オシャマさん


 ペピは上機嫌であった。

 首に巻かれた夫人のチョーカーが、誇らしかった。

 そして、ペピは安心を実感している。


 ハイドリア連合王国の、首都ハイドリアは繁栄している。

 この国の第一の都市、ロンディウムほどではないが、政治の中心地として、エラムの世界では認知されている。


 馬車鉄道路線もシビル・パリスを経由して、ハイドリアへ伸びて来ている。

 もうすぐネメシスへ繋がり、コナからイーゼルを経由して、ネメシスにつながっている路線に乗り入れる、循環路線が完成する予定である。


 ペピは、たまにはロマニアへ帰れることになっている。

 アンは絶対に、ロマニアに帰ろうとはしないが、幼いペピはやはり両親に会いたい。

 時々、ハイドリア連合王国の、アリアドーネ女官長の許可を得て、里帰りをしている。


 ペピは一応、夫人の位を持っている、ということは、いつでもイーゼル温泉へ、転移出来る魔法が使える。

 そこから馬車鉄道に乗って、ロマニアへ帰るのである。

 この時、母親である大公妃が、イーゼルまでペピを迎えに来るのである。


 たまに、ジーナやアンがついて来てくれるが、ジーナは会うが、アンは絶対に会おうとしない。

 いつもペピには優しい、イーゼル直轄領のバーバラ女官長も、大公妃にはなんとなく冷たい……

 しかしペピは仕方ないとは理解している。また大公妃はその事には触れないが、仕方ないとは思っているようだ。


 そして今日は里帰りの日、朝からペピは嬉しそうで、いそいそとイーゼル温泉へ向かったのである。


「ペピ、アウシュリネ様に可愛がってもらっている?」

「はい、ジーナ叔母様に教えてもらったとおりにしたら、可愛がって頂けました。」


 ペピはとても詳しく、大公妃に夜のことをしゃべっている。

 大公妃は我が娘の夜の話を、事細かに聞かされて、返答に困っている。


 困った顔をしていると、ペピが、

「お母様、アリアドーネ女官長も時々、いまのお母様のような顔をされます。」


 ペピはこの頃、女同士の、この手のことに対して鋭いのである。

 姉のアンが幸せそうな顔をしていたのを、可愛がられたと思っていたのが、いまでは違っていたことを理解してしいる。


 全身からにじみ出る満足オーラなど、すぐ分かるようになっている。

 これには、さすがの大公妃も慌てた。

 娘の女としての感、閨房の感の良さに、あわてたのである。


 大公妃は長く孤閨(こけい)を囲っている。

 ロマニア大公はお年寄り、この間、アンとペピ、そしてジーナを献上することにより、ロマニアは王国になることを承認され、ハイドリア連合王国の一員となり、長年の悲願がかなった。


 そして長男を初代のロマニア国王につけると、急速に老いが来たようで、今では足腰も立たない状態になっている。

 ペピのお里帰りが、簡単に許されるのも、お見舞いがあるからで、本来、ペピたちのような立場の女は、奴隷なので、エラムの風習では、里帰りなんか簡単には認められないのである。


 しかし、アウシュリネはあっさりと認めている。

 チョーカー持ちに手を出す馬鹿はいないし、手など出せないのである。


「ペピ、成長したのね……」

「私、アウシュリネ様の元を離れないつもり、ペピはアウシュリネ様の為にあるの。」


「アンさんとは仲良くやっている……」

「ペピは積極的、お姉さまはおっとりと、そしてジーナ叔母様は濃厚に、ロマニアの王族は雰囲気が違う。」

「だから仲良くしなければいけないの、叔母様がいつもそういっているの、アンお姉さまとは時々、どうすればアウシュリネ様の気を引けるか話をしているわ。」


 大公妃はこのペピに、一抹の不安を感じたのだ。

 我娘が、このままでは淑女でなくなる……

 しとやかさがなければ、アウシュリネは、ペピをロマニアに戻す……


 大公妃が見るに、アウシュリネは従順を評価する……

 賢いのは必要だが、常に口を挟まれることは嫌う。

 政治的なことなら、公私を分け、自分の感情などに振り回されないだろう……


 多分、愛人第一のサリーなどは、その事は完全に理解しているはず、でなければ、あれほどの寵愛はありえない……

 昼は淑女、夜は娼婦、そして求められれば女奴隷……寵妃としての素質の第一なのだ。


 アンはそのあたりをわかっている、あの娘は小悪魔なのだ。

 それが悪いとはいわない、むしろこのエラムでは美徳に近い……

 ペピもそのあたりを見習ってくれれば……


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