沈没
「かなり人数が減りましたね……病人や子どもは全て移送出来ました」
「この調子なら後三日で脱出できます、それまで船が持つかどうか……」
こんな話をハンスさんや航海士さんたち、それにプリンセスさんたちとしながら、一日は終わりました。
少し横になって寝られるようになりました。
次の日、再びアンジェリカは奮闘しました。
その日も六回往復し、約三百七十名の乗客を移送、女性客は全て運び終わりました。
最後の船に、アンジェリカはプリンセスさんたちに乗るように薦めましたが三人は、
「アンジェリカ、私たちはお友達でしょう、それに残った殿方たちのご飯も誰かが作らねばならないし、部屋も開いているし、一緒に寝泊まりすれば大丈夫でしょう?」
「アンジェリカも疲れているでしょう、ご飯なら私たちが作ってあげるわ」
そういわれて、アンジェリカは甘えます。
そしてすぐに寝てしまいました。
「あらら、もう寝てしまったわ、疲れていたようね」
と、アルフォンシーナが云いました。
さらに次の日も奮闘して六往復、約三百五十名、合計千七十名、乗客は全て運び終わり、プリンセスさんたちも最後にゴールデン・ユーコン号へ移りました。
女で残ったのは、十名の動力魔法使いとアンジェリカとポリーさんだけとなりました。
「後、百三十名ですね……二往復と小さい船一往復ですか……午前中には終わりますね……」
「最後は私たち女だけになりますかね……」
「私は最後の船に載せて頂きますよ」
と、ハンスさんが云いました。
「一応これでも騎士ですから、一番最後に船を離れますよ」
その夜、プリンセス・ユーコン号では、異様な音がしました。
当直していたハンスさんが走ってきて、
「大変です、船が壊れ始めています!早く避難を始めなくては!」
と、叫びます。
アンジェリカは、あられもない姿で爆睡していたましたが、跳ね起きてすぐに準備を始めます。
「ポリーさん、動力魔法使いの皆さんをたたき起こして下さい、ハンスさん、皆を早く集めて救命ボートへ、一回目に乗せるだけ乗せますよ!」
アンジェリカはメガホンを取り、あらん限りの大声で、
「沈没の危機!いまからそちらに移住作業を行う!照明をお願いする!」
深夜のユーコンに、アンジェリカの絶叫が響きました。
すぐにゴールデン・ユーコン号に明々と照明がつきました。
「救命ボートに乗せるだけ乗せますした、早く行って下さい!」
ハンスさんが叫んでいます。
「できるだけ上の方へ移動していて下さい、全力で戻ってきます!」
大小二隻の救命ボートは、すぐに浮揚を始め、全力でゴールデン・ユーコン号に向かいます。
すし詰め、アンジェリカの方は六十名ほど乗っている様です。
小さい方も三十名は乗っているでしょう。
それでもアンジェリカは二倍の速度で救命ボートを動かしました。
後四十名……アンジェリカは最後の救命ボートを物凄いスピードで帰します。
見ればプリンセス・ユーコン号は傾き始めているのです。
「ハンス!早く乗りなさい!」
船の最上層へ避難していた四十名を何とか乗せることが出来ました。
必死で救命ボートを浮揚させて、何とかゴールデン・ユーコン号の甲板へたどり着いた時、振り返るとプリンセス・ユーコン号は轟音とともに沈んでいきます。
というより、バラバラに壊れていったのです。
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