大魔法士


「トール、敵がそこまでやってきています、襲撃に備えなさい!」

「承りました、全軍、夜戦用意、側溝に油を流せ、そして火をつけろ」


 側溝に火が灯り、周囲を赤く照らし始めました。


「抜剣!白兵戦用意!」

 トール隊長のドラ声が響き渡ります。

「側溝を防衛ラインとして、誰もいれるな!」


 突撃隊は猛勇、敵を寄せ付けません。

 しかし相手は多勢、いささか疲れが見えてきたところへ、新たに増援部隊が出てきました。

 さすがの突撃隊も劣勢になって来ました。


「トール、ここを固めていなさい、私が処理してきます」

 そんなやり取りがアナスタシアにまで聞こえてきました。

 えっ、小雪さん、冗談でしょう?


 テントを走り出て、小雪のところへ止めに行こうとしたところを、アポロに止められました。

「アポロ執政、止めなければ、小雪さんが!」


「大丈夫、小雪様は無敵です、あの方に勝てるのはイシュタル様だけ、突撃隊が全軍でかかっても、あっさりと壊滅させられたのですから」

 我が耳を疑ってしまいました、あの華奢な小雪さんが、まさか?


「我が主人の軍にかかってきた愚か者ども、死を望むのでしょうね、かかって来なさい、アムリアの腰抜けども!」

 小雪が挑発している。


「おのれ!」

「女一人に、これだけいわれても、かかってこられないのですか!男ではないのですね、怖いならさっさと帰って、リゲルの娼館にでもしけ込んでいなさい」


 ここまでいわれれば、単純な連中、頭から湯気が出ている。

 一斉に襲って来た。


 小雪の戦闘は華麗で優雅?ではない。

 それは悪鬼羅刹と呼ぶべきもの?でもない。


 なんせ圧倒的な力の差があるようで、小雪が地面を指し示してなにかを唱えますと、地面が盛り上がり、ゴーレムが何体も沸きいでてきた。

 そのゴーレムが、あっという間にケリをつけてしまった。


 ……魔法士?

 それも、とんでもないほどの大魔法士だわ。


「やれやれ、危なかったな」

 トール隊長の呟きが聞こえた。


「小雪様がおられるのだ、おまかせしておけば大丈夫」

 アポロの声も聞こえる。


 小雪も戻ってきて、

「アナスタシア様、大丈夫でしたか?」

「私より貴女は大丈夫ですか?」


「何事もありません」

 平然といってのける小雪に、空恐ろしい物を感じた。


「野営のテントが丸焼けになりましたね、でも予備のテントがありますから」


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