女の敵ね


 負けたような気がしたアンジェリカ、しかしそこはアンジェリカのいいところ、アルフォンシーナを認めたのです。


「私は貴女なら、アウセクリス様にお仕えされるのに、意は唱えません、もし聞かれたら薦めます。」

「えっ……」

 アルフォンシーナが、少々驚いた顔をしました。


「アンジェリカさん……出来たら私も、お友達の一人にしてくれませんか……」

 アルフォンシーナは丁寧に云います。


「私で……よろしければ……でも、アルフォンシーナさんは私より年上……お姉さまなのですが……」

 クスクス笑いながら、アルフォンシーナが、

「確かにオバサンですよね、私。」

「いえ!そんな訳ではありません!」


 そんな事もありましたが、結局四人はお友達、でも四人ともプリンセス。

 お忍びのアンジェリカのお付きは、ポリーさんだけですが、後はかなりいます。

 だから男は寄ってこない……なんてことは無いのです。


 今度は本物のいい男たちが……プリンスさんたちや、未来の公爵さんたち……

 こうなると、さすがに断れなくなります、相手が相手ですから……


 アンジェリカを除く三人は、次々と踊りの相手をするはめになります。

 アンジェリカも、踊らざる得ない事になります。


 ポリーさんが耳元で、「チョーカーを表してはどうですか?」とささやきます。

 確かにそうでしょう、寵妃に不埒な事をしようとすれば、生命が無いのですからね。


「私はこの様な女ですよ、それでもお誘い下さいますか?」

 側女のチョーカーが、アンジェリカの細い首に、ピッタリと巻かれています。


 ざわめきがプリンセス・ユーコン号を支配します。

 しかし、そこはやんごとなき身分の方々、動じない事……と、いうか無知というか、厚かましいというか……

 寵妃といえどお構いなしです。


 また一人、「どなたか私と踊ってくださいませんか?」と来ました。

 仕方ないので、相手をするアンジェリカですが……

 踊りながら、堂々と口説いて来るのには、閉口したようです。


「生命の保証ができませんよ。」

「かまいません、私はこの後、黒の巫女さまに、貴女を下賜してくれるように、お願いにいきます。」

 いいますね、この男は。


「えっ!」と、驚いてみせたアンジェリカですが、すこしぐらついたのは確かです。


 すこし興奮したアンジェリカでしたが、戻ってきたアンジェリカに、アルフォンシーナが、

「アンジェリカ、あの男は有名な女たらし、気をつけてね。」

 と、忠告します。


 普通の女なら、いらぬおせっかいでしょうが、さすがに黒の巫女の寵妃、ハッと思うことがあります。


「アルフォンシーナ、ありがとう……私、たぶらかされる所でした、あの男、『どなたか』といったのに、私を下賜してもらうように、お願いするといいましたから。」


「嫌な男ね、何処の男?」

 聞いていたトスカが、聞きました。

 ルクレツィアのお付きの女が、

「テッサリアの、アマート侯爵のご子息、ベニート様です。」

 と、答えてくれました。


「ベニート・アマート?だれなの?」

 と、トスカが、アルフォンシーナに聞きました。


「有名な女たらし、乗り逃げの名手……」

「女の敵ね。」


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