草原で出会った女神


 ここでダイアナが信じられない行動に出ます。

「逃げてください!」

 自分でも信じられないほどの大声でした。

 美女はすぐに消えてしまいました、幻のように……


「くそ……あの女か!」

「殺しても構わねえぞ!」

「とにかく火を放て!」


 野火が草原を照らし始めました。

 ダイアナの姿が浮かび上がります。


 ダイアナは再び逃げ出しましたが、今度は隠れても、ダイアナがよく見えて追いつかれそうです。

「いけないわ、もうだめね、売られるなら……」


 ダイアナは奪ってきたナイフを握りしめます。

「あの方、うまく逃げられたかしら……」


 ありがとう……

 その時、頭に声が響きました。


 気がつくと、目の前に逃げたと思った美女が立っていました。

 凛とした風貌、誰もがひれ伏しそうな雰囲気を漂わせています。


 手には不思議な杖を持ち、見たこともない服装をして、ダイアナをかばうように人さらいとの間に立っています。


 そして、「汝ら、慈悲はないぞ!」

 それだけ云うと、手に持っていた杖を人さらいたちに向けました。


 青白く杖の先が輝き始め、物凄い雷鳴です。

 稲妻がいくつも分岐して、獲物に向かっていきます。


 踊るように、人さらいは死んで行きました。


「大丈夫ですか?」

 その女(ひと)はダイアナを覗き込みます。


「はい、その……大丈夫とおもいます」

 しどろもどろのダイアナさんに、その女(ひと)はすこし微笑んで、「何処からきたの?」と聞いてくれました。

 ますますダイアナさんは慌てます。


「私が怖いの?」

「そんなことはありません!ただあまりにお美しくて……」


「お世辞でも嬉しいわ」

「本当です、本当にお美しくて、こんなかたのお側に仕えたい!」

 思わず云ってしまったダイアナさん、真っ赤になりました。


 その女(ひと)は素知らぬふりで、

「送って行きましょう、何処から来たのか、教えてくれませんか?」

「あぁぁ、すいません、私はネメシスからさらわれてきました」


 くすっと笑ったその女(ひと)の顔に、完全にダイアナは心を奪われます。

「さぁ、行きましょう」

 ダイアナの手をとってくれるその女(ひと)……

 この時、ダイアナは恋をしたとはっきり自覚した。


 温かい……

 その手のぬくもり……


 ふと気がつくと、ダイアナはネメシスの広場のベンチに座っていました。

 肩には見たこともないオレンジの布がかけられていました。

 その布はとても軽く、なのにネメシスの早朝の冷気からダイアナを守っています。


 でもその女(ひと)は何処にもいません。


 突然、ダイアナは我に返って叫びました。

「お名前を聞いていないわ!何処の誰かともしれないわ!ダイアナの馬鹿!」


 そろそろネメシスにも朝の光が差し始めていました。


 とぼとぼとシルビアの館へ向かいます。

 いくら脳天気なダイアナとしても、シルビアがどれほど心配しているかは判ります。


 館では大騒動です、昨日はダイアナがさらわれ、早朝にダイアナが帰ってきたのですから……

 しかも肩には鮮やかなオレンジ色の布……


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