この心臓が冷えていく

それさえも心地良かった。



肌を刺す氷のような風が、

駆ける僕の肺に満ちていく冷えた空気が、

それに相反して呑気にひらひらと舞う雪が、

全てが苦しくて、美しい。


現に呼吸がままならなくなっているにも関わらず、何故だか僕はこの冬という季節を_____心から好いて、何度も待ち望んでいるのだ。



痛みにも似た指の赤みが袖を引く。

この心臓が冷え切ってしまわぬようにと、仕方なく足を止め、重いコートに付いたポケットに乱雑に手を突っ込んだ。


_____いっそ紅海月べにくらげにでもなってしまえば、ずっとこの場所に居られただろうか。


ふと頭をよぎったその空想は、再び雪を踏み出した僕の足音に呆気なく掻き消されていった。

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