聴講生


「アンリエッタ首席女官長……実は……」

 小雪が相談しますと、あっさりとアンリエッタは云いました。


「女学生の事、擬似恋愛に酔うのですよ、彼女らはそれを楽しんでいるのです、気にすることもありません、むしろ女学校なのですから、正常な反応です」


「そうなのですか……」

「女とはその様な生き物です」

 百戦錬磨のアンリエッタに、あしらわれた小雪ではありました。


 測量学講座と財務諸表講座は大盛況です。

 ただし学生は少ないのですが、ギャラリーはとても多い……


 聴講生の多いこと……

 何故かアンジェリーナ顧問以下の先生方、カルシュの町の商人たちの代理人の女たちなど……

 実利に絡む女が、我も我もと聴講に来ています。

 その熱気とは裏腹に、学生たちののんびりしたこと……


 ほとんどの学生は、裕福な家庭の子女ですが、中に貧しい家庭の娘もいます。

 ヴィーナスの肝いりで、学費免除の特待制度があり、その女学生です。

「やはり特待生は違うわ……必死に授業についてくる……見込みがあるわね……」


 優秀な生徒の将来の為に、密かに推薦状などを書いてアンジェリーナ女官長に託す小雪でした。


 小雪はさらに、ギャラリーの中に、一人の熱心で見込みのある少女に気が付きました。

 この少女は測量学講座の生徒の付き人らしく、いつもメモをとっているのです。


 エラムでは紙と筆記道具はかなり高価なもの、何処から手に入れたのか不思議でしたが、どうやら主人である女性との為に、メモをとっているよう。

 しかし要所要所でうなずいているのです。


 みすぼらしい身なりで、お世辞にも美しいとはいえない少女ですが、その目の光は力強く、少女の生命力と知性を表しているようにも思われます。


 ある時、食堂で小雪は少女を見つけました。

 泣きそうな顔をして隅にうずくまっています。

 その横で、主人である女学生も困ったような顔をして佇んでいます。


「エルメリンダ……もう泣かないで……お父様に私がお願いしてみるから……」

「でも……私も抵当に入っていますし……旦那様にはもうお金が……ブルーナお嬢様も住むところが……」


 小雪は耳をとっても大きくして聞いていました。

 どうやら、このプルーナお嬢様の父親の事業が失敗して、かなりの負債を負ったらしく、屋敷、家財道具の全てを取られ、立ち退かなければならない、そのような話しのようです。


 当然、奴隷であるエルメリンダも、新しい所有者の物となります。

 プルーナの父親には、エルメリンダの抵当を解除する資力がないということです。


 事業ね……少し調べてみますかね……

 次の日にまでに小雪は調べあげました、勿論、魔力を使ってプルーナの頭を覗き、父親の頭を覗き、そこより数珠つなぎで、関係者の頭を覗いたようですが。


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