歌は料理を熟成させる


 ダフネは緊張してはいたが、そこは趣味の世界、誰が見ていようがお構いなし。

 玉ねぎみたいな物を、皮ごと四つに切って鍋に投入、人参らしきものを、手でへし折って、さらに投入……


「この白いの何かしら?きっと塩ね♪」

 と、砂糖をドバドバと入れます。


「そういえばスープが少ないかしら?そうだ、お酒を入れれば美味しくなるわ♪」

 と、今度は酢をドバドバと入れましたね。


 ヴィーナスが何もいわず見つめていますが、ダフネは絶好調、最早周りは見えていません。

 ルンルンルン……ダフネは鼻歌を歌いなが、お鍋をかき混ぜています。


 その時、

「お料理は楽しぃぃぃ♪お母様の思い出ぇぇぇぇ♪村娘は着飾ってぇぇぇ♪男を誘惑するぅぅぅぅ♪秘伝の料理を作りましょうぅぅぅ♪畑を豊かに実らすのぉぉぉ♪乙女の魔法を一ふりすればぁぁぁ、村は豊かにな・る・の・よょょょょ♪」


 歌いながら踊っているダフネ、しかしヴィーナスは、何かに気がついたようなのです。

「ダフネさん、その歌、どこで覚えたの?」


「えっ!両親が歌っていたのを、自然に覚えたのですが。」

「ダフネさんのご両親は、神聖教の熱烈な信者とお聞きしていますが、どのような仕事をしていたのですか?」

「そういえば農家でした、毎日毎日、畑でこの歌を歌っていましたね。」


「ねぇ、ダフネさん、もう一度、今度は別の歌を歌って、作ってみてくれませんか?」

「お願いします、ね、ダフネさん。」

「はぁ……」


 ということで、毒薬料理はもう一回戦……でも調子の乗らないダフネさんではあります。

 何とか作り上げました……

 それはまごうことない、危険な代物……


 でもヴィーナスは迷わず、その危険な鍋の中の物を味見します……

「あるじ殿!」

 ビクトリアが悲鳴をあげました。


「トイレはこっちですよ!えっ、あるじ殿、なんともないのですか?」

「とんでもなくまずいですが、食べられないわけではありません。」

「……」


「最初の料理は違いますよ、あれは毒物。」

 ビクトリアが、

「どうしてですか……」


「今の歌ですよ、あの歌は魔法が発動されるようです。」

「古代レムリアの大魔道師のレベル、古代の魔法です。」

「もっとも、歌えば発動されるというわけではありません。」

「歌い手の素質によりますが、ダフネさんだからこそ、完全な形で発動できたのでしょう。」


「完全?」

 ダフネが聞きます。

「そう完全な形です、あの歌は、食物を肥料に変えるのです。」

「それも完全無欠な肥料です、半端じゃないですね、この肥料は。」

「私の料理は、肥料だったのですか……」


「そう、それも物凄い肥料、荒地を耕地に変えられるほどのね。」

「……」


 お父様……ダフネは思い出した……

 幼い頃……両親はダフネによく云っていた。


「もし、お前が大賢者になれれば、このエラムの貧しき人々を、少しでも豊かに変えるのよ。」

 と、お母様が云っていた。


「歌を忘れるなよ、もし黒の巫女様に出会えれば、必ず歌の意味が判る、先祖からそう伝えられている、いつからかは私にも分からぬのだが。」


「縁ですか……お父様……」

 と、小さくダフネは呟いた。


「まぁ、とにかくダフネさんは料理下手でも、食べられないものを、作っているわけではなかったのですよ。」

「歌を歌わなければ、何とかなりますよ、さて私が特訓してあげましょう。」


 で、その晩はヴィーナス直々のお料理教室、そしてお手製の料理本……

 勿論、ダフネだけではありません。

 ビクトリアも、アテネもとばっちりを受けて、なれない料理をする羽目になっています。


 そして、その結果は……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る