遭遇

足が、動かない。


此処は何処だろうと考える前に、真っ先にその事実が突き付けられ、思考を支配される。ただ、それだけ。空っぽの頭に雨の音が響く。


恐怖は無かった。普通なら動揺で叫び声の一つでも上げそうな状況だが、声を出すという選択肢は思いつきもしなかった。辺りを見回そうとも思わない。それが当たり前であるかのように、まるでゲームのシナリオの中で起こるイベントでも見る時のように、正面の一点に自分の視線が固定されていた。視界の端に_____色からして“立入禁止”だろうか_____標識が立っている。


ふと、視界の一点が動いた。


遅まきながら判ったこと、知らない街の一角であるらしい場所の建物の間から、その少女は現れた。日本人のものでは無いように見える淡い青色の瞳が、数メートル離れた先からこちらを捉える。


_____暫く目を合わせたままの状況が続いた後、彼女は何事も無かったかのように、再び建物の間に姿を消した。足音が鳴り止んで、また雨の音だけが聴覚を満たす。


いい加減その音が耳障りになってきて、何処かに歩き出そうとしたその時、一瞬世界が暗転し、切り替わる。





再び視界が晴れた時、そこに広がっていたのは見慣れた天井だった。



夢だったのだろうか。


いや、夢だったのだろう。それはこの朦朧としたままの意識でも解っている。その事実を理解しきってしまう前に、未だ耳に残る雨の音に身を任せ瞼を閉じた。


違和感に塗れたあの場所に戻れないことなど、とっくに解っていたのに。

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