Recollection

(この小説には、所々に死に関する描写が含まれています。軽微なものではありますが、苦手な方は自主的にブラウザバックをお願いいたします。)





「ねえ………知ってる?」

コーヒーと共に尽きた話題を埋めるように、グラスの氷をストローで鳴らしながら。


「前世で結ばれた二人って、今世では絶対結ばれないんだって」

相手の反応を伺うような顔をして、斜め下から目線を合わせて、肩くらいまでの黒髪の女が言った。


「聞いたことはあるよ。…………何が言いたいの」

苦笑気味に茶髪の男が尋ねる。


さあ?、と誤魔化した女の瞳には、目の前に居る筈の男の面影が残った、別の人間が映っていた。


。*.。*.。*


口寂しくなって、氷が溶けかけた冷たい水を流し込んでみる。

大して量はない筈なのに、触れた覚えのある刺すような冷気が背中を震わせて、息が止まる。


「………ねえ」

その様子をずっと見ていたらしい目の前の男は、長くて短い沈黙を破るように口を開いた。殆ど変わらないタイミングで、揺らいだ光景が元に戻る。


「そろそろ、教えてくれても良いんじゃないの」

「っは……………何を」

流れからして、その答えは解っていた。けど、そうでないと思いたかった。_______案の定、突かれたのは図星だった。



「……………そんなに、俺が嫌い?」



「……………嫌いじゃあ、ないけど」

けど。怖いの。曖昧な記憶が、それに重なってしまう貴方が。どうしても、焼き付いて焼き付いて焼き付いて離れない、息苦しさが_________!


「……!どうしたの。……………誕生日の時みたいな顔してるよ」

はっとして、一瞬の回想から解放される。


「……………ごめん。…………誕生日……………」

「そう。俺さ、チョーカーあげたじゃん」

雪の日、首元に風が当たって冷えていた時。似合うと思うから、と遠慮がちに手渡された所までは覚えている。その時まで特に興味がなかったから、首飾りなんて付けたことがなかった、ということも。


「で、その場で付けようってなってさ。………梓、初めてだから難しいって言ってたでしょ。だから、俺がやろうとしたら…………」

また苦笑しながら、ため息をひとつ吐いて続ける。


「………急に、苦しそうにしたじゃん?」




_________此方に、目を向けずに。忘れかけていたことを呼び覚ますように。




「最初は、普通に………付き合ってもいない男にここまでされるのはそりゃ嫌だったな、って思ったんだけどさ。なんかこう……….思い返したら違ったんだよな。怖がってた、っていうか」



_________『どうして応えてくれないの』という言葉と、『裏切ったのか』という眼と、重なるように。



「はは、なんで………だろ。金具が、冷たかった、から?チョーカー、が、苦し、かった、から?…………わ、わかん、ない、わか、ん、な、いよ」


_________その掌の冷たさと、頭が空になる苦しさと、重なるように。


「………ちょ、大丈夫?顔、真っ青だよ」




「_______嫌だよ、お願い、殺さないで!」


「…………え?」


落ち着いて、という声が、遠くから聞こえる気がする。


目の前にいた筈のあの人は、何処?


頭が真っ白になって、椅子から転げ落ちて、床に座り込んだ。



あまり聞きなれない人の声が、大丈夫ですか、と尋ねている。




無い筈の体験が、見ていない筈の鋭い眼が、私を___________




。*.。*.。*



ねえ、知ってる?


前世で結ばれた人は、今世では結ばれないんだって。



ねえ、知ってる?



今世で結ばれた人は、来世では結ばれないんだって。




ねえ、知ってる?




チョーカーや襟の詰まった服を着れない人って___________




_________前世で窒息死したり、なんだって。

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