第103話 37日目

籠城開始から、37日目。


東の荒れ地の彼方から、土煙が近づいてきた。

距離がありすぎて望遠鏡でもはっきりとは確認できないが、麓から10キロメートルくらい、タマリスク軍の野営の周囲に、多数の兵士が集結しつつあるようだった。


39日目


1万5000に及ぶ敵部隊が、ピスガ・ジェベルに押し寄せてきた。

指揮するのはタマリスク兵だが、その主体は、部族ごとの兵装もとりどりの、アムスデンジュンの戦士だった。


少数部隊での短期決着を諦めたタマリスク軍が、ウィスタリアの国中からかき集めてきた軍団だった。

お世辞にも近代化されたとは言い難い、弓矢から銃に変わっただけで、一千年来の遊牧騎馬民族そのままに見える兵士たちは、

これといった戦略も戦術もなく、真正面からピスガ山に向かってきた。


ラークスパー中佐の言った通り、大砲は大して役に立たず、麓の平地をこちらに向かってくる敵を、15〜6人吹き飛ばすことが出来た程度だった。

それも、木立に覆われた山肌に敵が取り付くと、まるで役に立たなくなった。


ウィスタリア人は、これまで通り勇敢に戦った。

地の利に加え、タマリスク軍から奪った高性能の武器があるため、戦闘要員の損耗率では、ウィスタリア側が大きく勝っていた。


しかし、戦闘が続くにつれ、ウィスタリア人の側に、もはやこの戦いを支え抜くことは出来ないという予感が強くなっていった。


威力の高い、デリケートな武器を駆使して効率よく、なるべく味方の損害は少なく成果を上げようとするこれまでの敵であれば、

その裏をかいて返り討ちにすることも出来たが、単純に物量を頼りに押してくる相手は、それを上回る攻撃で押し返す他なかった。


しかもアムスデンジュン軍は、味方が銃弾に倒れようが、落石に押し潰されようが、まるで意に介さない。

追い詰められた狩人に群がる狼の群れのように、倒しても倒しても、次々と屍の背後から現れて襲いかかってくる。

あるものはウィスタリア人の火線の前に躍り出て、蜂の巣になりながら銃弾を撒き散らし、あるものは自ら爆弾を抱いて、塹壕にとび込んでくる。

その悲愴なまでの凶暴さは、これまでにない恐怖でウィスタリア人を震え上がらせた。


次第にゆっくりと、ウィスタリアの防衛線は、山の上方へと押し上げられていった。

一度放棄した陣地を、取り戻せる見込みはもはやない。

出来ることは、四方八方から迫り来る敵が残された空間を塗りつぶす、その最後の日を、できるだけ遠ざけておくことだけだった。

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