教え子に愛の手を


 プルーナの父親は土木事業の請負を家業としており、堤防の築堤を受けたのですが、上流で降った雨のお陰で堤が決壊、支払いだけが残ったようです。

 しかも決壊したお陰で、かなりの損害があちこちで発生、その賠償もかなりの額のようです。


 ふ……む……


 その日、プルーナが挨拶にやって来ました。

 いつも側にいるエルメリンダがいません。

「小雪先生、都合で学校を退学することになりました、いままでありがとう御座いました」


「運命に従うの?でもね、そんなに人生は捨てたものではないのよ」

「どういう意味ですか?」


「捨てる神もあれば拾う神もあるということですよ、とにかく明日も来られますよ」

「今夜は債鬼(さいき)など来ない、信じなさい」

「……」

「貴女は私の教え子なのですよ、とにかく帰りなさい」


 その夜、プルーナはエルメリンダと見つめ合っています。

 もうすぐ借金取りがやってくる時間……

 全てを明け渡して、身一つでプルーナと父親は出ていくことになります。

 なんとかプルーナだけを守ったのですが、本当にスッカラカン、何処へ行く宛もないのです。


 コツコツとドアをノックする音がしました。

 プルーナとエルメリンダは震え上がりました。

 分かっていても、別れが来たと思うと涙がこぼれます。


 父親と誰かが話しているようで、しばらくすると、その客は帰りました。


「プルーナ!」

 父親が呼びますが、何故か嬉しそうな声です。

「エルメリンダもおいで!」


「二人共よくお聞き、いま資金を提供してくれるという方がいらっしゃった」

「そして壊れない堤の作り方もご教授頂いた」

「その方のお陰で引き続きこの家に住める、堤が完成すれば負債はなくなる」

「生活は少し切り詰めなければならないが」


「お父様、本当に本当?」

「本当だ、それからエルメリンダ、お前は今日から奴隷ではない」


「先ほどの資金を提供される方が、お前は見込みがあるので、勉強させろといわれて、お前の代価を支払われた」

「お前はその方の希望どおり、勉強をしなければならない、それが代価といわれた」


「明日『学問の府の女子部』の事務所に行くようにといわれていた、賢いお前たちの事だが、この方が誰かは一切詮索しないこと、ご迷惑をかけることになる」


 エルメリンダは、あまりの事態の急展開に呆然としています。

「私……解放されたのですか……」

「そうだ、それから私の願いを一つ、聞いて欲しいのだが」

「なんでしょうか?」

「プルーナの友達に、なってやってくれないか?」


「……こんな私でもいいのでしょうか……」

「ねえ、エルメリンダ、私のお友達になって」

「お嬢様……」

「プルーナでいいのよ、貴女は奴隷では無いのですから」


 夜、二人は仲良く抱き合って寝ました、そして、二人だけでその誰かが誰かを語り合っていました。

 浮かび上がるのは、とても美しい女性……


「誰にもいってはいけないのよね……」とプルーナが云うと、

 エルメリンダが、「二人だけの秘密、でも私、これから毎日毎晩感謝を捧げるつもりです」と答えました。


 翌日、二人は仲良く登校すると、一緒に『学問の府の女子部』の事務所にいきます。

 根回しが終わっているのか、エルメリンダの正式編入手続きがすぐに終わります。


 事務官の方が、

「エルメリンダとプルーナ、アンジェリーナ顧問のところへ行って下さい」


 二人をアンジェリーナ顧問は待っていたようです。

「まぁ、お座りなさい、お茶でも飲みましょう」

 二人はかしこまって椅子に座ります。


「ある人が貴女たちを評価されています、貴女たちはその方が誰かは察しが付いているとは思いますが、口に出してはいけませんよ、その方の言葉をそのまま伝えます」


「エルメリンダ、貴女は賢い、よく学び、学んだ事を世界に還元するように、そしてプルーナの優しさに感謝するように、互いに助けあって、社会に尽くして下さい」


 こうして小雪さんの、『足長おじさん』ごっこは終わりました……が……



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