バスタードソード


 そんな話をしていたときに、アナスタシアめがけて矢が飛んできた。

 信じられないことに、小雪が平然と矢を掴んでいる。


 唖然としているアナスタシアでしたが、なんでもないような顔をしている小雪。

 トール隊長が激怒して、

「賊がまだ残っているぞ、探せ!」


「難儀なことですね、よほどアナスタシア様を、亡き者にしたいものがいるのですね。」

 そうつぶやきながら、小雪は何処から持ちだしたのか、剣を持っていた。


 バスタードソードというものです。

 さすがにアナスタシアは帝国の第一皇女、この剣がどのようなものかは分かります。


 ……なんて剣を持ち出すの?

 バスタードソードって、切るも突くもできる、極めて戦闘力の高い剣……

 でも、取り扱いが難しい、自由に扱うには、かなりの訓練が必要なはず……


 しかも、小雪さんの持っているのは最大級のもの、それを片手でラクラクと振り回しているわ……

 大魔法士ではないの?剣士も兼ねているの?


 剣を振るう小雪、先ほどとは違い、優雅で舞を舞うように。

「美しい……」

 思わずつぶやいた、アナスタシアだった。


 小雪が残敵を掃討し戻ってきて、野営地はやっと落ち着きを取り戻したのですが、アナスタシアはふと気が付いた。

 突撃隊の面々が、かなり負傷している。


「アポロ執政、トール隊長、負傷されている方々がいます、なんとか治療しなくては、手伝って下さい」

 この時、アナスタシアには、確かに第一皇女の威厳があった。


「なにをしているのですか!この一行には女が二人、そのうち小雪さんは戦ってきたばかり、休憩が必要です、なら私がしなくては!」

「しかし、貴女は……」


「つまらないことで逡巡してはなりません!この方々は私を守ってくれたのです」

「先の短い私ですが、それでもジャバ女王陛下に購入された身、最早ジャバ王国に籍はあります」


 アナスタシアは行動を起こした。

 ゲスト用にあった予備のテントを裂き始め、そして負傷兵を集めさせた。

 さすがに歴戦の兵士たち、致命傷を受けているものはなく、少々深く切れている切り傷ばかり、しかし全身に傷を受けている者が結構いる。


 アナスタシアは、アムリア帝国で伝えられている治療法を思い出しました。

 ……傷は乾かしてはならない、たしかそうでしたね……


 アナスタシアは突撃隊の荷物の中をあさり、蜜蝋性のローソクとバターを四対三の割合で混ぜて、応急の保湿クリームまがいのものをつくった。

 油紙でその上を覆い、さらにグルグルと裂いたばかりの予備テントの布で巻き始めた。


「間違っていない」

 突然、後ろから声が聞こえる。

 いつの間にか小雪が来ていた。


 次々と兵士を治療し、終わってみると夜は更けてしまっていた。

「兵士に成り代わって感謝する」


 そう小雪が云ったが、ふと気がついたのか、

「でも、予備テントがなくなりましたね、今夜は何かにくるまって寝るしかありませんよ」


「そうですね、星空でも見ながら寝ましょう」

 小雪がその時、初めて微笑むのをアナスタシアは見た。


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