第113話 奇跡の結果

やがて海上からも、三隻の船が近付いてきてはしけを下ろし、ピスガ山の西側のルートから、ラフレシア軍の兵士達が続々と山を登ってきた。

彼らに護られながら、生き残った難民たちの避難が始まった。


消耗の激しいアマリリスは、ヘリアンサスに付き添われ、ラフレシア人の水兵に担架で運ばれていった。

西側の斜面を海まで下る長い道のりは、びっしりと人で埋め尽くされ、頭が上がったり足が上がったりする担架の乗り心地に終始イライラしていた。



夢の中のように静かだった前後の人の列に、感嘆のさざめきが起こった。

何だろうと頭を持ち上げたが、特に変わった様子は見えない。

口々にのぼる言葉も、横になっていると聞き取りづらかった。

ただ、みんなが斜面の脇の茂みの方を指差しているのが分かった。


何だろう?


しばらくしてようやくわかった。

『シノの花が咲いている』と騒いでいたのだ。

そう思って目を凝らすと、大人の背丈ほどもあるシノの葉の繁りの下に、小麦の穂のようなものがびっしりと連なっている。

白く雪をまぶしたように見えるのは、花弁だろうか。


「シノが咲いてるよ、おねぇちゃん!

ほらほら、シノの花だよ」


ヘリアンサスが、そこいらの茂みからもぎ取ってきた一房をアマリリスの鼻先にかざした。


アマリリスは夢見るような目差しで、そっと、その稀少な現象の成果に触れた。

にわかに、その表情が険しく、苦しげになった。


「じみなの。。。

言われなきゃ、分かんないね。」


アマリリスはついと顔を背け、こぼれ落ちそうになる涙を、必死に気付かれまいとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る