救命ボート
二日目の午後に甲板は水没、幸いなのはそこから船は沈まなくなりました。
ぎゅうぎゅう詰めの中でプリンセスたちは獅子奮迅です。
居住スペースを一応男女別に分けていますが、結構苦しい生活となりました。
それでもまぁ三日です、何とか我慢ができますが……
「ねぇアンジェリカ、明日、下りの船が来たとして、接舷は出来ないでしょう、どうしてむこうの船に乗り込むの?」
トスカが聞きます、皆それが心配だったのです。
「この一等船室甲板には救命ボートが何隻か有るでしょう?あれを使うのよ」
「でも周りは肉食魚の巣、救命ボートは危ないと聞いているわよ?」
「救命ボートは空を飛ぶのよ」
?
「私のチョーカーは側女、魔力は膨大とはいいがたいけど、それでもかなりの物で、古代のレムリアの大魔導師程度の力が有ると聞いているの」
「私が救命ボートに乗ってボートを浮揚させ、動力魔法使いの方が進行方向へ船を向ければ、何とか空中を進めるはず……いまから試してみましょう」
救命ボートは、何とか浮き上がり空を進みます。
しかし、結構魔力を消費することがわかりました。
この救命ボートはカッターボートタイプで、大人の男性が両手を広げれば、五人分の長さがあり、約四十五名が乗れるそうです。
救命ボートは空を飛び、プリンセス・ユーコン号を一回りして元ある場所へ収まりました。
船員さんたちがボートを固定します。
大歓声が沸き起こります。
女性客の中には泣いている方もいますし、アンジェリカに向かって、拝んでいる方もいます。
皆、本当にこれで助かると感じたようで、なにかしら、ホットした空気が流れ始めました。
「疲れたわ……五回が限度ね……一日二百名ですか……この船の定員は千名、船員さんたちを入れれば千二百名……六日ですね……」
アンジェリカの他に、動力魔法使いは二名必要と判明しました。
次の日の午後、日暮れ前に下りの船が通りました。
救助要請の発煙筒と手旗信号で状況を説明、すると相手の船、ゴールデン・ユーコン号はかなりの近くまでよってきてくれて、前後に錨を投げ入れ何とか川のどまんなかで停泊するという荒業を行なってくれました。
「錨、大丈夫なのかしら?」
航海士に聞くと、肉食魚はそんなに行動範囲は広くないとのこと。
もともと、ユーコンの川底から湧き上がる、温水の中にいる微生物を、食料にしているそうです。
ただ雑食性で近寄る生物には全て攻撃するそうです。
巣を外せばユーコンは安全なことになるのです。
ハンスさんがメガホンで救助方法を説明しています。
何とか聞こえたようで、了解の手旗信号が返って来ました。
「さあ、始めますよ、最初ですので、念の為、動力魔法使いの方は、全員乗って下さい」
「定員四十五名ですが、乗客は三十五名乗ってもらって下さい」
子どものいる女性の母子優先です。
最初の空中航海です……うまく行きます……
難なく救命ボートは、ゴールデン・ユーコン号の甲板に降り立ちました。
ゴールデン・ユーコン号の船長さんが、驚いたような顔で待っていました。
「黒の巫女様のアンジェリカ寵妃様ですか、ご苦労様です」
「よろしくおねがいします、ところでこの船には動力魔法使いは乗っていますか?」
「五名乗っていますが」
「すいませんが集めてくれませんか?」
集まった方に対して、アンジェリカは協力を要請、もう一隻、空飛ぶ救命ボートが可能か、試して見ることにしました。
多分小さいタイプなら可能と思われます。
そこで急遽、ゴールデン・ユーコン号の甲板に、小さいタイプを用意してもらいました。
その結果、このタイプの救命ボートなら、動力魔法使いクラスが七名いれば、何とか浮遊して進めることがわかりました。
二十八名乗りですから、二十名の乗客を運べる事になります。
再び救命ボートはプリンセス・ユーコン号へ、そしてもう一隻を引き連れています。
結局、この日は六往復しました……
約三百五十名の女性客を運びます……
最後にゴールデン・ユーコン号から、必要物資を運び込みました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます