The Full Moon

籠城して、幾年もの時が過ぎ去った。


「……………ふふ、今夜は、今夜は月が綺麗ですね。」


長い黒髪に赤い花の細工を飾った、純粋無垢な横顔が揺れる。


「貴方、知っていますか。如月に見る満月は、すのーむーん、と呼ばれるのだそうですよ。………そういえば、最近はちらちらと雪が降っているのを見かけますね。ふふ、今の季節にぴったり」


そう言って微笑んだ彼女は、先刻雲に隠れて霞んだ月を、まるで初めて見る花のように眺めていた。


「…………星の並びの観察をするという名目でやっと空が見られるなんて、父上には少し呆れてしまいます。………なんて。そう思いませんか?」


窓を眺める二人の後ろ、積まれた本には見向きもせず、


「ふふ、いつか……………貴方と、逃避行というものをしてみたいのです」


更に重ねられた気が遠くなる程の年月に気付きもせず、


「……………それも叶わぬことなのでしょうか」


貴女を守る為に振り続けた________もう朽ちてしまいそうな刀身からは目を背けて、


「………………またここで、月を見ましょうね」


追憶に囚われて、半透明なその手を__________これからもずっと、何度だって重ね続けている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る