう。現況のままでは、それを解決することはできんのだぞ。無理に力技で解決しようものなら、この世界から追放されてもおかしくない。野播羅乃玉の配下の聖魂も、帰っては来ぬ。

 じゃが儂の提案に乗るならば、それら全てを、上手く纏めることができるぞ」言って、深々とソファーに背をもたれる。


 ふむ……。まぁ確かに、聖魂を返せと国乃樹魅富の聖域に乗り込んで、ぶっ飛ばしちゃうのも問題があるだろう。後に行われるであろう断罪者の裁判で、まず間違いなく、乗り込んだ俺達に非があるという裁定が降るはずだ。


 慎司と湧音も、タマちゃんの聖域に乗り込んできたわけだが……考えてみればここは簡易聖域であるし、あくまで交渉に訪れたという名目だ。それに慎司も湧音も、正式に国乃樹魅富の配下ではないというし……。


 ああ、何とかの主とかいう猪のおじさんを、蛇貴妃に飲み込ませちゃったけど、あいつは正式な国乃樹魅富の配下だって言ってたな。後にそれが問題になるであろうとも。


 ただ、慎司は異世界の創造主は、治外法権に当たるとも言っていたが……まぁその辺りのことは、色々とグレーゾーンがあるんだろうな。つまり、


 俺には把握し切れない難しい問題だ! あはははは〜。


「じゃがそれをこの国の神々に容認させるには、儂だけでなく、お主の提案も必要じゃ。むしろ、お主一人が提案すれば、簡単に受け入れてもらえるじゃろうなぁ」と、ハンキチ爺さんが話を続ける。


「なるほど……つまりお主の目的は、それをシュウイチに提出させようということだな。自分で、もしくは誰かを操り提案しようとも、勘のいい神々に邪魔され、通りはせぬのであろう」しばらく黙っていたウィラルヴァが、そう口を挟んだ。「鵜呑みにするなシュウイチ。こやつは我らを含めた神々を、混乱に陥れたいだけだ。自分で提案しようとも容認されないがゆえに、私とお前の発言力を利用したいだけなのだ」言って叱りつけるかのような目つきで、ジッと俺の顔を見る。


 うーむ。まぁそれは、理解できるけれど。


「まずは、それがどんな提案なのか、教えてもらおうかな。内容次第では、あんたの代わりに俺が、この国の神々に提案してもいい」


「ちょっと待てシュウイチ。本気か?」


「内容次第だよ。まぁ俺が言ったところで、受け入れてもらえるかどうかはまた、別問題だけどな。言うて新参者だし」


「それはそうだが……だが、どれだけ実利がありそうな話でも、裏で何を考えているか分からんような輩だぞ」


 それはもちろん、その通りだろう。創造主とはいえ、頭の中身は普通の人間だ。そんな普通の人間が、自分の星に帰って生まれ変わり、リセットされることもなく、何百年も生き続ければ……おかしくもなる。自分が楽しむという一点だけに固執するようになって、当然だと言える。


 一つ気になるのは、こいつがこんなに狂った状態になって、こいつと一緒にこの地球にいるはずの、相方の創造神は、一体何をしているのだろうということだ。不老不死の能力を奪って、自分の星に連れ帰ることこそが、こいつにとって最もの救済になると思うのだが。


 ……まぁ、さっきウィラルヴァが言った通りに、そっちの創造神の方が、もっとヤバい狂った状態にあるのかも知れない。


 どちらにせよ、俺とウィラルヴァにとっては、他人事でしかない話だけどね。


「ギョヒョヒョ。儂はなぁ秀一、このところ、こういったものにハマっておってなぁ」と言ってハンキチ爺さんは、懐から携帯型のゲーム機を取り出した。


 うん。よく見るやつだ。俺も一個持っているやつだ。


 そういえばこっちに帰ってきてから、一回もログインしてないなぁ。転移前は毎晩のように、サバゲーを中心に、色んなゲームの世界に入り浸っていたものだけれど。


「一つのゲームの中には、一つの世界がある。プレイヤー達はその中に決められたルールで戦い、ある者は勝利し、ある者は敗北を喫する。

 我ら創造主の天地創造とは違い、失敗してもやり直すことが可能なところは、少々リアリティに欠けるがな。

 なんにせよ、人間の作った玩具よ。

 しかし神々ならば、もっと面白いゲームを作ることもできるじゃろう。そのゲームをもって、争い事の決着をつける。文句なしの一発勝負じゃ」


 そう言って、手にした携帯ゲーム機を、テーブルの上に置いた。


「これはゲームに参加するのに、必要な神器じゃ。これを所持する者のみ、ゲームに参加する権利がある。すでに数多の派閥の主に送りつけてある」


「ゲーム……ねぇ。こんな玩具一つで、神々の鬱憤が晴らせるとは思えないけどな」


 ゲーム機を手に取り、念のため感知魔法を使い、中のシステムを確認した。


 うーん。特に罠らしきものは見当たらないけど……見た目は、どこにでもある携帯型のゲーム機そのものだ。普通のゲーム機としての性能も、そのまま残っているようだが、所々に、神力を持って起動する特殊な理が組み込まれている。


 細部まで把握するには時間がかかりそうだが、大まかな性能としては、周囲の空間を一時的な聖域化するための神器のようだ。


 加えて、中の風景や天候などを操作する機能に、聖域に入れる人数を制限する機能など、いくつか設定がある。


 うん。このタマちゃんの聖域のような、一時的な簡易聖域を展開するだけの、神器に思えなくもない。


「聖域の中ならば、いくら戦争をしようが、物理的な被害は皆無じゃ。条件を対等にするために、人数制限も設けておいた。

 諍い事が起これば、双方がチームを組み、あるいは一対一で、この聖域の中で戦うのじゃよ。

 その様子は、神々に配布したこの神器を通じて、皆が観戦することができる。神力や聖魂をもって、賭け事をするのも面白いのう。人間でも一部の者は、多額の金を賭けて賭博に勤しむ者もいることじゃろう。

 皆が盛り上がる、盛大な祭りじゃ。いわば代理戦争じゃな。これならば、神々の掟に触れることなく、平和的に物事を解決することができるというわけじゃ」


 両手を広げ、さも大名案だとでも言わんばかりに、得意気な笑みを浮かべる。


「何が代理戦争だ。こんな玩具を使ったゲームで、決着のつく戦争などあるものか」


 呆れ顔のウィラルヴァが、ジロリとハンキチ爺さんを睨む。


「ここでの決着は、絶対じゃ。これまでは文句をつけることはできはすれ、決着のつくことのなかった神々の諍いごとを、丸く収めることができるのじゃぞ? 誰もが飛びつく。それほど、神々の鬱憤は溜まっておるからのう。

 ただし、儂が提案したのでは、天照や大国主が中心となって妨害し、却下されてしまうじゃろう。

 これはな、秀一。お主が提案することに意味があるのじゃよ」


 ふーむ。つまりは、国乃樹魅富とのいざこざに決着をつけたいから、そのためのステージを用意させろと。そう神々に要求しろということか。


 新参者とはいえ、ウィラルヴァのような強力な創造神の存在は、神々も無視することはできないだろう。おそらく要求は通ると思う。


 そして一度でも、その特例が認められてしまえば、日頃から鬱憤を溜め込んだ荒神達が、挙って意義を唱えるだろう。


 新参者ばかりが特別扱いされるのは納得いかない。自分達にも、戦う場を用意しろ、と。


 そうしてまずは、血の気の多い荒神達が、トラブルを抱えている派閥や組織との決着をつけるために、ゲームに参加する。


 その様子を観戦することができるというなら、それこそお祭り騒ぎになってしまうことも、容易に想像できる。ハンキチ爺さんの言う通りに、賭け事も行われ、宴会を開いて観戦するという派閥もあるはずだ。


 そして、それが主流になれば、毎日毎晩、いくつもの試合が行われることになるだろう。


 賭けにハマり散財する神々も出てくるだろうし、より強い戦士を求めて、眷族の引き抜きも常になり、引き抜かれた方がイチャモンをつければ、それもまた試合の種となる。


 神々の間では、どれだけ強い戦士を抱えているかがステイタスとなり、より戦う力に優れた者が重宝され、出世を遂げる。


 まぁ湧音君にとっては、願ってもない話だろうけどね。強い者と戦って修行することができるし、ワンチャン、この爺さんとの一騎討ちを行うこともできるわけだから。


 うーむ。どうにも、混乱を招く結果にしかならない気もするが……。


 ただし、国乃樹魅富からタマちゃんの聖魂を返してもらうには、手っ取り早い方法であることには違いない。


 とはいえ……困ったな。これは、とても俺達だけで決められそうな問題じゃないぞ。


「……面白い話だとは思う。だが、今ここで、俺の独断で決めるわけにはいかない」


「ギョヒョヒョ。構わんぞ。お主のお目付役である神坂んとこの坊やや、向こうにいる親友の主神らとも話し合い、決断するがよかろう。ただし、期限は設けさせてもらうがのう」


「期限? いつまでだ」


「そうじゃのう……」とハンキチ爺さんは、顎に手を当てボリボリと掻きながら、とぼけたように頭上を見上げて、考え込む仕草を見せた。「来月の頭に、神々の宴がある」


 ややあって、不意にポツリとそうつぶやき、ニンマリと口元を歪めさせた。


「天照をはじめ、数多の神々が集まる宴じゃ。お主に所縁のある神も参加しておろうて。

 その宴で、提案することにしよう。それまでには、腹を据えておくことじゃ」


 ……言った途端に、視界の中から、ハンキチ爺さんの姿が見えなくなった。


「良い返事を期待しておるぞ」最後に、何処かから小さく、しわがれた声が響いた。


 そうして、しばらくの静けさが訪れる。


 やがて店長と慎司が、ハッとしたように目を瞬かせ、同時に俺とウィラルヴァに視線を向けた。


「あれ? 僕の隣って……誰か、居た?」 


「嫌な感じがしますね。まさかとは思いますが……奴が潜り込んでいたのですか?」


 口々に言って、さっきまでハンキチ爺さんが座っていた場所を見やる。


「うん。なぁんか、掴み所のない爺さんだったなぁ」


 これから一から説明しなければならない面倒さにうんざりとしながら、ウィラルヴァと視線を交わし、同時にふうっと小さくため息を吐いた。


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