新任教師


「ねえねえ、今度、臨時の先生が来るでしょう、誰か知っている?」

「知っているわ、小雪って、おっしゃるらしいわ。」

「その小雪先生って、黒の巫女様の愛人のお一人だそうよ。」


「うそー!それ本当!」

「アンジェリーナ顧問が、他の先生方におっしゃっているのを聞いたの。」

「その盗聴作戦、大丈夫?」

「間違いないわ!」

 ペチャクチャと女学生たちは、休み時間に話をしています。


「愛人の小雪様といえば、たしかジャバの親衛隊を、一人で壊滅させたと聞いたけど……」

「馬鹿ね、噂でしょう、お一人であの親衛隊を壊滅なんて、出来ないわよ!ガセよガセ!」


「やはり、そうですよね……黒の巫女様の愛人っていえば、喩えようもないほどの美女って聞くものね……そんなお綺麗な方が、噂のような恐ろしいこと、できるわけないわよね……」


「でしょう! だってそんなことが出来れば、筋骨たくましくなって、美女じゃなくなるわ!」

「愛人っていえば、私、アナスタシア様なら見たことがあるわ。それはそれはお綺麗で、嫉妬もわかなかったわ……」


「そうそう、愛人の方って本当にお綺麗なのよね、私はジジ様なら見たことがあるの、あのようにお綺麗な方の前に立つのは嫌よね、自分の醜さがイヤになるわ。」


「私もジジ様は見たことがあるわ、あの胸を見せつけられると……」

「そりゃ貴女のその薄い胸と、比較するものじゃないのよ、ジジ様が怒るわよ。」

「そうよ、貴女の胸なんて、私の胸より貧しいわよ。」


「……どこが!変わらないじゃないの!」

「まあまあ、板みたいな女二人、醜い争いよ。」

「貴女にいわれたくないわ、その胸、えぐれてない!」

「なによ!」

「なにさ!」


「貴女たち! 授業が始まっているのよ!」

 そこにはクラス担当が立っていました。


「先生、今度来る先生って、黒の巫女様の愛人様なのですか?」

「そうですよ、小雪様とおっしゃって、それはそれはお綺麗ですよ、それと並ぶ者のないほどの学者ですよ、皆、よく教えてもらいなさい、こんなチャンスはめったにありません。」


「どのクラスを受け持たれるのですか?」

「アンジェリーナ様のお話では、かなり高度な授業となるそうで、希望者からの選抜制となるようです。」

「……」


「どうしたのですか、急に静かになって?」

「だって……難しい勉強なのでしょう……嫌い!」

「貴女たち!」


 そう、ここ『学問の府の女子部』の女学生は、貴族の子弟がほとんど、腰掛けが多いのです。

 卒業したら素早く妻になる、男の妻になり、妾や使用人の上に君臨する、女主人になる女ばかり。

 自ら働き、自立する気概をもつ女は、少ないのですが……中には例外がいるようですが。


 勿論、ヴィーナスの各地の女官たちも、ここにはたくさん留学しています。

 その女たちには、別枠で授業をすることになりました。


 こちらはやる気満々です、なんといっても女官を退官すれば、妻に望まれることが多くなりますが、結構退官後に、働く女官が多いのです。


 つまりはそこらの男では、ヴィーナスの女官たちは、魅力を感じないのです。

 誰かに頼って生きなければならない、そんな女には仕込まれていません。

 エラムの世界で自活できるように、ヴィーナスが配慮しているのです。


「女官たちは問題ないわね。」

 小雪の呟きが全てを表しています。


 問題はもう一つのクラス、一般女学生選抜クラスです。


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