第95話 贈り物

夜が明けた。

ウィスタリア人は、信じられない思いで、自分達にもたらされた幸運を眺めていた。


自動小銃が170丁、弾丸が5000発以上、軽機関銃が35丁、榴弾射出銃が27丁、、といった物資が、一夜にして彼らの物になった。


これだけでも十分過ぎるほどの戦果なのだが、今回の戦闘でウィスタリア人が獲得した武器の中には、

それ以外の全部がかすんで見えるほどの、しかし誰も、それをどう扱ってよいのか分からない代物もあった。


「こんな物を、よくまぁここまで。。。」


周囲に散乱する死体に寄ってきた、小うるさい蝿を追い払いつつ、ウィスタリア人はその巨大な鋼鉄の塊を眺めた。


砲身長が約2メートル、口径14センチ、長い後脚を持つ、2輪の砲架に載った大砲である。

同じ型のものが5門、縦列に並んでいた。

牽いてきたあわれなロバは、挽き肉のようになって足元に横たわっている。

砲身には、高速徹甲弾が鋳鉄を抉った傷が無数に刻まれているが、砲口は微動だにせず、空を狙っている。


「リンデンバウム、スコリア工場製の榴弾カノン砲ですよ。

重量が2トンもあって、分解も出来ないので、こういった山岳地帯で使用するには不向きなのですが。」


大砲を取り巻く人垣の後ろから、例の『情報提供者』の声がした。

ウィスタリア人達は、複雑な表情でそちらを振り向いた。


その胸には、タマリスク軍の階級を表す徽章が、手首には手錠が光っている。

ウェルウィチアよりもやや若い年齢に見えるその男は、自分の上に集まる視線には構わずに続けた。


「あそこの高台から(手錠の鎖をじゃらじゃら鳴らしながら、男は左手の高台を指した)、あなた方の『城』を直接砲撃するつもりでした。

この位置からなら、何とか曲射圏内に納めることができます。」


「折角の贈り物だ、

出来れば、山頂まで運び上げて防衛に役立てたいのだが。

可能でしょうか?」


「無理ですね。」


ウェルウィチアの問いかけを、男は淡々と却下した。


「まず、重量がありすぎます。

ここまで運搬するのも相当の苦労だった筈です。

ロバがいたとしても、この先の急勾配を運び上げることは不可能でしょう。

第2に、この手の兵器は、固定目標を集中攻撃してこそ意味があります。

林の中を動き回る歩兵に、やみくもに砲弾を撃ち込んでも、運の悪い1、2名が怪我をする程度でしょう。」


未知の物体に過大な期待を寄せていた一同の表情に、失望の色が広がった。


相変わらず淡々と、男は続けた。


「ですが、この機種には、ある非常に優れた性能があります。

水平距離4キロメートル以内の直接照準であれば、針の穴を通すような、精密な射撃が可能なのです。


そしてこれは、古来からの兵学の基本ですが、攻撃は全てに勝る防衛でもあります。」

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