第105話 砲弾と信号弾

アムスデンジュン軍が歩を進めるに従って追いやられ、居住区は今ではピスガ・ジェベルの山頂部に限られていた。

最初5000人いた避難民も、戦闘や、より多くは飢餓や病気によって、目に見えて数が減っていた。

それでも夥しい人数が、肩を寄せ合い、時が来て過ぎるのを待っていた。


足の踏み場もない、稠密ちゅうみつな居住区のほぼ中央に、周囲に数歩分の地面が開けた、急ごしらえの差し掛けのようなものがあり、中には、木箱に入った十数発の砲弾が置かれていた。


5合目の砲台を放棄したときに、残っていた砲弾を運び上げてきたものだった。

武器としての使い道を期待してのことだったが、現状の、遠距離での射撃の応酬では、出番がなかった。


ごく小さな子供を除いて、誰もが知っていた。

あの日、多くの者が目の当たりにした、この不吉な球体の破壊力は、彼らを生き延びさせるためではなく、生存の苦しみを終わらせる時を、彼ら自身で決めるためにある。


それは苦しくも、穏やかな心を生む絶望の姿だった。

一方で、木箱の上には、重装歩兵部隊との戦いで大活躍し、やはりその後使い道のなくなった、あの信号弾射出銃があった。

トレヴェシア海の、見渡す限り平坦な水平線に、船舶の影が見えるようなことがあれば、救難信号を送るため、3発の閃光弾が添えられている。

その希望は苦く残酷に、やっと静謐せいひつに入ろうとする心を掻き乱し続けた。

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