カルシュで先生


「お見通しですね……実は開平法と開立法を教えていただきたい」

「しかし平方根と立方根など計算して、どうするのですか?」


「平方根などは土地取引などに便利です!」

「確かにいわれれば……立方根は倉庫などですかね……」


「昔、ヴィーナス先生、つまり黒の巫女様が、開平法と開立法をご教授してくださったのですが、理解できるものが少なく、教えられるものはさらに少ないのです」


「では算盤の開平法と開立法を教えればいいのですね。」

「それは最高学年の希望者に対してで、その他にも実は体育などを……やはり女性ですから、護身術も……それと経営学なども……それから……あれも、これも……」


「私は一人なのですけれど……」

「そうでした、つい欲が出て……小雪さま、どのような学問でも構いません、女学生たちに教えてやって下さい」

「……そうですね……ヴィーナス様は算盤以外に、何かお教えになられたのですか?」

「簿記をご教授されました。」


「なるほど、たしかに女性が身につけて、これからを生きていくには持ってこいかも知れません、平和になれば商業が盛んになります」

「算盤と簿記ですか……さすがは私の主、ヴィーナス様は賢明な方だ」


 そしてしばらく考えた後、

「算盤と簿記を利用する学問がいいですね、測量学と財務諸表あたりですね……」


「それはどういう学問ですか?」

「測量学とは、土木建築の基本中の基本、土地の面積とか、木々の高さとかを図る技術です」

「財務諸表とは、複式簿記を用いて作成する、会社の経営成績や財務状態を表す表の事で、いわゆる決算書です」


「財務諸表と簿記と算盤は、なんとなく分かるのですが、測量学に算盤って……」

「開平法と開立法が使えれば面積、容積は簡単に算出できます、土地の取引には必須でしょう?」


「しかし、あまりに高度では……簿記で四苦八苦している者にその……財務諸表と云ったわれる物など……」

「だから簿記を身につけた者に教えましょう」

「その者が理解して、財務諸表を他の者に教えれば、教師不足も解決するはず」


 その後、小雪はおよそ教師としてあるまじき言葉を発しました。

「理解出来ない者たちは、殴って殴って、身体で覚えさせます!」


 これを聞いてアンジェリーナ女官長、一抹の不安を感じたのですが、さすがに自ら頼んだこと、何もいえませんでしたが、その不安が顔に出たのでしょう。


 イーゼル温泉の喫茶室で、お茶を飲んでいたら、声をかけられました。

 ヴィーナスが目の前に立っています、ヴィーナスには相手の心の悩みなど、簡単に見ぬいてしまう不思議なところがあります。


 そこで小雪の事を、なんとなく喋ってしまいますと……

 ヴィーナスは微笑ながらアンジェリーナにこう云ったのです。


「アンジェリーナさん、そんなに心配することはないですよ、小雪さんも女学生相手に苦労するでしょうが……私も大変でしたよ、でも学生たちの笑顔に囲まれると……張り詰めた心も暖かくなるものです」


「それにね、小雪さん、綺麗ですから……楽しみですね、黄色い声に取り囲まれて、困っている小雪さんを見られるのは♪」


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