女の魅力は心も大事……


 最高の娼婦に客がやってきた。

 女は客の話題に対してかなり的確に返事をしている、それは幼いペピにも分かった。


 そしてその話題はかなり高度なもので、言葉遊びも優雅、しかも次から次にやってくる客に対して、何事もないように話を楽しんでいる、その様に見えた。


 どれほど高度な知的会話でも受け答えをしている。

 優雅に、客の望む話題を提供し、聞き役に徹している……


「そうだわ……私、いつも自分が喋ってばかり……、お客さんが喋らなければ……」

 ペピは考えた。

 自分は、この娼館の皆さんと同じ立場……


 あえていうなら、お客さんがアウシュリネ様……

 居心地の良い女がいいのだわ……また訪れたい気持ちにさせる……


 ここの女の人は話題が豊富、よく考えれば、私は自分の興味あることしか喋れない……

 それに……今気づいたのだけど、喉が渇いたと思った時、あったかいお茶が出たわ……


 こうして考えている時、目の前の女の方は黙っていてくれる。

 私ならきっと喋るわ……


 ペピは聞いて見ることにした。

「見ていて思ったのですが、ここは娼館ですよね、お客様は……その……」

 さすがに聞きにくく、ペピは赤面してしまった。


「ペピ様、殿方は気持ちよくなるために私たちを買います」

「でも気持ちよくなるのは睦事だけではありません」


「例えば、おしゃべりは楽しいと思いませんか?」

「気分が滅入っている時に、楽しい話を提供出来れば、お客様は気持ちよくなるのです」


「いつも自然に自分の喋りたいこと、望んでいることが提供されれば、夜毎の睦事なしでも、お金を払う方が出来るとは思いませんか?」


「……」


「勿論、睦事は大事です、男と女、抱く者と抱かれる者は無くならないし、愛し愛されることは絆を深くします」

 ペピはなんとなく、父の言葉を思い出した。


「昼は淑女、夜は娼婦、そして求められれば女奴隷……」

「そのお言葉、愛される女の秘訣と思います」


 アンお姉さまはおっとりとして優雅……時々積極的に……

 だからお父様はアンお姉さまは大丈夫といったのね……


 でも最低条件なのでしょう……

 アウシュリネ様を魅了するには、まだ他に条件があるというのね……

 アンお姉さまにあって、私にないもの……この娼館の最高の娼婦にはあるというのね……


 ……知識……思いやり……相手の立場を考える……

 良く相手を見て、時々に臨機応変に対応する……相手に合わせ、自己を控える……

 そう、この眼の前にいる女の人は、それで生きている……


 難しいことはない、心を磨く、その前に学問をせよ、知識を身につけよ、まずはそれが大事だ……

 お父様の言葉は正しいのね……


 ハイドリアに戻ってきたペピは、少し変わった。

「この頃おしとやかになったようね、やはりお年ごろなのかしら?」

 そのように、アリアドーネ女官長にいわれるようになった。


 でも、アウシュリネからは別の言葉を聞いた。

「ペピ、本を良く読んでいますね、この頃、言葉の端々に現れていますよ」

「良いことです、学問は人の世界を広げるのよ、感性も深める、人としての品格も育っていく、魅力的な娘さんになれそうですね」


 その一言でペピは猛然と本を読み始め、それはそれで周りを振り回している。

 何処までいっても、ペピはペピということだったが、アウシュリネは近頃、よくペピと話をするようになった。

 一人の女として認識しているようだ。


 そして、ペピはそれが嬉しかった。


    FIN



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