人食いなまず


 父親は、

「……今夜から見回りを始めよう、すこし経費がかかるが……」


「なら私が見回ります!」とエルメリンダさん。


 父親が、

「エルメリンダ、気持ちはありがたいが、仮にその様な者を見つけて何とする?」


「それは……」とエルメリンダさん。

「ここは大人に任せておけ」と父親。


 といったものも、プルーナの父親には良い案などありません。

 人を雇っても、その者が信頼が置けるかはわからない。


「やはり、ここは私が見まわろう……」と父親。


 ……全く、愚かな……

 お前を亡き者にしても、工事は終わるではないか……

 私なら堤で利益を受ける農民に協力を要請するのに……愚かな……


 そして父親は見回りに出かけますが、途中で誰かに殴られて気絶などしてしまいました。


 エラムの二つの月が夜を照らします。

 その中に、巨大な魚篭(びく)など持つ二人の男がいます。


 その一人が、

「しかし旦那、今回はまずいのでは……こんな奴を放流すれば、ただでは済みませんよ?」


 旦那と呼ばれた男が、

「前は雨季で上流に水を貯める事ができ、ため池の堰を切れば良いだけであったが、今は乾季、雨など降らない、しかしこいつを放流すればどうなる?」


 旦那と呼んだ男が、

「まず工事は無理ですぜ、河に入れば、すぐに喰われてお陀仏ですよ、それでもしようとすれば、莫大な金がいります」


 そう、魚篭(びく)の中には、『人食いなまず』……

 かなり小さな小型魚ですが、獰猛この上なしで、しかも並外れた繁殖力、こいつはアンモニア臭に反応する生物……しかも、お肉が大好きな奴……


 魚篭(びく)一杯なら、物凄い勢いで繁殖するでしょうから、駆逐することは難しくなります。


 馬鹿な頭で考えましたね……密かに放流すれば、完全犯罪に近い……

 しかし私も、柔(やわ)になったわね……


 月影の下に、小雪さんという美しい女が佇んでいました。

 そしてその回りには、夜の中の漆黒の闇が、纏付いているように見えます。


 小雪さんが、

「そこのお兄さん、帰りなさいな、そして二度とその魚で悪さをしないと誓うことね」


「何のことかな?」と男の一人。


 小雪さんが、

「その人食いなまずを持って帰りなさいと、云っているのですよ」


 もう一人の男が、

「仕方ないな……綺麗なあんただが、なまずの餌にするしか無いか、殺せ!」


 漆黒の闇がスッーと広がり、男たちはいなくなります。

 見れば白骨がいくつか転がっています。


「なまずの魚篭(びく)に放り込まなかっただけでも、感謝することね」

 小雪さんがいいました。


 エラムの二つの月が、冷酷な美女を照らしています。

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