第36話 野良猫のタマ


 ふわふわと綿のように柔らかそうな毛玉が、ピョコピョコと一段ずつ階段を飛び降りて来る。


「こ、子猫!?」ユウちゃんと店長が、揃って声を裏返らせた。


 色合いは白を基調とした、茶、黒の三毛柄。ハナちゃんとは違い、純粋に日本猫っぽい風貌だが、子猫らしくとにかくふわふわとした質感の体毛が、小さな身体の線を包み隠して、ぽよぽよと丸っこいぬいぐるみのように、毛玉感をどこまでも助長させている。


 小さな手足を一生懸命に動かして、階段をヨイショヨイショと降ってくるその姿は、思わず抱き上げて頬擦りせずにはいられないほど、可憐で愛らしい仕草だった。


 柔らかく温かいふわ毛が鼻先をくすぐる。それは甘く健やかなミルクの匂いを伴い、モゾモゾと動く柔らかなお腹に顔を埋めると……


「シュウイチ……いい加減にせぬとマジで猫竜になるぞ」


 ウィラルヴァに脅されてハッと我に返った。


 い、いかん! 持病のニャフモフ病が絶好調に…!


 ああでも、一度抱き上げたこの幸せを、簡単に手放してしまうことなど俺には……!


「キャふふ。どうぞモフモフなさってよろしくてよ? シュウイチ様は、彼の方と同じ匂いがして、心地良いです!」俺の両手に包まれたタマちゃんが、コロコロと喉を鳴らしながらポワワと微笑んだ。長い四本の色違いの尻尾が、機嫌良くぴこぴこ動く。


 ああもう! シュウイチ様だなんて水臭い! シュウお兄ちゃんとお呼びなさい!


「シュウお兄ちゃん、ニャフモフするですー!」両手を広げニパァと笑うタマたん。


 はーい、ニャフモフしましょうねー。可愛いねー。良い子だねー。


 ウィラルヴァがピキッと額に青筋を立てたのを見て、ハナちゃんがコホンと咳払いをした。


「タマ様。お戯れはその辺で。このままの姿では、何かと支障が生じてしまいそうですので、人型になりましょう」


「ええー? タマ、このままがい……」


「人型になりましょう」


 ジトリ、と有無を言わさぬ迫力で詰め寄られ、タマちゃんが「はい」と猫耳をしなだらせた。


「な、なんというか……神様って、自由なんですねー」


「そうですわね。うちのタツネ様も、そういうフシがございますわ」


 店長と奈々枝さんが、頰に汗を垂らしながら頷き合う。


「うう…タマたん……また後でニャフモフを……」

「うう……シュウ兄たん……」


 涙ながらに人差し指の先と肉球を突き合わせて、渋々ながらにタマちゃんを床に下ろした。


 二匹並んだハナちゃんとタマちゃんが、不思議にボヤけた、白い霧のようなものに覆われてゆく。


 やがてその霧が晴れたとき、そこには清楚な巫女姿の妙齢の女性と、三毛柄のワンピースを着た少女の姿があった。


 せめて猫耳をと茶髪の頭を見やるものの、なんのことはない、普通の人間そのものだ。お尻の方にも尻尾は見えず、人化の魔法は完璧に扱えるようだった。


 そりゃそうか。向こうの世界とは違い、こっちの世界では、どれだけ人間の世界に溶け込めるかというのは、非常に大事な部分だろう。あっちでは平然と、猫耳も尻尾も隠す気もなく、はしゃぎ回ってた奴が数人いたけれど、こっちの世界でそれをやったら……ああ、一部、それが可能な場所…というか、それこそ至高な場所は存在してそうだけれど。


 深くは語るまい。い、行ったことはないからね!?


「ああー、ヒナママさんだ! 若干、若返ったようには見えるけど……そうか。年齢なんて、ママさん……ハナちゃん?には、関係ないってことか」ユウちゃんが嬉しそうに、巫女服姿のハナちゃんに駆け寄る。


「好きなように呼んでいいですよ。優輝君のことは、常連客としてだけではなく、友達のようにして接してきたつもりです」と、顔を傾けるようにして、どこか妖艶に目元を細めるハナちゃん。整然と整えられた長い髪が、フサリと揺れる。


 ああー。分かるわ。水商売をしている女性特有の、達観した色っぽい雰囲気そのものだ。経験値が高そうというか。


「う、うん。ハナちゃんが本名だっていうんなら、ハナちゃんで」笑ったユウちゃんの頰が、ほんのり赤く染まった。


 あ、惚れたな。知ぃ〜らね。


 ていうかユウちゃんのこの感じだと、元々気があったと見て間違いなさそうだな。


 ニマニマしていると、膝元にボフっとタマちゃんが抱きついてきた。


「シュウお兄ちゃん! お願いがあるのです!」透明感のある綺麗な瞳で見上げ、一生懸命に懇願する。


 はぁーい、なんですかー? 欲しいものがあるなら、なんでも買ってあげるよー。お兄ちゃんにどーんと任せておきなさい!


 膝を曲げて屈み込み、タマちゃんのサラサラふわふわした茶髪の頭を、ヨシヨシと撫でた。


「はぁ……またこのパターンか」と、ウィラルヴァが諦めたかのように、重いため息を吐いた。


 失敬な。またとはなんですか、またとは。


「私達は今、とある派閥から、傘下に降るよう強要されているんです。

 もちろんそういったことは、これが初めてではなく、これまでにも、派閥に加わるようにとの誘いは、幾度となく受けてきました。ですが私には、誰の下につくこともなく、自立していなければならない、理由があるのです。そのためこれまでは、たとえこの国の最大勢力である、天照大神様の誘いであっても、頑なに断り続けてきたのですが……」しょぼんと俯向き、野原に咲く草花のように可憐で小さな手を、キュッと握りしめる。


「今回の相手は、何度断っても、全く引き下がってはくれませんでした。あげくには、ひどく強引な手段を使って、私の大事な子供達の魂を、私の元から奪い去っていったのです。

 ハナ。あれを……」と、見た目に似合わぬ、落ち着いた大人びた仕草で、眷族のハナちゃんの方を振り向く。


 ハナちゃんは神妙な面持ちで頷き、どこから取り出したのか、一冊の雑誌をこちらに差し出した。


「あ! それそれ! 会社の同僚が持ってたのと、同じ雑誌だよ!」とユウちゃんが、弾けるような声を上げた。


「これは某オカルト系の雑誌であり、蝋燭を使った御呪いの特集と、優輝君が使用したものと、同じ蝋燭が付録されてあります。実はこの雑誌だけでなく、主婦層がよく購入する雑誌や、若者向けの雑誌など、複数の本に、同じ蝋燭が付録として付いた特集が、組み込まれているのです。

 これはここ最近に販売されたものであり、この地方だけに限られたものです。他の地方……例えば、天照大神様の勢力下や、大国主様の勢力下などでは、同じ雑誌であっても、この特集はされていません」


「……要するに、力のある神様の勢力下で、こんな罠を仕掛けちゃうと、露見して大事になっちゃう、ってことかな?」雑誌と蝋燭を受け取り交互に見比べながら、店長が冷静に見解を述べた。


「その通りで御座います。加えて天照大神様などは、かつては創造主様の眷族の序列に加わるほどの大神でありました。この国の秩序の大元を司る神でもあり、このような稚拙な呪いなど、持ち込むことすらできないでしょう。

 ……この世界の創造主様がお隠れになった際に、ただ一つ、言い残された言葉があります。仲間内で、争いごとはしないこと。みんな仲良くしろと。その約束事だけを残し、この地球の創造主様、創造神様は、眷族の序列上位に位置した神々であっても、その行方を追うことができなくなってしまいました。

 わたくし共は皆、その言いつけを守り、世界の秩序を守り続けてきました。今ではこの国において、神々の間での争いごとは、一切が禁じられております。

 あくまで表向きに、ではありますが……」そこまで言ってハナちゃんは、憂鬱げにふうと短く息を吐いた。


 店長が皮肉めいて口の端を上げ、軽く苦笑する。「守られてはいない…と。力のある神にバレないように、大事にならないように巧妙に、水面下での勢力争いが繰り広げられていると。それはまぁ、これまでの経緯からも、容易に想像できるけれど」パラパラ雑誌のページをめくり、例の御呪いの特集とやらに軽く目を通しつつ、


「タマちゃんの勢力下も含まれている、この地方でのみ、この蝋燭付きの雑誌が販売されてるのは……明確に、猫神一族ノハラノタマの人間を、ターゲットに指定したものとは限らないよね? 他に被害を受けた派閥は、多数あるはずだよ」


「もちろんターゲットは、わたくし共だけでなく、この地方に勢力を置く、他の派閥も含まれていることと思います。この辺りには大きな派閥もなく、中堅所の複数の派閥が割拠する地域であり、魂の奪い合いというのは、日常茶飯事とも言えるでしょう。今回のような小細工を仕掛ける者が現れても、不思議なことでは御座いません。

 ですが……奪われたわたくし共の配下の魂は、皆、同じ神の元に吸収されているのです。それはわたくし共に、傘下に加わることを強要してきた派閥と同一のものであり、明らかにマークされていることだけは、疑いようがありません」


 ふーむ。つまりは、一族の数が少ないからこそ、マークしやすい一家であると。しかも一人一人の質が、普通の人間と比べても、格段に高いものだ。捻出され、献上される神力も、普通の人間と比べて何倍あることか。


 目ぼしい内容は読み終えたのか、店長は雑誌をパタリと閉じると、二本の指で摘んだ蝋燭をクルクルと指先で転がしながら、


「聖魂、って言うのかな。神々の加護を受けた、人間の魂のことだけど。その魂を奪うためには、神々の樹木から、魂の本体である聖魂を、離脱させる必要があるんだよね? この蝋燭が、そのための呪術の一つであることは分かったけど、似たような呪術は、他にもあるんでしょう? 魂の奪い合いっていうのは、相当に昔から行われていたことのようだし」


「はい。ですがそのほとんどが、複雑な手順を必要とし、中には生贄が必要なほど厄介な術もあります。普通の人間が、個人で使用できる類の呪術では御座いません。

 そもそも聖魂が神の樹木を離れることは、このような呪術を利用しなくとも、個人の意志一つで成り立つことなので御座います。

 神々は加護下の人間を、決して縛り付けているわけでは御座いません。柱を離れたい意志があれば、何か特別な事情でもない限りは、自由に神の樹木を抜け出すことは可能なのです」


 店長が「ふむふむ」と顎に手を当て、考え込む仕草を見せる。


 ていうか、さっきからずっと、会話の進行を店長に任せ切りだけど……なんかいい感じに、話が進んでいるように思える。ユウちゃんなんかは、話の意味がよく分からないらしく、たまに相槌を打つ程度で聞き流しているっぽいけど。


 いやー。さすがはドンテンさんですね。小難しい会話は、店長にお任せしておきましょう。


 膝元に縋りついていたタマちゃんをヨイショと抱え上げ、片腕に抱きながら、店長とハナちゃんの会話に聞き入った。


「ということは……例えば宗教の勧誘など、改宗させることも、聖魂の数を増やすことになるわけか」


「その通りで御座います。その方法が最もポピュラーで、表向きにもまかり通っている方法と言えるでしょう。

 あるいは神社に参拝に来た客に、運を授け、有り難みを持ってして聖魂を引き寄せる手段も御座いますし、神々の間での取引として、聖魂が遣り取りされる場合も御座います。または他の神を支配下に置くことで、所有する聖魂を纏めて手に入れるということもあるのです。

 それと近年では、一柱の神に一途な人間も減り、頻繁にあちこちの樹木を行き来する者や、中には魂の欠片を複数、あちこちの樹木に寄り添わせている人間もいます」


「それって一人の人間が、複数の神に仕えているって状況!? そんなことが可能なの!?」


「可能で御座います。ただしその場合、その人間は聖魂の十割を、一処ひとところに集めることができませんので、立場も霊格も低く、人間として生まれ出でても、これといって突出した能力にも恵まれず、不遇な生涯を送ることが常に御座います。守護霊として修行することもできませんし、ただただ神の威光に縋り、神頼みをして生きることになるでしょう」


 店長はゴクリと息を飲み、


「なんか分かる気がするわ。そういう人間に心当たりがあるっていうか……もしかしたら僕がそうかもなぁー。結構あちこちの神社や仏閣にお参りしてるし」


 はぁーっとため息を吐いた店長に、俺の腕に抱っこされたタマちゃんが、ニコリと微笑みかけた。


「参拝すること自体が、二心を表すことではないですよ。たくさんの神々に顔見せして、知っていただくことは、大事なことなのです。

 私も聖域の本殿である神社を持ってますけど、一族以外の人間がお参りしてくれるのは、嬉しいのです。手を合わせて祈っている間、その人間の人生や、想いを、垣間見ることができます。ときには、どうしようもないダメダメな人もいますけど、気に入った人には、ちょっとだけお土産をあげちゃいます。それで有り難がって祈ってもらえれば、想いの分だけ、私も神力を得ることができるのです」


「なるほど。それでもし御利益のある神様だって知られるようになれば、参拝客だって増えますもんね。互いにメリットがあるわけか」


「恩恵を受けたら満足して、お礼の参拝に来ない人間がほとんどですけどね。困ったときだけお願いに来るような人間には、絶対にお土産あげません。まぁ、よほど切羽詰まった人間がいたら、助け舟を出すことはありますけど。

 えっと……論点がズレてはいませんか? そういう話がしたかったわけではないのですけど」と、タマちゃんがアハハと空笑いした。


 ああ確かに。店長が聞きたいことは、おそらくそういうことではないと思う。


 俺が知りたいことも、もっと具体的なことだし。


 と、


「私からも、一つ質問がございます」と、ユウちゃんの背中でフワフワ浮かんでいた奈々枝さんが、スッと右手を挙げた。


野播邏乃玉ノハラノタマ様の一族は、近隣の派閥の中でも、特に武闘派として名を馳せた一族であったと記憶しております。こう言っては気分を害されるかも知れませんが……猫神、野播邏乃玉様といえば、非常に気難しく、気性の強い荒神として通っていたと思います。

 私の主神あるじである山建根命タツネ様からも、あそこの一族とは事を構えてはならないと、何度か忠告されたこともありました。ですがお見受けする限り、とてもそういったふうには見えないのですが……」肩車してもらおうとヨジヨジと俺の肩をよじ登るタマちゃんに、チラチラと遠慮がちの視線を送る。 


「それは……はい。タマ様は確かに、普段通りであれば、気が強くワガマ…御自分の行く道は御自分で決められる、強い意志を持った御方で御座います」


「あ、体良く言い直した〜」とタマちゃんが、片方のほっぺをぷうと膨らませた。


 ハナちゃんはハァとため息を吐き、


「ですが先日、しつこく合併を言い寄ってくる連中に、タマ様はお気を害さ…テッペンきてブチ切れてしまい、使者を半殺しにして堂々と宣戦布告を行ってしまいました。その後、こちらから仕掛けることは、わたくしが頑として阻止しているのですが、彼方からは幾度となく、武力に優れた刺客が送り込まれてきているのです。そのせいでタマ様は、神力の消耗を少しでも抑えるために、普段はこのような幼女、子猫の姿を取っていらっしゃいます。あざといにもほどがありますが、実に堂々としてらっしゃって清々しいくらいです」


「ああー! ひどい言われよう!」両方のほっぺをパンパンに膨らませる。


 肩車して俺の髪の毛をガッシリと掴んだちっちゃいお手手に、ぐんと力がこもる。


 うん。問題ないよ可愛いなぁもう。タマちゃんの頭に手を伸ばし、ヨシヨシと撫でる。途端にご機嫌になったタマちゃんが、頰を赤らめてニヘラ〜と笑った。


 持って帰っちゃっていいですかねこの子。


 店長がそんな俺とタマちゃんの様子を、微笑ましく見守りながら、


「まぁ見ての通り、双方の大将同士がこんな状態なんで、共闘することは問題ないと思います」


「有難う御座います。理道様、ウィラルヴァ様の協力が得られれば、これほど心強いことは御座いません」と、ハナちゃんがやや複雑な表情ながらも、恐縮して深々と頭を下げた。


 うんうん。戦闘に関しては、このお兄ちゃんにどーんと任せておきなさい。どうやら戦う相手も明確に分かっているようだし、例の蝋燭を使った稚拙な罠を仕掛けたのも、その派閥であることはほぼ間違い無いだろう。


 神の樹木を離脱させる呪術が存在していることはもう、手の打ちようがないことだけれど、それを使用するのを辞めさせられれば、とりあえずの事の解決には至る。


 戦う相手を特定してもらえた時点で、こちらにとっては大きな利点だ。決してタマちゃんが可愛いからだとか、にゃんこ一族だからとか、不純な動機で共闘するわけではないのだよ。


 ……ホントだよ? なんかウィラルヴァがずっと黙ってジト目でこちらを睨みつけているけれど。


「そうなると気になるのは、相手が一体誰なのか、ってところだけど……」


「はい。協力を約束していただければ、もはや隠す必要も御座いません。

 国乃樹魅富くにのきみと…という神を筆頭とする派閥に御座います。このところグンと勢力を伸ばしてきた一派であり、わたくし共以外にも、多大な被害を受けた派閥が、多数あるのです」


「ん? 国乃樹魅富? どこカで聞いたコトある名前ダナ」と、蛇貴妃がカクンと首を傾げた。


 確かに……どこかで聞いたことがある名前だ。蛇貴妃と並び、うーんと首を傾げる。


 ……あれ? アホが居ね?


 と、そのとき、


 ドゴォォン! と、正面玄関の方から、何かが破壊される轟音が響いてきた。 


「なんダ? 水道管デも破裂しタか?」蛇貴妃が呑気な声を上げる。


 アホウ! この流れからして、どう考えても敵襲でしょうが!


「あ、アキト! ハナ! アキトが怪我した!」タマちゃんが叫び、俺の肩を蹴ってピョンと飛び降りていった。


 主神だからか。眷族の状況は瞬時に把握できるものだ。


 てかタマちゃん! お兄ちゃんから離れてはいけません! お外は怖い人達だらけなんですよ!?


 慌ててタマちゃんの後を追う。


 開け放たれた玄関を飛び出した先には、


「おう。ご主人様のお出ましか? こんな雑魚が門番をしているようじゃ、音に聞こえた猫神一族の長も、タカが知れてるってもんだがなぁ!」


 粉々に粉砕された駐車場のアスファルトの上で、倒れ伏したアキトビ君を踏みつけて笑う、巨大な猪男の姿があった。


 その後方には、猪男の仲間だか上司だか知らないが、ドス黒い体毛をした、狼に良く似た獣人の姿がある。そしてその隣には、


「やれやれ、ここまでくると、厄介を通り越して、有り難くまで感じてしまいますよ。

 よっぽど縁があるようですね。なぜ貴方がここにいるのですか。……秀一さん」


 裾の長い黒いコートを風に揺らめかせ、仕方なさそうに肩を竦めた慎司が、心の内を見せない飄々とした顔に、呆れたような冷笑を浮かばせていた。

 

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