類い稀な女


 ジジが、

「それにしてもダフネ様の料理の効果は凄い……」

「嬉しくないわ!」

 ダフネがふてくされています。


「どうせ私は魔女ですよ!それも料理の下手な!」

「いや、お上手ですよ、見事なほどの毒薬ですよ」

「ジジ!」

 ダフネの怒鳴り声がシビル神殿に響いていました。


「まったくジジは……巫女様まで巻き込んで……」

「しかし悔しいわ……料理一つ出来ぬようでは、女として恥ずかしい……」

「大賢者は完璧でなければならぬのに……」


 ダフネとしては、ジジの嘲笑いが悔しかった。

「見てなさい、この私は完璧な女、料理ぐらい本気を出せば」


 ダフネは十日のお休みを取りました、そしてあの家に閉じこもります。

 山賊街道をずんずんといった、町の外れにあるダフネの『夢見るお家』です。


「懐かしいわね……巫女様と初めてお会いしたときは、いつだったかしら……あの時はビクトリアもいたわね……」

「そう、私もいた」

 すーと人影が浮かび上がります。


「ビクトリア、珍しいわね、この家は嫌いなのでは?」

「トイレ三昧をしたからな……もっとも今思うと、あるじ殿とあのような出来事をご一緒出来たのだから、良かったといえるが」

「で、何の用、私は忙しいのよ」


「あるじ殿がダフネにと、これを書かれた、今夜お泊りに来るそうだ、昔を懐かしんでおられた」

「巫女様が私のために?」

「なんでもあるじ殿の世界の料理の入門書らしい」

「ダフネが料理を修業すると聞かれて、自らエラムの言語に書き直されたらしい、結構夜なべされていたぞ」


 そういわれて渡された料理本、ダフネは押し頂くしかなかった。


「ビクトリア!巫女様がお越しなさるまでに、少しでもうまくなるわ!貴女、犠牲になりなさい!」

「いや、それは……アテネを連れてくる」


 逃げるようにビクトリアは消えて、しばらくするとアテネを連れてきた。


 アテネ……

 この無表情な元剣奴は、なぜかダフネの料理を下痢など起こさずに完食できる、本当に稀な女である。

 色気とは無縁であるが、真っ白な肌と、銀色の髪、そして赤い瞳の少女である。

 その美貌は中性的で、美少年にも見える。


「私になに用だ、ビクトリアさん」

「用があるのはダフネだ」


「ダフネ様が?」

 アテネは黒の巫女以外では、ダフネだけに『様』をつける、ダフネを母のように慕っているのだ。


「実はお料理の修行をしようと思うの」

「今晩、巫女様がお越しになるの」

「それまでに、少しは腕を上げたいの」

「でも味見役がいなくて……ビクトリアの根性なしが!」


「酷いいわれようだな、しかしアテネ以外、食したものは全員ひどい目に会っているのは事実だ」

「根性だけでは食べられないのがダフネの料理だろ」


「私で良ければダフネ様のお料理、喜んで頂きますが」

「アテネさん……味の批評をしてくれれば助かるわ」

「私の味覚は確かなつもりです」


「本当なのか?」

 ビクトリアが疑問を投げかけますが、アテネが「本当です」ときっぱり断言しました。


「では聞くが、ダフネの料理の味はうまいのか?」

「美味しくない!まずいといえる、しかし愛情を感じる」

「私は愛情に対しては凄く敏感に感じる」

「それゆえダフネ様の料理は、涙するほどありがたく美味しい」


 ダフネは思わずアテネを抱きしめました。

 愛情に飢えているアテネ……この美少女が愛おしかったのです。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る