第46話
一限の授業時間が終わり休み時間を迎える。
しかし、それは名前ばかりで全く休める時間ではない。
なんなら授業中の方がよっぽど休める。
そんな俺の心境などお構いなくに、アキトと壱岐が俺の席までやってきた。
「ナル君、何したいの?」
「成嶋、いま秋勇里の口から『お前にだけは言われたくない』ような言葉をかけられた心境はどうだ?」
「家に帰りたい」
そう言って俺は机に突っ伏した。
「重症だね」
「わかるのか?」
「当然、僕とナル君の仲だよ」
頭の上で二人がまた何かを始めた。
「しかしなんだあれは、どう見てもさっきのは……」
「わかるの壱岐くん?」
「どういう意味だ?」
「だって壱岐くんだよ。女の子の気持ちなんてわかるわけないじゃん」
「お前に言われたくない」
「僕、彼女持ち」
「……なんも言い返せねえ」
「人の頭の上で漫才始めるのやめてくれる?」
俺がそう言うと、アキトは珍しく真面目な表情を見せる。
この二日でアキトは一年分のシリアスを使い果たす勢いだ。
「で、結局どういう事? 抱き合ってたていう噂はマジなの?」
俺は、少しバツが悪そうな顔をしてその質問に答える。
「抱き合っては無い。ちょっと事故で壁ドンしたら足が滑った、そこに二上が倒れ掛かってきただけだ」
「なにそれ? 少女漫画のワンシーン? そんなことあるわけないじゃん」
「いや、ないことも無いんだ」
俺が弁解すると、壱岐が神妙な顔をして言う。
「つまり、噂は真っ赤なウソという訳でも無いのか」
「まぁ、そういうことになる」
壱岐は神妙な顔をする。アキトもやはりいつもの笑みは無い。
そして、アキトがその口を開く。
「なら、ナル君は二上さんの事をどう思ってるの?」
「どうって、何だよ?」
「狙ってるの?」
俺はアキトの単刀直入な言い方に少したじろぐ。
「んなわけないだろ」
俺は、本心からそう答える。
俺と二上はあくまで共犯関係でそれ以上でもそれ以下でもない。
「なら、あんまり誤解されるような真似するのはやめた方が良いよ。自分でも言ってたじゃん」
「わかってるけど、事情があるんだ」
「何の事情?」
アキトは間髪入れずに訪ねてくるが、俺はそれを話すことは出来ない。
「いいだろ、なんでも。ともかく、俺にそういう意図は無い。俺を信じろ」
その言葉に壱岐が反応する。
「本当だな? そう伝えるぞ」
誰のことを言っているのかわからなかったが、おそらく俺のことを噂している連中が、壱岐やアキトから何かを聞き出そうとしているのだと予想した。
「本当だ」
すると、壱岐はそれ以上何も言わずに自席に戻っていく。
一方のアキトは、いつもの人懐こい笑顔を浮かべて言う。
「ま、僕としてはそれもアリだと思うけどね」
アキトは自席に座っている二上の方を見ている。
「勘弁しろ。俺に振られろってのか?」
「えー、あれは脈ありだと思うけどなぁ」
確かに、事情を知らない人間から見ればそうなのかもしれない。
だが、裏を言っている人間からすればそれはあり得ないことだ。
「お前も女心がわかってないな」
「それミクちゃんにも言われたんだよね……。ナル君、僕どうすればいいの?」
「彼女持ちが独り身の男に聞くなよ」
「だったら彼女作りなよー」
アキトの言葉に俺は少し想像してしまった。
俺の周りにいる女子は三人もいるが……。
いや、よそう。今はそう言うのは無理だ。
こんな状況で考えることじゃない。
とりあえず、目の前の問題にケリを付けないといけない。
そんなことを考えていると休み時間の終了を告げる鐘が鳴る。
アキトは自席へ戻り、俺はようやく休憩時間に突入だ。
そして、午前中はなんとか乗り切った昼の事だった。
俺は、いつものように学食へ行くためにメンバーへ声を掛けに向かう。
しかし、俺の足取りは重かった。
原因はただ一つだ。
「鳴希くん、私もご一緒していいですか?」
アキトたちと合流して教室を出ようとした瞬間、二上が声を掛けてきた。
俺は事前にこのことを知らされていたが、それを知らない他のメンバーは面食らっている。
「えーっと、ナル君……?」
絶句したままのマエ、こちらを全く見ていない久遠と壱岐を代表してアキトが俺に尋ねてくる。
普段のアキトならば、いつもの人懐こい声で周りの意見お構いなしに快諾していただろう。
「……みんな、良いか?」
俺は、なるべく平静を装ってそう聞いた。
すると、停止していたマエが笑顔を浮かべて言ってくれた。
「モチロンだよ! 一緒に食べよ双葉ちゃん!」
「はい、ありがとうございますマエさん!」
こういう時、マエの明るさに救われる。
俺は、なるべく嫌な顔を出さないようにしながら学食までの道を進む。
移動中はアキトが馬鹿話をしながら二上と会話を繋げていた。
すると、それを抜けだしてきたマエが俺の横に並び小声で言う。
「ねぇ、ナルくん。双葉ちゃんと何かあるの?」
マエは疑うというよりも、何かに気付いて探る様な調子で俺に聞いてきた。
俺はいっその事、マエにはすべて明かしてしまおうかと考えたが、二上の了承なくそれをするわけにもいかず、言葉に迷う。
しかし、俺は俺を信頼してくれるマエの気持ちに応えたいと思った。
「詳しいことは何も言えない。けど、何があっても俺を信じてくれ」
マエは俺の真剣な表情を見ると、笑みを浮かべた。
「わかった、信じる」
「悪いな」
そう言うとマエは先頭を進むアキトたちに合流するために走っていった。
俺は、昼食後の二上との話し合いのことを考えながらその後ろをついて行く。
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