第111話 53日目

そして、53日目。


アマリリスは日覆いの帆布の下で、身動きもせずに横たわっていた。

暑さと渇きにやられ、もう起き上がることが出来なかった。


ここ何日か、そうやって死んで行く同年代や、もっと小さな子供達を、大勢見てきた。

こうなってからは、数時間で確実に命を落とす。


そばでヘリアンサスが、なすすべもなく彼女を見つめていた。

アマリリスは眼球だけ動かして彼を見た。

ひ弱だとばかり思っていたこの弟は、意外にも、彼女よりは長生きしそうだった。


貴重な水分を使ってとめどなく涙を流す弟を叱咤しようとしたが、

干からびた喉がひゅうひゅう言うだけで、声が出なかった。


なぜもっと早く、あの断崖で、一思いにけりをつけてしまわなかったのだろう。

ぼやけはじめた意識の中で、アマリリスはずっとそればかり考えていた。



にわかに周囲が騒がしくなり、武器を携えた、満身創痍まんしんそういの大人たちがテントの間を走り回っていた。

前線防衛隊の人たちがここにいるということは・・・

とうとう、みよし岩を敵に占領されたのだ。


ひゅるひゅると、打ち上げ花火のような音がして、爆発音が響きわたり、地面が揺れた。

舳岩から、迫撃砲を撃ち込んできているのだ。


キャンプの前の方で、懸命に応戦するライフルの音が鳴っていた。

しかし敵からの攻撃はひるむ気配もなく、砲撃はだんだんと近付いてくる。


榴弾がキャンプの中に落ちた。

大勢の人が一瞬にして吹き飛ばされ、アマリリスの上を覆っていた帆布も、爆風に引き剥がされた。

白い大きな布は、土煙と一緒に空高く吹き上げられ、上空でいくつもの銃弾の穴が空いた。


恐怖からしがみついてきたのか、よもやその薄っぺらい体で姉を守ろうというのか。ヘリアンサスの体重以外には、アマリリスはもう何も感じなかった。

構わない、これで少なくとも、七転八倒して狂い死にせずに済む。


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