船上舞踏会


 うるさいゴミ男どもには、確かに辟易していたアンジェリカですが、大河ユーコンをのんびりと遡上する豪華客船、プリンセス・ユーコン号のクルーズには満足しているようです。


 今夜は舞踏会……

 夕日に輝くユーコンが、今夜のイベントを祝福しています。


 アンジェリカは、今回の里帰りにあたり、黒の巫女にこういわれました。


 ……人々を良く見てきなさい、貴女の故郷の思いを確かめて来なさい。

 そして若いのですから楽しんできなさい、殿方と多少のことなら構わないですよ。

 もし好ましい方が出来たらいいなさい、しっかりした男なら貴女をその男に下賜してあげます。

 ただエッチはダメよ、もししようとすれば、相手の生命がなくなりますからね……


「でも、そんな事はありえない!私は貞節な女!アウセクリス様だけが私の全てというのに!」

 ポリーさんが、

「まぁまぁ、多分巫女様は、お嬢様がご自分で未来を選択出来るように、拘束したくなかったのでしょう」

「この歳になりますと、巫女様のお考えがよくわかります」


「そうなの?」

「そうですよ、お嬢様は大事にされていますね」

「……」


「とにかく、アウセクリス女王陛下に甘えて、舞踏会を楽しみましょう」

「男が汚らわしいなら、女と踊ればいいのですから」


「そういえば、アウセクリス様はダンスがとてもお上手……」

「一度、愛人の方々と踊っているのを見たことがあるわ……お綺麗だったわ……そうね、踊りましょう」


 ポリーはアンジェリカに、娘らしい思い出を持ってもらいたかったようで、舞踏会に出ることを勧めたのです。


 専属楽士が音楽を奏でている、老いも若いもその調べにあわせて踊っている。

 アンジェリカにも誘いが次々と来るが、いずれも軽薄そうな輩で踊る気になれない……

 と、一人の女がやってきました……


「私と踊らない?」

 年格好はアンジェリカと同じような美少女で、かなりの身分と判ります。

 幾人もいるお供が、主人がアンジェリカに話しかけたのが、お気に召さないような顔をしています。


「トスカさま、ご迷惑ですよ」

 やんわりと踊るなといっているようです。

 ポリーさんが、少々、ムッとしているのが、アンジェリカにはおかしかったようで、クスクスと笑ってしまいました。


「失礼しました、トスカさま、私のような女とは踊らないほうが良いですよ」

「どうして?私が王女だから?」

 トスカとはコムネノス王国の第三王女の名前……


 アンジェリカも知っています。

 ただ会うのは初めて、美しいと評判の王女さまを初めて見ました。


 コムネノスはエピロスと違い、ハイドリア連合王国の構成国。

 この二国は先のフィンの内戦の折、戦った相手なのです。


 でも何で……

 プリンセス・ユーコン号は、パリスに向かってユーコンを遡上しているのに……

 まぁ、王族ですから、色いろあるのね……


「貴女、お名前は?」

 お供の意見など聞く耳を持ってないようで、上から目線で物をいっています。


 ポリーさんが、かなりご不満のようです……

 アンジェリカにその様な口をたたくトスカに、かなり怒り心頭のようです。


「ポリーさん、お忍びなのですよ」

 と、小さく耳打ちし、

「私はアンジェリカともうします」


「アンジェリカさんというの?じゃあ踊りましょう」

 トスカはアンジェリカの手を取り踊り始めます。


 美少女が二人、華麗に踊っています。

 人々の注目を浴びていますが、何やらいやらしい視線が混じっています。

「まったく……」

「本当に……」


 二人はお互いに顔を見合わせて、「貴女も!」とハモって……

 その後、妙に親しくなった次第です。



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