第107話 絶滅宣言

非常に滑稽なことに、今頃になって、カリブラコア皇帝により、ウィスタリア人の《絶滅》令が下された。


《民族配置適正化法》の名で始まった強制移住の施策の結果は、概ね想定の範囲内の推移をたどっていた。


当然に想定されていたはずの犠牲の姿が、次々と現実のものとなるにつれ、タマリスク上層部に、この災厄を決して明るみに出してはならないという確信が生まれた。


滑稽だったのは、いまさら改まって絶滅を指示するほど、ウィスタリア人が生き残っていないことだった。


国外追放の行進が向かった先、コルムバリアの砂漠の町、ユリオプスデージでは、通りという通りをウィスタリア人の死体が埋めつくし、さらに際限なく積み重なっていた。


ウィスタリアの各地に潜むウィスタリア人残党の狩り出しは、アムスデンジュン人の住民にも多大な犠牲を出しつつ、順調に進んでいた。


武器を持って立て籠ったのは、全土で3箇所、うち2箇所は攻略が完了し、残るはピスガ山のみ。

それも時間の問題だ。


しかし皇帝はウィスタリア人を恐れていた。

もし僅かでもウィスタリア人が生き残ったら、彼と彼の帝国は、人類史上最悪の犯罪を行った者として、歴史に名を残すことになるだろう。

何としてでも、ウィスタリア人は最後の一人に至るまで、根絶やしにしなければならなかった。

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