第91話 最後の血の一滴まで
山頂からでないと分からない山の西側に、断崖の間を縫って続くルートがあった。
途中いくつか難所があるが、この道を通って、海岸まで降りられることが分かっていた。
このルートの途中で左に折れ、山腹を南に巻けば、麓の平地に出る。
そこから大きく迂回する形で進めば、山の東麓に展開するタマリスク軍の背後に出られそうだった。
ここまでは、さして困難はない。
問題はその先だった。
ラフレシア支配地域までの最短は、トレヴェシア海の海岸沿いに北上するルートだが、
行く手には、カラカシスの屋根、ラフレシア帝国領の最高峰でもある、大カラカシス山脈が聳えている。
手持ちの地図を確認すると、ピスガ・ジェベルのすぐ北の位置から、山脈北側の、最寄りのラフレシアの町までの約130キロメートルの海岸線は、ほぼ全長が、断崖を示す記号で占められている。
空を舞う鳥でもなければ、生身の人間がそんな所を通り抜けられるとは思えず、当初からあったこの案は構想のまま保留されてきた。
しかし今、このまま籠城を続けて救いを待つことの方が、生存につながる可能性は低くなってきていた。
31日目の夕方、3人の青年が、ピスガ・ジェベルを出発した。
彼らには、次のような手紙が託されていた。
『この手紙を受け取られる、提督、長官、あるいはそれ以外の、
私たちと同じく、ラフレシア皇帝の臣民であるすべての方へ。
5000人のウィスタリア人が、ウィスタリア西部、ピスガ・ジェベルにて、食糧、武器弾薬の乏しい中、タマリスク帝国軍に包囲されています。』
手紙は、災厄の始まり、行進と逃走、どうして彼らがこの山に立てこもることになったかを説明し、次のように結ばれた。
『私たちの共通の神、カガセオの名においてお願いいたします。
どうか彼らを助け、ラフレシア国内の安全な土地に送り届けて下さい。
それが不可能なら、せめて老人と女子供だけでも助けてください、そしてどうか、武器と食糧を提供して下さい。
そうすれば私達は、最後の血の一滴まで、この岩山で戦い続けます。』
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