賢いダイアナ


 ダイアナは走った、なにせ人生がかかっているのですから、いつもの能天気はどこへやら……

「ダイアナ、考えるのよ、ここはどこまでも見渡せる草原、でも幸い今は夜、伏せるのよ、伏せて静かに進むのよ」


 シルビアが聞けば、喜びそうなダイアナの言葉ですね。

 エラムの二つの月が頭上にはあるが、草の背はそれなりにあります。

「ダイアナ、もっと草に隠れなくては……」


 泥に埋もれ、草を噛み、ひたすらダイアナは逃げ続けました。

 人さらい共の声が、間近に聞こえたが、ダイアナはピクリとも動かずに、やり過ごしたのです。

「まだよ、ダイアナ、まだ動いてはいけないわ……」


 判断は正しかった、人さらいの一団が通りすぎて、しばらく経つと頭目がやってきた。

 弓を持った部下を従えています。

 彼らはダイアナの方へ歩いてくる……


 そこへ、先行していた部下たちが戻ってきた。

 彼らの低い、ヒソヒソ声がはっきりと聞こえました。


「頭(かしら)、この先に川があり、女が一人、居ますが……」

「ダイアナか?」


「いえ、あんな大女ではありません、もっと小柄でした、それにドエライ別嬪で」

「おいしい獲物ということだな」


「あれなら高く売れるのはまちがいなし、でも……」

「分かった、皆で頂いてから売り飛ばすとするか」

「話が判る、頭(かしら)」


「そのためにも、ダイアナはなんとしても見つけろ」

「こうなったら殺してもいい、なんせ顔を見られているのでな」


「なら、いい考えがありますぜ、この草っぱらに火をつけるんで、最も風上に回らなければなりませんがね」

「そりゃあいい、そのどさくさに、ドエライ別嬪とやらをいただくか、うまく行けば、ダイアナも生けどりに出来るかもしれんしな」


「すぐに始めませんか、いまならこちらが風上、風は前に向かっていますぜ」

「前方の川は、どんな川か?」

「流れが急でとても渡れませんって」


「ドエライ別嬪は逃げられんわけだな、しかし黒焦げになってはまずいか……」

「それがうまい具合に、女が野宿しているところは、川が湾曲して、丁度池のようになっているようで、まずその池に逃げ込むはず、しかし後ろは急流、前はあっしらが囲んで……」


 そんな話が聞こえます。

「いけないわ、なんとかしなくっちゃ……」


 ダイアナさん、そうは思いましたが、どうすればいいのかわかりません。

 とにかくダイアナは、連中の後ろからついて行きました。


 月明かりが女を薄く照らしています、夜目にも鮮やかなその女の美貌……

 ダイアナは胸がドキンとなりました。


「綺麗……」

 ダイアナの能天気は、筋金入りかもしれません。


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