娼館『白い歌姫』


 ペピは大公妃と一緒に、ロマニアの父のもとに戻りました。

「お父様、お加減はいかがですか?」


「ペピか……、もうイカンな……お迎えがそこまで来ているようだ……」

「アンは来てくれないのか……」

「はい……」


「そうか……」

「ペピ、アウシュリネ様には可愛がってもらっているか?」

「はい!」


「よいか、夜だけではいい女とはいえぬぞ、アウシュリネ様にいつか嫌われるぞ」


「床が良いだけではダメなのだ、女の魅力は、確かに床の上手さが七割を占めるかも知れぬが、心が清純でなければ長く持たないのだ」


「私は知っての通り、お前の母以外に大量の女がいる、その女の中には、飽きがきている女も多々いる」

「ペピはその様な女になりたくないであろう、また父として、その様な惨めな想いにさせたくない」


「アンはその点大丈夫と思うが、お前はみていて不安がある」

「でもジーナ叔母様から、女の魅力について教えていただいています」


「ジーナは愛される方だ、いつも主を待ち、呼ばれるのを待ち望む女からの見方なのだ」

「しかしアウシュリネ様は、女の身ではあられるが愛する方の方だ」

「ジーナとは視線が違うのだ、昼は淑女、夜は娼婦、そして求められれば女奴隷、これが寵妃の最低条件だろう」


「でも……」


「難しいことはない、心を磨く、その前に学問をせよ、知識を身につけよ、まずはそれが大事だ」

「勉強は嫌いです!」


「まったくお前は……」


「大公妃……ペピを一度、娼館に連れて行け、最高の娼婦がいるところへ」

「なにも身体を売れというのではない、そういう場所の女をよく見ておけ」

「とくに最高と呼ばれる娼婦はどれほどのものか、知っておけばこの後、役に立つだろう」


 大公妃は引きつった顔をしたが黙っていた。

 なんとなれば、黒の巫女の女を娼館に泊めるなんていうのは、命がけなのである。

 もし逆鱗にでも触れれば、ロマニア王国といえどただではすまないのだ。


「ペピ、愛される側の手練手管と、それより大事な女の魅力が分かるであろう、一日娼館でブラブラと過ごせ」


 でも一日は無理ということで、その日の夜から早朝にかけて、ロマニア第一の娼館の貴賓室に、ペピは監禁状態になってしまった。


 勿論、娼館では、大公女が御泊まりになる。

 しかも黒の巫女の夫人ということで、大騒動になったのは確かである。


 迷惑この上なしではあるが、大公からの絶大な迷惑金が支払われ、渋々引き受けることになった。

 で、夕食前にペピは王族の女性専用警護の女たちに守られて、その娼館『白い歌姫』にやってきた。


「ペピさま、このような場所へのお越し、さぞや御腹立ちとは思いますが、朝までのご辛抱です」

 女主人が出て来ていった。

 後ろには、綺麗なお姉さまたちが、二三人並んでいました。

「当館の一番の女たちです、今日、休みの女をペピ様のお相手にさせて頂きます」


 ペピは美貌という点では突出している、娼館の女たちでは相手にならない……

 しかし、ペピは素直に父のいいつけを守って、一番の女たちを観察することにした。


 ここの多くの女たちは、ペピの見る所、くだらない男たちを相手に、くだらないお追従を並べているばかり……

 身体を摺り寄せ、男たちに触らせ歓声を上げている。


 幼いペピではあるが、まがりにも王族の端くれ、最下層の女といえど、生きていくために仕方なく仕事をこなしている、女の悲しさは理解できた。


 ……お父様は、何処を参考にせよというのか……


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