カルチャーショック


「イシュタル女王様の?イシュタル様って……」

 ここで小雪が、すこし怖い顔をして云いました。

「これ以上はアナスタシア様が、イシュタル様に直接にお聞き下さい」


「今はなにも聞かないほうがいいのですね」

「そうです、そういうことで、これもどうぞ」


 金属の円筒形の物を出して、蓋を取りました。

 中にはパンが入っており、そのパンを勧めてくれました。


 さらに別の金属の物の蓋を、不思議な器具で開けて、お皿の上に中の物を入れました。

「ラタトゥイユといわれる野菜を炒め、ワインと称すお酒で煮たものです、そのままでもおいしいですよ」


 アナスタシアには初めての食べ物ばかり、帝国の第一皇女であり、まだ母親が生きていた頃の、幸せだった時でも、見たことも聞いたこともない食べ物です。


 しかも金属製の缶に入っているなんて……さらに差し出されたお皿を眺めるにつれ、初めてみる素材でできています。


 最後に、「デザートとしてどうぞ」と、差し出されたのは、焦げ茶色のでこぼこがある板状のもの……

「チョコレートと呼ばれるものです、かなりの栄養があります、とても甘いですよ。」

 と、自ら食べて見せました。


 アナスタシアは陶酔してしまいました。

「これは……こんなに美味しいものは初めてです、すこし興奮してしまいます。」

 本当においしい、これは危険です、一つ間違えば媚薬か麻薬か……それほどの代物……私をどうする気なの……


「そんなに警戒しないでいいですよ」

 見透かしたように小雪が云いました。


「たしかにそうですね、生きるも死ぬも、イシュタル様のお考え次第でした」


 小雪が少し見なおしたような顔をしました。

「まあ、食事をいたしましょう」


 小雪と二人で食事を取りながら、アナスタシアは考えていました。

 この人はイシュタルのなんなのかと……

 ただの女官ではないのは分かるが、しかし……


「愛人です、驚かれましたか?」

「いえ、ただ先ほどといい、今といい、私の心を読まれたようで、驚いたのです」

「顔に書かれていましたよ」


「その……ついでといってはなんなのですが、愛人は他に沢山……」

「いますよ、なんせジャバの女王ですから、私以外にも、例えばビクトリアの名は知っているでしょう?」

「あの有名な女剣士ですか?」


「ビクトリアさんも愛人の一人、あまりに名が通っているので、アポロ執政がまずいと思ったのでしょうね、そこで私を指名したようです」


「サリーさんがくれば、もうすこしマシな相手をしてくれるのでしょうが、私ではこのあたりで精一杯、ビクトリアさんでは無理でしょうし、ダフネさんでは別の意味で不可能でしょうし……」


 ダフネ!ダフネって……まさか……

 あの伝説の大賢者……いやそんなことはない、幾世代も前の人物ではないか!


 その時、小雪が、

「こんな時に愚かな、アナスタシア様、少々騒々しくなります、危険ですから、ここから動かないように」

 そういって、テントを出ていった。


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