恋煩い?


 その日から、どういうわけかダイアナは引きこもりを決め込んでいます。

 シルビアがさすがに心配して見舞いに行ったのですが……


「ダイアナ、どうしたの?」

「……その……胸がドキンと……」


「えっ、ひょっとして恋わずらい!」

「……」

 柄にも無く、真っ赤になるダイアナ……


「そう、貴女もついにお年ごろに!いいわ、誰、男?女?いいなさい!叔母さんが話をつけてきてあげるわ!」


「……誰かわからないの……それに名前も聞きそこねて……」


 ダイアナはポツポツと話はじめました。

「それで助けてもらったのね、何処かの魔法士でしょうが……どんな魔法を使ったの?」

「雷と転移……」


「不思議な杖を持ってられたわ……それに……」

「しゃんと返事しなさい、男だったの?」

 首を振るダイアナ。


「女だったのね……まぁいいわ」

 ネメシス伯爵家の事は後回しにして、いまはダイアナの幸せを考えるシルビアさん。


「で、年は?」

「お若かったわ、見た目は私よりも年下に見えたけど……雰囲気は年上のように思えたの」

「分からない説明ね!」

「信じられないほどお綺麗で……ひれ伏しそうになったの……」


 ここでふと、シルビアはある女を脳裏に思い浮かべます。

「雷と転移……ひれ伏すような美貌の女性……」

「ダイアナ、その方、雷の魔法を使うとき、杖を持っていたのね?」


「持ってられたわ、杖の先から稲妻が走り出て……人さらいが焼け焦げたわ」

「そのあと手を振られたら、野火が瞬時に消えて、人さらいの死体も土に帰ったの」


「やはり……あの方しか……」

「叔母さま、知っているの!どなた!」


「相手が……悪いというか、よすぎるというか……」

「お願い、叔母さま、私……」

「たくさん女がおられる方よ……」

 シルビアは、しみじみとダイアナを値踏みしました。


 確かに大柄だが、スラっとしたスタイル、大きな目と優しい顔、十人並みどころか千人並みの美貌、掛け値なしの美人です。

「資格はあるわね」


 エラムの女なら誰もが憧れる地位、黒の巫女ヴィーナスの寵妃。

 シルビアは我が姪に、その資格を見出しましたが、

「でも……ヴィーナス様は、ダイアナのあの能天気なところをどう思われるかしら……」


 実は先ほどの女官長の会議で、一人も寵妃の居ないハレムが問題となり、各地の女官長は必ずそれなりの人選をするように、との申し合わせがあったのです。


 ネメシスが属すシャヘル騎士団領には寵妃が一人もいない……シルビアは美女を探していたのです。


 ほんと、確かにダイアナは美しいですが……毎日毎日、困りごとをやらかすダイアナを、果たして推薦して良いものか……



 難しい顔をして黙りこんでしまったシルビアを見て、ダイアナはしょぼくれています。

 しかし、どうしても憧れの方の正体を知りたいダイアナ、

「あの方はどなたなのですか?」

 と、聞きました。


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