ヴィーナスの女たちⅡ リバーボート 【ノーマル版】

第四章 ペピの物語 ロリータ

ペピの考え

　ロマニア大公女ペピは、アウシュリネに一度は抱かれたのであるが、アウシュリネは以来ペピを避けている、とペピは思っていた。

　なんといっても抱いてくれないのである。

　十一歳になったペピとしては真剣に考え（それは傍から見れば支離滅裂な考え）、姉であるアンのためにも何としてもアウシュリネの寵愛が必要、と結論した。

　そしてジーナ叔母に相談、この叔母の作戦通りに行動したら、望んだとおりになっちゃった。

　しかしロマニア大公夫妻は……

　　　　　＊　＊　＊　＊　＊

　ロマニア大公女ペピは、姉であるアン大公女に、何かと対抗心を燃やしているように、傍からは見える。

　ペピは九歳で黒の巫女に献上された。

　エラムの世界といえど、少々早いと思われたが、誰もが政治的理由というのはわかっている。

　一応これでも夫人である、このような場合、側女の位となるのだが、どうしても姉と同じでなければと、ぐずったと噂されるペピである。

　勝気で、頭の回転が早い、早熟なペピなのである。

　エラムの三つの戦いが終わり、黒の巫女同君連合体制と呼ばれる平和が訪れ、十一歳になったペピといえども、この平和が人々の血の上に築かれたものとは理解している。

　またペピの主、黒の巫女の努力と献身の賜物とも理解している。

　ペピはアウシュリネ女王、つまりハイドリア連合王国の君主としての黒の巫女ヴィーナスの名ではあるが、女になってすぐに主であるアウシュリネが、レムリアで瀕死の重傷を負った時、幼いながら愕然としたのである。

　自らを守ってくれるアウシュリネがいなくなる……それはペピにとって初めての恐怖だった……怖くて怖くて……

　その時、ペピの幼い心は誓ったのである。

　アウシュリネ様のお側にいつもいる、どんな時でも離れない。

　そして誰よりも、アウシュリネに可愛がっても貰う。

　アウシュリネにとって、ペピはまだ幼い。

　ペピが来ると、アウシュリネはペピと一緒に夕食をとってくれ、ペピのとりとめない話を面白そうに聞いてくれる……

　頭を撫でてもらいながら、いつしか眠りに入るペピ。

　朝起きるとアウシュリネがペピの髪を整えてくれ、朝ごはんを作ってくれる。

　姉であるアンはアウシュリネの元から帰って来る時、幸せそうな顔をしている……

　本当の所は、アンはアウシュリネからお菓子をもらって、それゆえに、幸せそうな顔をしているだけ……

　近頃ペピは、『アンの幸せ』の意味を知ることになった。

　ペピは、姉であるアンが大好きではある。

　でもおっとりとして、優しい姉を見ていると歯がゆい……

　このままでは、アンお姉様はいつかアウシュリネ様に捨てられる。

　ここは私がアウシュリネ様のお気持ちを、ぐっと掴んでおかなければ……

　姉への対抗心と、親愛の情と嫉妬と闘争心が、ないまぜになり、支離滅裂の思考の果てに、自分がアウシュリネ様のご寵愛を一心に受ければ良いのよ、と結論づけた。

　どこをどうつつけば、この結論にたどり着くのかは、本人もわからないはずである。

　とにかく幼いながらも、ペピは真剣に考えたのである。