人食いなまず


「……今夜から見回りを始めよう、すこし経費がかかるが……」

「なら私が見回ります!」


「エルメリンダ、気持ちはありがたいが、仮にその様な者を見つけて何とする?」

「それは……」

「ここは大人に任せておけ」


 といったものも、プルーナの父親には良い案などありません。

 人を雇っても、その者が信頼が置けるかはわからない。

「やはり、ここは私が見まわろう……」


 ……全く、愚かな……

 お前を亡き者にしても、工事は終わるではないか……

 私なら堤で利益を受ける農民に協力を要請するのに……愚かな……


 そして父親は見回りに出かけますが、途中で誰かに殴られて気絶などしてしまいました。


 エラムの二つの月が夜を照らします。

 その中に、巨大な魚篭(びく)など持つ男たちがいます。


「しかし旦那、今回はまずいのでは……こんな奴を放流すれば、ただでは済みませんよ?」

「前は雨季で、上流に水を貯める事ができ、ため池の堰を切れば良いだけであったが、今は乾季、雨など降らない、しかしこいつを放流すればどうなる?」


「まず工事は無理ですぜ、河に入れば、すぐに喰われてお陀仏ですよ、それでもしようとすれば、莫大な金がいります」


 そう、魚篭(びく)の中には、『人食いなまず』……

 かなり小さな小型魚ですが、獰猛この上なしで、しかも並外れた繁殖力、こいつはアンモニア臭に反応する生物……しかも、お肉が大好きな奴……


 魚篭(びく)一杯なら、物凄い勢いで繁殖するでしょうから、駆逐することは難しくなります。


 馬鹿な頭で考えましたね……密かに放流すれば、完全犯罪に近い……

 しかし私も、柔(やわ)になったわね……


 月影の下に、小雪という美しい女が佇んでいました。

 そしてその回りには、夜の中の漆黒の闇が、纏付いているように見えます。


「そこのお兄さん、帰りなさいな、そして二度とその魚で悪さをしないと誓うことね」

「何のことかな?」

「その人食いなまずを持って帰りなさいと、云っているのですよ」


「仕方ないな……綺麗なあんただが、なまずの餌にするしか無いか、殺せ!」

 漆黒の闇がスッーと広がり、男たちはいなくなります。

 見れば白骨がいくつも転がっています。


「なまずの魚篭(びく)に放り込まなかっただけでも、感謝することね」



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