落城

第112話 陥落のとき

今や風前の灯となったウィスタリアの陣地では、最後の、絶望的な戦いを挑んでいた。

土嚢の上に何列にも伏臥ふくがした男たちは、命よりも貴重に温存してきた、ありったけの銃弾を投入し、

真横にいるものが被弾して倒れるのも構わず、みよし岩めがけて撃ちまくった。


砲弾が立て続けに防壁の上に落ち、爆煙が全てをめちゃくちゃに吹き飛ばした。

ウィスタリアの火線は、完全に沈黙した。

舳岩からときの声が上がり、アムスデンジュン軍が一斉に抜刀した。

半月刀の林が灼熱の太陽にギラリと光り、生き残っているウィスタリア人を一人残らず切り刻むべく、

アムスデンジュン軍は突撃の構えに入った。



そのとき、空気を切り裂く音と共に何かが彼らの頭上を通過し、

追い詰められたウィスタリア人と、迫り来るアムスデンジュン軍を隔てる鞍部で炸裂した。

続けて一弾、もう一弾。


振り仰ぐと、太陽を背に頭上に浮かぶ、一隻の黒い影があった。

三連の推進翼がゆっくりと回り、いくつもの砲門が、対峙する2つの集団の間に向けられていた。

船底には、ラフレシア海軍の紋章が描かれていた。



二つの陣営に、短い沈黙が流れた。

やがて崖ぎわのウィスタリア人の側からぽつぽつと声があがり、

一体この疲弊しきっていた集団の、どこにこんな元気が隠れていたのだろうと思うような大歓声が、ピスガ・ジェベルに響き渡った。


アムスデンジュン勢はいまいましげに、それを眺めていた。

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